拝啓、可愛い妹へ。お兄ちゃんはそれなりに元気です。

鳴き砂

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第四章 最強のお兄ちゃんは帝国へ帰る

だんご木の森

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(どんな人が僕にくれたんだろう・・・・)

寝転がりながら首にかけた通行手形を眺めた。
シリカの教えてくれたことは今の僕にはよく分からない。いつか、思い出せるといいのだけれど。

「眠れないのか?」

じーっと通行手形を凝視していたら、隣で肘枕をしたシリカがしみじみと僕を見ていた。なんだか長い髪まで巻き込んでしまいそうで、ひやっとするんだよね、その体制。
シリカの髪は胡座をかいて首を傾げると、地面につくほど長かったりする。なのに本人はぞんざいに扱うことが多いので、僕は勝手にわたわたしてしまうのだ。

「ううん。・・・・髪、気をつけてね!おやすみ!」

「髪・・・・?」

きょとんとするシリカをよそに、枕元の蝋燭を吹き消すと僕は掛け布を手繰り寄せた。

◇◇◇

『コハク・・・・おーい!・・・・コハク・・・・!』

「誰っ?!」

はっと目を覚まし、勢いよく飛び起きた。目の前に広がる景色は、いつもの洞窟ではない。ああ、丸い実のなる木がたくさんある。
えー、ここどこなの?最近、こういうの多いなあ。

「あ!気がついた?・・・・これ食べる?」

湿った土の上でぼんやり座り込んでいる僕の目の前に、何かが差し出された。この声、僕を呼んでいた人と同じだ。何となく受け取ってしまったけれど、相手が誰だか確かめないと。

あっ!!!

「これ!」

「だんご木って言うんだって!可愛いよね!」

ばっと見上げた先には、信じられないけれど僕と同じ顔をした人がにこにこと笑って佇んでいた。もしかして僕って、双子なの?!
驚いて、思わず受け取った枝を強く握ってしまった。

「ミズキの枝・・・・あ!ちょっと待って!それ多分そのままだと食べられないよ!」

「そうなの?」

僕の生き別れた双子かもしれない人が、枝についた実をそのまま口に入れようとしていたので慌てて止めた。と言うか、厳密には実ではないんだよね。

「これ、お餅だからさ。割れたのを揚げて食べたりするんだよ。」

そう、この実は全てお餅なのだ。それにしても、赤、緑、白、黄のだんごの実がなった木がたくさん植ってるってどう言う状況なのだろうか・・・・。そもそもミズキの枝どころか、木そのものにだんごの実がついているだなんて。ここは、だんご木の森なのかな・・・・。

「コハクは詳しいね~」

「コハク?」

混乱極まった風景に頭を抱えていたら、のんびりとした声音とともにコハクと呼ばれた。また、コハクだ。さっきも僕を呼んでおいて、僕のことをコハクと生き別れた双子かもしれない人は言うのだ。僕ってコハクなの?
半ば放心している僕の額に、生き別れた双子かもしれない人がぴとっと手を当てた。

「うーん?ああ、大変な目にあったんだねえ。足も怪我しちゃったのか。それにしても五百年前に行ってるとは・・・・僕が追えなかったわけだ。セレスタインも心配しているだろうなあ。」

その手を額に当てると何か見えるのですか?!

「あなたは、僕のこと知ってるの?」

「知っているよ。コハクには色々と手伝ってもらったからね。それにしても困ったねえ。夢で繋がったのは良いけれど・・・・最近、カエレスティスとも連絡が取れないし、上手く行ってるといいんだけれど。」

「カエレスティス?」

誰・・・・?さっきも知らない人の名前が出たよね?

「いいかい、コハク。・・・・おや?今はクォンタムクアトロシリカにアンバーと呼ばれているんだね。・・・・いいかい、アンバー。」

「うん。」

律儀に呼び直してくれたその人が、とっても真剣な目をしていたので、僕もこくりと頷いた。

「きみを迎えに来てくれた人の手をしっかり取るんだよ。その人は、クォンタムクアトロシリカにそっくりだと思うのだけど・・・・とにかく、一度きりしかないからね。手を取らなければ二度と帰れなくなるかもしれない。」

「え・・・・」

ど、どう言うことですか?!

「僕の名前はサクシナム。きみが帰れた先でまた会おうね。・・・・ああ、もうすぐ夢が覚めてしまう。はやいなあ。」

サクシナムさんは、僕にだんご木の枝を握らせてふわりと微笑んだ。

「これ・・・・」

「セレスタインによろしくね、コハク。」

◇◇◇

「まって・・・・!」

「アンバー?大丈夫か?」

伸ばした腕は、冷たくてごつごつした手に掴まれた。

「あ、れ?・・・・洞窟?」

「悪い夢でも・・・・お前、それどうしたんだ?」

「あっ!」

シリカさんは僕が握りしめただんご木の枝を見ていた。

「随分と季節外れだな。もう夏も近いのに。」

枝からいくつかだんごを外したシリカさんが、サクシナムさんと同じようにそれを口の方に持って行くので、僕は再び止めに入った。

「シリカさん。それ、食べちゃダメだよ。」

「食べはしないが・・・・アンバー?」

真向かいにしゃがみ込んだシリカさんは、僕の頬を軽く引っ張った。む、痛い。

「んー、なあに?」

「もう一度私の名を言って。」

「シリカさん?」

呼べばシリカさんは僅かに眉をひそめた。
クォンタムクアトロシリカさん、が良かったのかな?でも、ちょっとよそよそしい気がするし・・・・。

「・・・・お前の名は?」

「シリカさんが付けてくれたじゃない、アンバーだよ?」

「戻ってはいないのか?」

「何が?」

掠れた声でシリカさんが呟いたので、気になって訊ねたけれど、頭をくしゃくしゃと撫でられるだけだった。
げ、解せぬ・・・・!

けれども、教えてくれそうにもないシリカさんに、これ以上食い下がるのも気が引ける。諦めて朝餉の準備に取り掛かろうとした時だった。

けたたましい鳥の鳴き声と、滝壺の水が跳ね上がる音がした。

「・・・・!」

「わっ!なんだろう!」

僕はびっくりしてシリカさんの腕に抱きついた。

「・・・・珍しいな、来客だ。」

そんな僕の無礼を気に留めることもなく、シリカさんは洞窟の入り口に目を向けた。

「コハク、その男は?」

「ひえっ・・・・」

先ほどの大きな音よりも身震いするような冷たい声が洞窟に響いた。

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