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03 大魔女さんと霜の巨人
魔女の豆と根菜のスープ
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あの夜から吹雪は長く続いて、僕たちはしばらくあらたな冒険への出発を見送ることになっていた。
その間、僕はいつもの通り料理書の研究をするほかに、もうひとつ新しいことに挑戦することにした。
トッティに杖を使った護身術を習うことにしたのだ。
「と言っても、私のは正統とは言い難いんだけどね」
「石人形をぶちのめしてたし、充分すごいと思うよ」
「ほめても何も出ないわよ。本当は付け焼き刃でやるのもかえって危ないかもって思うけど、鍋で頑張られるよりはいいと思うから……」
苦笑を返すしかない、それはおっしゃる通り。
しかしトッティの言い分はどうも謙遜が大きかったらしく、指導はとてもわかりやすい。
僕みたいな体育の成績がいまいちの、才能がないと思われるタイプでも、グングン腕前が上がっていく気がする。いや、まあ慢心は禁物なんだけど。
「そういえばさ、魔法ってどうやって使うの?」
ふと初歩的な疑問にたどり着いて、尋ねてみた。
異世界だし、魔法、ひょっとして僕にも使えたりとか……。
「使えないわよ」
「えっ」
「魔法って明確な祝福なの。使える人と使えない人が決まっていて、だから魔女とか魔法使いとか呼ばれる者が重宝されているのね」
「なるほどう……」
「だからカイはこの先も使えることはないと思うわ。がっかりしちゃったかしら?」
「いや、なんかむしろ安心したよ」
「そのこころは?」
「人にないすごい力を持ったらちょっと変になっちゃいそうだし。トッティみたいに強く正しくいられる感じがしないんだ。善き魔女……て言われる存在になれるとも思えないしね」
素直な所感を答えると、なんでか小突かれた。
彼女を見るとちょっと恥ずかしそうな顔をしている。
「あなたに善き魔女、とか言われるとちょっとその」
「いや事実なんだしさ。誇りに思ってるし、頼りにしてるよ」
「……もう!」
なんでかそっぽを向かれてしまった。
最近なぜか照れているトッティを見ることが多くて、そうなると僕もなぜか照れてしまう。
なんでだろう、不思議だ……。
さて、訓練したらおなかが減る。
おなかが減ったら、今日のごはんを作る時間だ。
とはいえ外は猛吹雪で外出もままならないので、今日はありあわせのもので作る(といってもトッティの家はかなり食材が豊富なのだ)。
今日も寒いのであたたかいスープを煮込むことにしよう。
暖炉にかけておいた大きな鍋に、皮をむいて刻んだ根菜を入れる。
だんだん見なれてきたこれらの野菜の見た目は、元の世界のものに結構近いのもあれば違うのもある。ただ風味はどれもそう変わらず、割と親しみやすい。
にんじん、いも、ゴボウ、玉ねぎ、マンドラゴラ。
今回のもうひとつの主役は、豆だ。
魔女の豆と呼ばれるまあるい豆で、非常にカラフルな色をしている。まるでおもちゃみたいだ。
水に入れて戻しておいたその干し豆も、ざらざらと鍋に投入。
そしてじっくりことこと、よく煮込む。
煮込んでいる間に、黒パンを炙る。今日はバターとプラムのジャムも用意しておく。
飲み物はやっぱりあたたかいお茶と、あつあつのスープがメインだから湯冷ましの水も。
最後にスープの味を整えて。
盛り付けてテーブルの上に並べればできあがりだ。
「さてこんな天気だけど、おなかはしっかり空いてるわね。訓練の賜物だわ」
「じゃ早速」
『いただきます!』
スープの根菜は少しの歯ざわりを残しつつ、しっかり火が通って柔らかい。土と近い野菜ならではの滋味というのだろうか、風味がまたたまらないのだ。
そして魔女の豆。
初めて食べる食材なのだけれど、この味がまた……! なんというのだろう。色によって味が結構違う。甘めの味、辛めの味、ホクホクしていたりプチッとしていたりする食感の違いも楽しくて、いくらでも食べられるような気持ちになる。
「魔女の豆のスープってこの地方ではものすごく人気があるのよ」
「確かにこれはうけあいの味だなあ。全然飽きることがないよ」
「保存性も高いし。今度の旅にも持っていきましょう」
スープにパンを浸しながらトッティが笑う。
そうだ。次は雪原に旅をするんだった。それなら何を作ろうかな……? どんな食材が待っているんだろう。
いつの間にか料理することが楽しみになっている自分がいる。そのこと自体がもうひとつの“祝福”なのかもしれない。
「しろがね雪原には『霜の巨人』がいるはず。そこに行けばまた、更なる手がかりがあるかも」
「『霜の巨人』……なんかいかにも強そうだな。大丈夫かな」
「ええ。話はしっかり通じるはずよ。雪原の冒険はちょっと危険だけどね。あなたも付け焼き刃でも鍋よりはマシな技をみにつけたし、まあなんとかなるんじゃないの?」
「ははは……」
鍋の話、一生言われそうな気がする。
むちゃはしました、自業自得か。
吹雪の夜は更けていく。
次に目指すはしろがね雪原、『霜の巨人』。また不思議な出会いが待っているんだろう。
これから待っているできごとに胸の奥が熱くなる気がしていた。
その間、僕はいつもの通り料理書の研究をするほかに、もうひとつ新しいことに挑戦することにした。
トッティに杖を使った護身術を習うことにしたのだ。
「と言っても、私のは正統とは言い難いんだけどね」
「石人形をぶちのめしてたし、充分すごいと思うよ」
「ほめても何も出ないわよ。本当は付け焼き刃でやるのもかえって危ないかもって思うけど、鍋で頑張られるよりはいいと思うから……」
苦笑を返すしかない、それはおっしゃる通り。
しかしトッティの言い分はどうも謙遜が大きかったらしく、指導はとてもわかりやすい。
僕みたいな体育の成績がいまいちの、才能がないと思われるタイプでも、グングン腕前が上がっていく気がする。いや、まあ慢心は禁物なんだけど。
「そういえばさ、魔法ってどうやって使うの?」
ふと初歩的な疑問にたどり着いて、尋ねてみた。
異世界だし、魔法、ひょっとして僕にも使えたりとか……。
「使えないわよ」
「えっ」
「魔法って明確な祝福なの。使える人と使えない人が決まっていて、だから魔女とか魔法使いとか呼ばれる者が重宝されているのね」
「なるほどう……」
「だからカイはこの先も使えることはないと思うわ。がっかりしちゃったかしら?」
「いや、なんかむしろ安心したよ」
「そのこころは?」
「人にないすごい力を持ったらちょっと変になっちゃいそうだし。トッティみたいに強く正しくいられる感じがしないんだ。善き魔女……て言われる存在になれるとも思えないしね」
素直な所感を答えると、なんでか小突かれた。
彼女を見るとちょっと恥ずかしそうな顔をしている。
「あなたに善き魔女、とか言われるとちょっとその」
「いや事実なんだしさ。誇りに思ってるし、頼りにしてるよ」
「……もう!」
なんでかそっぽを向かれてしまった。
最近なぜか照れているトッティを見ることが多くて、そうなると僕もなぜか照れてしまう。
なんでだろう、不思議だ……。
さて、訓練したらおなかが減る。
おなかが減ったら、今日のごはんを作る時間だ。
とはいえ外は猛吹雪で外出もままならないので、今日はありあわせのもので作る(といってもトッティの家はかなり食材が豊富なのだ)。
今日も寒いのであたたかいスープを煮込むことにしよう。
暖炉にかけておいた大きな鍋に、皮をむいて刻んだ根菜を入れる。
だんだん見なれてきたこれらの野菜の見た目は、元の世界のものに結構近いのもあれば違うのもある。ただ風味はどれもそう変わらず、割と親しみやすい。
にんじん、いも、ゴボウ、玉ねぎ、マンドラゴラ。
今回のもうひとつの主役は、豆だ。
魔女の豆と呼ばれるまあるい豆で、非常にカラフルな色をしている。まるでおもちゃみたいだ。
水に入れて戻しておいたその干し豆も、ざらざらと鍋に投入。
そしてじっくりことこと、よく煮込む。
煮込んでいる間に、黒パンを炙る。今日はバターとプラムのジャムも用意しておく。
飲み物はやっぱりあたたかいお茶と、あつあつのスープがメインだから湯冷ましの水も。
最後にスープの味を整えて。
盛り付けてテーブルの上に並べればできあがりだ。
「さてこんな天気だけど、おなかはしっかり空いてるわね。訓練の賜物だわ」
「じゃ早速」
『いただきます!』
スープの根菜は少しの歯ざわりを残しつつ、しっかり火が通って柔らかい。土と近い野菜ならではの滋味というのだろうか、風味がまたたまらないのだ。
そして魔女の豆。
初めて食べる食材なのだけれど、この味がまた……! なんというのだろう。色によって味が結構違う。甘めの味、辛めの味、ホクホクしていたりプチッとしていたりする食感の違いも楽しくて、いくらでも食べられるような気持ちになる。
「魔女の豆のスープってこの地方ではものすごく人気があるのよ」
「確かにこれはうけあいの味だなあ。全然飽きることがないよ」
「保存性も高いし。今度の旅にも持っていきましょう」
スープにパンを浸しながらトッティが笑う。
そうだ。次は雪原に旅をするんだった。それなら何を作ろうかな……? どんな食材が待っているんだろう。
いつの間にか料理することが楽しみになっている自分がいる。そのこと自体がもうひとつの“祝福”なのかもしれない。
「しろがね雪原には『霜の巨人』がいるはず。そこに行けばまた、更なる手がかりがあるかも」
「『霜の巨人』……なんかいかにも強そうだな。大丈夫かな」
「ええ。話はしっかり通じるはずよ。雪原の冒険はちょっと危険だけどね。あなたも付け焼き刃でも鍋よりはマシな技をみにつけたし、まあなんとかなるんじゃないの?」
「ははは……」
鍋の話、一生言われそうな気がする。
むちゃはしました、自業自得か。
吹雪の夜は更けていく。
次に目指すはしろがね雪原、『霜の巨人』。また不思議な出会いが待っているんだろう。
これから待っているできごとに胸の奥が熱くなる気がしていた。
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