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第四章 最強のお兄ちゃんは帝国へ帰る
綺麗な人は名前が長かった!
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水の落ちる音がする。たくさんの水が、きっと落ちている。暗闇の中、ひんやりとした冷気に誘われてゆっくりとまぶたを持ち上げた。
「ん・・・・」
「気が付いたか?」
ぼんやりとした視界にきらきらと輝く光が見えた。
「ぎんいろ・・・・きれい・・・・」
僕は光に手を伸ばした。それは、銀色の美しい髪だった。しばらくの間、長い髪を指に絡めて眺めていると、されるがままになっていた相手がため息を吐いた。
あ!初対面の相手に失礼なことをしてしまったかな?
けれども相手は怒ることもなく、僕の背中に腕をまわし、ゆっくりと起き上がらせてくれた。僕は岩肌に直接敷かれた簡素な寝具の上に横になっていたようだ。
そして、どうやらここは、洞窟のような場所らしい。それも、滝壺のすぐそばだ。何故なら、陽の光が差し込む入り口は落下してゆく水で塞がれているし、洞窟全体に水が落ちる大きな音が響いているからだ。
「ほら、水を飲め。」
呆けていると、目の前に水が入った碗を差し出された。言われるがまま一口飲む。途端に甘くて冷たい水が口の中を潤し、自分が随分と喉を渇かしていたことを知った。
「ぷはっ!・・・・ありがとう」
僕はあっという間に碗の中の水を飲み干してしまった。空になった碗を取り上げた綺麗な人が、僕の額にそっと手を当てた。
「・・・・どこか痛むところはあるか?」
あまり感情が読めない白い瞳に訊ねられ、うーんと首を傾げる。痛いところ、ね。
「ちょっとだけど、右のかかとの後ろあたりが痛いかな・・・・」
本当に、ちょっとだけなんだけれどね。
銀色の白い綺麗な人は「ああ。」と言った。
「腱を切っているからだ。お前は崖の下にいた。どんな転がり落ち方をしたのか?頭は平気か?」
腱を?!
えー!いつ切っちゃったのかな?
・・・・と言うか、今、頭は平気か?って聞かれたよね?
馬鹿じゃないのか?って意味?どんな転がり落ち方を?馬鹿な転がり落ち方をしたのだろうってこと?
この人、綺麗だけど失礼な人なのか?!
「むぅ・・・・」
「いや、そう言う意味ではなく。頭痛や吐き気はしないか?頭を打っていそうだからだ。・・・・血が出ていた。」
ぶすくれたら、きらきらの綺麗な人が少し慌てた様子で説明をしてくれた。僕はぺたぺたと自分の頭を触って確かめた。・・・・包帯が巻かれている。
「ほんとだ!ごめんなさい・・・・」
「気にするな。」
崖から転落したところを助けてくれて、手当てまでしてくれた上に疑った自分を許してくれるだなんて。できた人だ・・・・
「あの、ここ何処?滝の音が聞こえるけど・・・・」
「ここは北方の森の奥だ。とは言え、北方の民が立ち入ることはまず無いが。」
ほっぽう・・・・北方かな?ふーん。
「・・・・あなたは?」
「クォンタムクアトロシリカだ。」
綺麗な人は名前が長った。言えるかな・・・・?
「くあんた・・・・しりか・・・・」
言えなかった・・・・。
「クォンタムクアトロシリカ」
「こんたむくわとろしりか」
「・・・・シリカで良い」
すぐに諦められたようだ。いずれしっかり言えるようになるんだから!
「シリカ!!!・・・・ありがとう!!!」
やっつけで妥協された名前を呼んで、お礼を伝えた。ぐわーんと大きな声が響き、少しだけ眩暈がした。
「お前の名は?」
「ああ、えっと・・・・あれ?」
あれ・・・・?
名前を聞かれて答えようとしたけれど、僕の口から名前が出てくることはなかった。ぱくぱくと口だけ動かしていると、シリカが眉間に皺を寄せた。
「落ちた衝撃で忘れたのかもしれない。やはり、頭を強くぶつけたのだろう。」
「あれまぁ・・・・」
「記憶も厄介だが、どのみち、その足では暫くは動けないだろう。怪我が治るまではここにいて良い。記憶もそのうち思い出すかもしれない。」
え?!いいの?!
今すぐ出て行けって言われたら上手く歩けないし大変だなあと思っていたけれど、歩けるようになるまでいても良いだなんて!
「助かる!ありがとう!」
「怪我もそうだが、記憶が無いと色々と困るだろう?」
「うーん。歩けないことが不便なくらいで、あとはあんまり困ってないかも。」
正直、記憶を取り戻す必要性が全くと言っていいほど感じられない。怪我さえ治れば、このまま問題なく一人で生きていけそうな気さえするのだから。
「仮の名は私が付けてやろう。」
「えっ?」
「名無しのままでは私が不便だからな。そうだな・・・・アンバーはどうだろうか?お前の瞳の色にちなんだ呼び名だ。」
僕は自分の瞳の色すら思い出せないけれど、アンバーってことは琥珀色なのかな?
「アンバー・・・・」
「気に入らないか?私がかつて愛した者と同じ名だ。お前はあいつによく似ている。」
ん?何だか重くない?シリカが好きだった人の名前か。悪くないけれど・・・・うーん。
端正な顔に似合わず、お行儀悪く地面に胡座をかいて座っているシリカは満足そうにしている。シリカが一番気に入ってるじゃない。まあ、好きな人の名前だから仕方ないか。
「うん。気に入った・・・・」
重いけれどね!でも、名前を付けてもらったことは何だか嬉しい。
「そうか。それでは、お前は今日から暫くアンバーだ。」
「うん。分かった!ありがとう、シリカ!」
「そのように呼ばれるのは久しいな。」
シリカは僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。その感覚が妙に懐かしく感じられたけれど、僕はあまり気にしなかった。だって僕は、僕自身のことを知らなくても、それ以外の、例えば生活する上で必要な知識なんかは何故だかしっかりと身に染み付いていたからだ。きっと、記憶を失くす前の自分が覚えたのだろう。ただ、そんなかつての自分を思い出したいかと言えば、それはさほど重要なこととは思えないのだ。
「アンバー?傷が痛むのか?」
「ううん。これからよろしくね!」
「ああ。」
目の前で穏やかに微笑むシリカを見れば、怪我が治るまでの共同生活も楽しいだろうなと想像できる。ほら、記憶を無理に取り戻す必要なんて無いじゃないか。
「ん・・・・」
「気が付いたか?」
ぼんやりとした視界にきらきらと輝く光が見えた。
「ぎんいろ・・・・きれい・・・・」
僕は光に手を伸ばした。それは、銀色の美しい髪だった。しばらくの間、長い髪を指に絡めて眺めていると、されるがままになっていた相手がため息を吐いた。
あ!初対面の相手に失礼なことをしてしまったかな?
けれども相手は怒ることもなく、僕の背中に腕をまわし、ゆっくりと起き上がらせてくれた。僕は岩肌に直接敷かれた簡素な寝具の上に横になっていたようだ。
そして、どうやらここは、洞窟のような場所らしい。それも、滝壺のすぐそばだ。何故なら、陽の光が差し込む入り口は落下してゆく水で塞がれているし、洞窟全体に水が落ちる大きな音が響いているからだ。
「ほら、水を飲め。」
呆けていると、目の前に水が入った碗を差し出された。言われるがまま一口飲む。途端に甘くて冷たい水が口の中を潤し、自分が随分と喉を渇かしていたことを知った。
「ぷはっ!・・・・ありがとう」
僕はあっという間に碗の中の水を飲み干してしまった。空になった碗を取り上げた綺麗な人が、僕の額にそっと手を当てた。
「・・・・どこか痛むところはあるか?」
あまり感情が読めない白い瞳に訊ねられ、うーんと首を傾げる。痛いところ、ね。
「ちょっとだけど、右のかかとの後ろあたりが痛いかな・・・・」
本当に、ちょっとだけなんだけれどね。
銀色の白い綺麗な人は「ああ。」と言った。
「腱を切っているからだ。お前は崖の下にいた。どんな転がり落ち方をしたのか?頭は平気か?」
腱を?!
えー!いつ切っちゃったのかな?
・・・・と言うか、今、頭は平気か?って聞かれたよね?
馬鹿じゃないのか?って意味?どんな転がり落ち方を?馬鹿な転がり落ち方をしたのだろうってこと?
この人、綺麗だけど失礼な人なのか?!
「むぅ・・・・」
「いや、そう言う意味ではなく。頭痛や吐き気はしないか?頭を打っていそうだからだ。・・・・血が出ていた。」
ぶすくれたら、きらきらの綺麗な人が少し慌てた様子で説明をしてくれた。僕はぺたぺたと自分の頭を触って確かめた。・・・・包帯が巻かれている。
「ほんとだ!ごめんなさい・・・・」
「気にするな。」
崖から転落したところを助けてくれて、手当てまでしてくれた上に疑った自分を許してくれるだなんて。できた人だ・・・・
「あの、ここ何処?滝の音が聞こえるけど・・・・」
「ここは北方の森の奥だ。とは言え、北方の民が立ち入ることはまず無いが。」
ほっぽう・・・・北方かな?ふーん。
「・・・・あなたは?」
「クォンタムクアトロシリカだ。」
綺麗な人は名前が長った。言えるかな・・・・?
「くあんた・・・・しりか・・・・」
言えなかった・・・・。
「クォンタムクアトロシリカ」
「こんたむくわとろしりか」
「・・・・シリカで良い」
すぐに諦められたようだ。いずれしっかり言えるようになるんだから!
「シリカ!!!・・・・ありがとう!!!」
やっつけで妥協された名前を呼んで、お礼を伝えた。ぐわーんと大きな声が響き、少しだけ眩暈がした。
「お前の名は?」
「ああ、えっと・・・・あれ?」
あれ・・・・?
名前を聞かれて答えようとしたけれど、僕の口から名前が出てくることはなかった。ぱくぱくと口だけ動かしていると、シリカが眉間に皺を寄せた。
「落ちた衝撃で忘れたのかもしれない。やはり、頭を強くぶつけたのだろう。」
「あれまぁ・・・・」
「記憶も厄介だが、どのみち、その足では暫くは動けないだろう。怪我が治るまではここにいて良い。記憶もそのうち思い出すかもしれない。」
え?!いいの?!
今すぐ出て行けって言われたら上手く歩けないし大変だなあと思っていたけれど、歩けるようになるまでいても良いだなんて!
「助かる!ありがとう!」
「怪我もそうだが、記憶が無いと色々と困るだろう?」
「うーん。歩けないことが不便なくらいで、あとはあんまり困ってないかも。」
正直、記憶を取り戻す必要性が全くと言っていいほど感じられない。怪我さえ治れば、このまま問題なく一人で生きていけそうな気さえするのだから。
「仮の名は私が付けてやろう。」
「えっ?」
「名無しのままでは私が不便だからな。そうだな・・・・アンバーはどうだろうか?お前の瞳の色にちなんだ呼び名だ。」
僕は自分の瞳の色すら思い出せないけれど、アンバーってことは琥珀色なのかな?
「アンバー・・・・」
「気に入らないか?私がかつて愛した者と同じ名だ。お前はあいつによく似ている。」
ん?何だか重くない?シリカが好きだった人の名前か。悪くないけれど・・・・うーん。
端正な顔に似合わず、お行儀悪く地面に胡座をかいて座っているシリカは満足そうにしている。シリカが一番気に入ってるじゃない。まあ、好きな人の名前だから仕方ないか。
「うん。気に入った・・・・」
重いけれどね!でも、名前を付けてもらったことは何だか嬉しい。
「そうか。それでは、お前は今日から暫くアンバーだ。」
「うん。分かった!ありがとう、シリカ!」
「そのように呼ばれるのは久しいな。」
シリカは僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。その感覚が妙に懐かしく感じられたけれど、僕はあまり気にしなかった。だって僕は、僕自身のことを知らなくても、それ以外の、例えば生活する上で必要な知識なんかは何故だかしっかりと身に染み付いていたからだ。きっと、記憶を失くす前の自分が覚えたのだろう。ただ、そんなかつての自分を思い出したいかと言えば、それはさほど重要なこととは思えないのだ。
「アンバー?傷が痛むのか?」
「ううん。これからよろしくね!」
「ああ。」
目の前で穏やかに微笑むシリカを見れば、怪我が治るまでの共同生活も楽しいだろうなと想像できる。ほら、記憶を無理に取り戻す必要なんて無いじゃないか。
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