拝啓、可愛い妹へ。お兄ちゃんはそれなりに元気です。

鳴き砂

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第二章 最強のお兄ちゃんは帝都へ行く

不思議な青年(side.スティヒ)

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私の後を黙々と追う青年は、会った時から不思議な魅力を感じた。自分よりも体格の良い近衛にも物怖じしなければ、対等に会話をする。
カルサや私がいる時は、陛下に対して比較的丁寧な言葉で話しているが、恐らく二人きりの時は対等に会話をしていると思う。それを咎めようとも思わないし、この青年を前にすると咎める気持ちも無くなる。

お喋りなのかと思えば、そうでもない。近過ぎず遠過ぎない、ほどよい距離感が心地よい。普段は他者に心を開かないラルビカでさえ、彼には隙を見せている。基本的に面倒見の良いタンザナやヴァーダが、より一層彼を気にかける気持ちも理解できる。そして私が、彼に毒の知識を授けようとしたことは、私自身が一番驚いているが、まあ彼なら良いかなと思ってしまった。

「コハクは飲み込みが早いんだな。」

「えへへ。そうかなあ?」

照れて笑う彼を見て気づいたことがある。彼は、歳の離れた大人を前にすると、実年齢より幼く話す癖がある。何故なのか?

「カルサの爺さんが、きみに剣術を教えたがった気持ちが分かる。カルサがきみを可愛がるのも、陛下がきみに・・・・って、おい!大丈夫か?」

ふと、自分の背後からコハクの気配が消えたので振り返った。彼は壁に寄りかかるようにして、床に膝をついていた。

「コハク?」

すぐに駆け寄って呼びかけると、コハクは眠っていた。
・・・・どういうことだ?カルサからは、特に彼に持病があるなどとは聞いていない。

「宰相!どうされました?!」

見張りの近衛が、コハクと私の元へすぐに現れた。

「コハクが急に眠ってしまった。」

「貧血、とかではなく・・・・?」

近衛が首を傾げた。

「ああ。寝ているだけのようだ。」

とは言え、気絶に近いような気もする。

「念のため、医務室に運ぶ。悪いが先に行って、医師へ連絡を入れて来てくれないか?」

「その必要はない。」

私が見張りの近衛に指示を出すと、聞き慣れた声が回廊に響いた。目の前の近衛が深々と頭を下げた。

「陛下!」

「コハクは私の部屋で休ませる。」

「しかし、突然倒れるように眠ったので、医師に診せた方がよろしいかと?」

「疲れ過ぎただけだ。」

疲れ過ぎ?手合わせのことだろうか?
けれどもそれならば、昨日のヘミモルフィの一件の方が疲れるような気もするが?

「コハクにとっては、お前たちとの手合わせの方が学ぶべき点が多かったのだろうな。」

陛下が私の心を読み取ったように言った。

「恐ろしいほどの吸収力だっただろう?お前たちが何でも教えたくなるくらいには。」

「え、ええ。」

「コハクは、私の弟や弟の近衛からは何一つ学んだことはないのだろう。同じ数の近衛との手合わせでも、一人ひとりから何かを学び取っていたのならば、疲れて当然だ。」

カルサのやつ、私に報告を怠ったな。もしくは、敢えて報告をしなかったのか?相変わらず食えない男だ。私は心の中で舌打ちをした。

「陛下。コハクは、陛下と同じ能力を持っているのですか?」

「そうだ。」

ならば、ガイトとも同じか。そういう大切なことは、事前に誰か教えておいてくれ!絶対に詰め込み過ぎただろうが!

「・・・・私も失念していた。」

「いえ、カルサの責任です。」

「カルサも忘れていたのだろう。色々とあったからな。」

陛下は珍しく困ったように笑うと、コハクを抱き上げて歩き始めた。私は近衛を下がらせて、陛下の後に続いた。

「コハクの能力については、ヴァーダたちとは共有してよろしいでしょうか?」

「ああ。他の三人には、スティヒから伝えておいてくれ。今日はきっと目覚めないだろう。」

ヴァーダの残念がる姿が浮かんだ。あいつ、手合わせが終わったら、そそくさと執務室に戻って、コハク専用の教材作りに勤しんでいたからな。
事情が事情だから仕方あるまいが。

「かしこまりました。コハクに何かを教える際は、一日一名までといたします。」

「そうしてもらえたら心強い。コハクはまだ、帝都にも城にも慣れていないから、無意識に何でも吸収してしまうのだろう。」

「我々も、彼に夢中になり過ぎました。」

「その気持ちは分かる。」

陛下が寝台へとコハクを寝かせた。私は、一礼をすると陛下の自室を後にした。今夜も、不思議な青年は陛下の抱き枕となるのだろう。
さて、文殿に行きたがっていたから、明日はヴァーダをコハクの担当にさせよう。

「その次は、私でいいよな・・・・」

なんだ、結局私が最後じゃないか。それを少し不満に思う自分と、明後日を楽しみに思う自分がいた。

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