怪物は愛を囁く

三歩ミチ

文字の大きさ
1 / 11

1.出会い

しおりを挟む
「アンドルネリーデ。あんたはこれからあの城へ行って、生まれたばかりの赤子を探しなさい。そうして、十五年後に死ぬ呪いをかけるんだよ」

 暗くてあらゆるものが混ざり合う混沌から引き出された俺の耳に、やせた老婆の声が入り込んでくる。人間なんぞに従いたくはないのに、俺の体は勝手に動いた。
 召喚されたのは久々だ。人間界に実体化した肉体は、ぎしぎしと軋んで痛む。「アンドルネリーデ」と呼ばれた俺の体は、禍々しい黒で、おぞましい形をしていた。

 外は夜だったが、闇より生まれた魔の者である俺には関係がない。言われた通りの方向にある城へ向かい、その中へ入った。

「ひいっ!」

 城内へ入った途端に出くわした人間は、白目をむいて泡を吐いた。

 俺は魔力を辿って赤子を探したが、城の中は人間ばかりで、どれが赤子のものか判然としなかった。城の中を歩き回ってみたが、出会う人間出会う人間、皆気絶するばかりで赤子の居場所はわからなかった。

 こちらを見る、丸い目に気づいたのはその時である。
 倒れた男の向こうから、小さな子供が覗いていた。

 赤子、と言うほどには小さくないが、まだ幼児。俺を見ても、気絶するどころか、瞳を輝かせていた。

『アンドルネリーデが、お前に問う。この城のどこに赤子が──」
「アンドルネリーデ? そんなの可愛くないわ。あなたの名前は、これからアンちゃんよ!」
『は?』

 アンちゃん。禍々しい魔の者には、似つかわしくない名だ。
 ふざけるな──と言い返す間もなく。名付けられた途端、俺の背丈はぐんと縮んだ。

「わあ、かわいい! アンちゃん、お人形さんだったのね!」
『そんな訳ないだろう、俺は恐るべきアン──アン──』

 アンドルネリーデ。
 あの老婆に付けられた自分の名前を口にすることは、もうできなかった。

「アンちゃん! よろしくね!」
『……アンちゃん』

 俺を召喚した老婆よりも、遥かに大きな魔力を持った幼女。そいつに「アンちゃん」などと名付けられてしまった俺の体は、熊のぬいぐるみの形になってしまったのだ。
 あの時押し付けられた頬の柔らかさを、俺は妙に生々しく覚えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

婚約破棄された公爵令嬢と、処方箋を無視する天才薬師 ――正しい医療は、二人で始めます

ふわふわ
恋愛
「その医療は、本当に正しいと言えますか?」 医療体制への疑問を口にしたことで、 公爵令嬢ミーシャ・ゲートは、 医会の頂点に立つ婚約者ウッド・マウント公爵から 一方的に婚約を破棄される。 ――素人の戯言。 ――体制批判は不敬。 そう断じられ、 “医療を否定した危険な令嬢”として社交界からも排斥されたミーシャは、 それでも引かなかった。 ならば私は、正しい医療を制度として作る。 一方その頃、国営薬局に現れた謎の新人薬師・ギ・メイ。 彼女は転生者であり、前世の知識を持つ薬師だった。 画一的な万能薬が当然とされる現場で、 彼女は処方箋に書かれたわずかな情報から、 最適な調剤を次々と生み出していく。 「決められた万能薬を使わず、  問題が起きたら、どうするつもりだ?」 そう問われても、彼女は即答する。 「私、失敗しませんから」 (……一度言ってみたかったのよね。このドラマの台詞) 結果は明らかだった。 患者は回復し、評判は広がる。 だが―― 制度は、個人の“正 制度を変えようとする令嬢。 現場で結果を出し続ける薬師。 医師、薬局、医会、王宮。 それぞれの立場と正義が衝突する中、 医療改革はやがて「裁き」の局面へと進んでいく。 これは、 転生者の知識で無双するだけでは終わらない医療改革ファンタジー。 正しさとは何か。 責任は誰が負うべきか。 最後に裁かれるのは―― 人か、制度か。

処理中です...