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第四章 最強のお兄ちゃんは帝国へ帰る
夜中の密話(side.ハウラ)
私は、弟の膝を枕にして小さく蹲って寝てしまったコハクくんを寝具の上へと運ぶと、ウスイから連絡を受け取るために一度外へと出た。夜半に行動することが多いウスイは相変わらず黒装束で、まともに顔を見たのは随分と前になっていた。
「帝都の方でスティヒに直接連絡が繋がるように手配した。・・・・ただの土産じゃないのだろう?」
「ああ。隣国が保存していた帝国の史料だ。確実に陛下の元へ届けてくれ。」
「了解。・・・・あのさ、ハウラさん。俺を隣国から帝都へと配置換えしてたならひと言くれよ。さっき北方のやつから聞いて初めて知った俺の気持ちが分かる?すんごい居た堪れなくなったんだが。相手も、え?ウスイさん知らなかったんですか?って焦ってたしよう。」
ウスイは普段から寡黙な男だが、私への苦情となると饒舌になる。帝都に戻ったら裏切り者の件で頻繁に顔を合わせることになるだろうから、その時に伝えれば良いかと思っていたが、不満だったようだ。
「暫くは私の近くに控えているのだから、急ぎで伝えるほどでもないかと・・・・」
「お前、ほんとそう言うところだからな。帝都に帰ったら覚えておけよ。」
黒装束で表情は分からないが、本気で怒られている感じでもない。何をされるのだろうか?
「分かった。お前の望むままにしてくれて構わない。」
「言質取ったからな。・・・・それじゃあ。」
凄まじく低い声で何か言われた気がするが、ウスイは見事に姿を眩ましてしまった。私は帝都へ戻らない方が良いだろうか?
コハクくんは、またウスイと会えなかったことを残念がるだろうな。いつか会えるといいが・・・・。
◇◇◇
「兄貴」
「なんだ?」
不穏だったウスイと別れてすぐにカルサがやって来た。
「コハクの親のことだけど」
「・・・・陛下の指示通りに進めるべきだ。」
夕餉のコハクくんの様子から弟にも思うところがあったのだろう。今、私の隣りで無心に海を眺めている男は、カルサとしてではなく弟として向き合う相手なのだろうな。
「そうだよな。しかし、コハクはどう思うか。」
「コハクくんのことだ。知ったら立ち会うだろう。だからこそ秘密裏に進める必要がある。」
「無理じゃねえか?親が牢にいるのは知られているし、帝城に帰れば噂くらいは耳にするだろうよ。」
そうだ。それでも処刑の執行日は知らせないのが陛下からくだった命だ。
「預かり知らないところで両親が処刑されていたら彼の傷になることも明らかだ。・・・・けれども私は、正直どちらであっても彼の心の傷になるのならば、見ない方が良いと思ってしまう。人の処刑など私たちだけで完結させてしまえば良いものだ。」
「・・・・あんなに良い子が今も思い詰めた顔をしているのは、あまり望ましくない。」
「同感だ。」
もっと幼い頃にガイトと出会えていたら、どれだけ良かったことか・・・・
たられば論は好まないので口にはしないが、コハクくんと行動している間に彼の運命がもう少し優しかったらと感じた場面は多々あった。
「あれでも自分の親だと認識できるくらいには共にいたからなあ。あいつの性格的にも親を憎むことはできないだろうし。」
「コハクくんはチャロちゃんに謝ったんだ。自分の両親がしたことだから、と。きっと、明日にはチャロちゃんの両親にも謝ろうとするだろう。」
「きついな・・・・」
親の犯した罪を子どもが生きて背負い続ける姿も、その逆も私たちは仕事柄か他人より多く見てきた。
「ああ。あれは、いつまで経っても慣れないものだ。」
「甘やかすしかないな。」
コハクくんを甘やかすことは大賛成だ。生真面目な彼には、こちらが甘やかすくらいが丁度良い。
「ああ。しかし、お前は陛下に怒られない程度に加減してくれ。さっきのは仕方なかったにせよ、些か距離が近すぎるようにも見えた。」
弟のコハクくんに対する態度は、甘やかすと言うより、勘違いされそうな甘さを含んでいるから気掛かりだった。
「えっ?!いやいや、コハクは可愛い弟みたいなもんだからさ!」
まあ、そんなものだろうとは思っていたが。あからさまに驚く弟にため息が出た。
「こいつ弟みたいな存在、妹みたいな存在って言って現れる恋人の謎の友だちほど警戒するやつはいない、らしい。」
私はいつか聞いた忠告をそのままカルサに伝えた。
「こわ・・・・それ、誰情報?」
「ウスイだ。」
「ウスイか。あいつの情報なら確実だな。気をつけよう・・・・あー。つまり、兄貴は過去にやらかしたんだな?」
やらかしてはいない。しかし「何が弟だ。あいつ下心丸見えじゃねえか。」と言いながら何故か私を叱りつけてきたウスイなど二度と御免だ。私は何年か前のある出来事を思い出してげんなりした。
弟からはコハクくんに対する下心は見えなかったので本心で言ったのだろうが、陛下の不興を買ってはいけない。常識人であるウスイがあれほど怒ったのだから、とりあえず伝えておいて間違いはないはずだ。
私は「後学のためにその時の状況を詳しく教えてくれ!」と食い下がるカルサを無視して、チャロちゃんたちの家へと踵を返した。
「帝都の方でスティヒに直接連絡が繋がるように手配した。・・・・ただの土産じゃないのだろう?」
「ああ。隣国が保存していた帝国の史料だ。確実に陛下の元へ届けてくれ。」
「了解。・・・・あのさ、ハウラさん。俺を隣国から帝都へと配置換えしてたならひと言くれよ。さっき北方のやつから聞いて初めて知った俺の気持ちが分かる?すんごい居た堪れなくなったんだが。相手も、え?ウスイさん知らなかったんですか?って焦ってたしよう。」
ウスイは普段から寡黙な男だが、私への苦情となると饒舌になる。帝都に戻ったら裏切り者の件で頻繁に顔を合わせることになるだろうから、その時に伝えれば良いかと思っていたが、不満だったようだ。
「暫くは私の近くに控えているのだから、急ぎで伝えるほどでもないかと・・・・」
「お前、ほんとそう言うところだからな。帝都に帰ったら覚えておけよ。」
黒装束で表情は分からないが、本気で怒られている感じでもない。何をされるのだろうか?
「分かった。お前の望むままにしてくれて構わない。」
「言質取ったからな。・・・・それじゃあ。」
凄まじく低い声で何か言われた気がするが、ウスイは見事に姿を眩ましてしまった。私は帝都へ戻らない方が良いだろうか?
コハクくんは、またウスイと会えなかったことを残念がるだろうな。いつか会えるといいが・・・・。
◇◇◇
「兄貴」
「なんだ?」
不穏だったウスイと別れてすぐにカルサがやって来た。
「コハクの親のことだけど」
「・・・・陛下の指示通りに進めるべきだ。」
夕餉のコハクくんの様子から弟にも思うところがあったのだろう。今、私の隣りで無心に海を眺めている男は、カルサとしてではなく弟として向き合う相手なのだろうな。
「そうだよな。しかし、コハクはどう思うか。」
「コハクくんのことだ。知ったら立ち会うだろう。だからこそ秘密裏に進める必要がある。」
「無理じゃねえか?親が牢にいるのは知られているし、帝城に帰れば噂くらいは耳にするだろうよ。」
そうだ。それでも処刑の執行日は知らせないのが陛下からくだった命だ。
「預かり知らないところで両親が処刑されていたら彼の傷になることも明らかだ。・・・・けれども私は、正直どちらであっても彼の心の傷になるのならば、見ない方が良いと思ってしまう。人の処刑など私たちだけで完結させてしまえば良いものだ。」
「・・・・あんなに良い子が今も思い詰めた顔をしているのは、あまり望ましくない。」
「同感だ。」
もっと幼い頃にガイトと出会えていたら、どれだけ良かったことか・・・・
たられば論は好まないので口にはしないが、コハクくんと行動している間に彼の運命がもう少し優しかったらと感じた場面は多々あった。
「あれでも自分の親だと認識できるくらいには共にいたからなあ。あいつの性格的にも親を憎むことはできないだろうし。」
「コハクくんはチャロちゃんに謝ったんだ。自分の両親がしたことだから、と。きっと、明日にはチャロちゃんの両親にも謝ろうとするだろう。」
「きついな・・・・」
親の犯した罪を子どもが生きて背負い続ける姿も、その逆も私たちは仕事柄か他人より多く見てきた。
「ああ。あれは、いつまで経っても慣れないものだ。」
「甘やかすしかないな。」
コハクくんを甘やかすことは大賛成だ。生真面目な彼には、こちらが甘やかすくらいが丁度良い。
「ああ。しかし、お前は陛下に怒られない程度に加減してくれ。さっきのは仕方なかったにせよ、些か距離が近すぎるようにも見えた。」
弟のコハクくんに対する態度は、甘やかすと言うより、勘違いされそうな甘さを含んでいるから気掛かりだった。
「えっ?!いやいや、コハクは可愛い弟みたいなもんだからさ!」
まあ、そんなものだろうとは思っていたが。あからさまに驚く弟にため息が出た。
「こいつ弟みたいな存在、妹みたいな存在って言って現れる恋人の謎の友だちほど警戒するやつはいない、らしい。」
私はいつか聞いた忠告をそのままカルサに伝えた。
「こわ・・・・それ、誰情報?」
「ウスイだ。」
「ウスイか。あいつの情報なら確実だな。気をつけよう・・・・あー。つまり、兄貴は過去にやらかしたんだな?」
やらかしてはいない。しかし「何が弟だ。あいつ下心丸見えじゃねえか。」と言いながら何故か私を叱りつけてきたウスイなど二度と御免だ。私は何年か前のある出来事を思い出してげんなりした。
弟からはコハクくんに対する下心は見えなかったので本心で言ったのだろうが、陛下の不興を買ってはいけない。常識人であるウスイがあれほど怒ったのだから、とりあえず伝えておいて間違いはないはずだ。
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