ケモホモ短編

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Z○○m会議でオオカミバレ!?

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「すみませんせっかくのお休みなのに」
 画面の向こう側に次々と不満顔が表示されていく。
 ある者はボサボサの寝癖たっぷりのパンクなヘアースタイルだし、またある者の背後では猫が玩具で遊んでいる。まあ、テレワークあるあるってやつだよな。もはや今となっては誰もツッコむ様子もない。
「これから晩酌しようと思っていたところだったのに……」
「あれ? 部長まだ入ってないの?」
 会議の案内メールには返信があったから忘れたりはしていないと思うけど。
「いい加減に慣れてほしいよ」
「もう誰か電話したほうが早いんじゃないの?」
 休日にいきなり呼び出されてただでさえ皆苛立っているのに、なかなか入ってこない承認権者に対しての愚痴も出始めた。普段から「片桐ぃ~、なんかメールの調子が悪くて見てくれ」なんてことがしょっちゅうの部長のことだから何かしらのトラブルで手間取っているに違いない。あの歳にして急遽テレワークさせられるってのもなかなかに酷だとは思うけど。
「あ、きたきた、来られました」
 スマホを手にとって、大神部長の電話番号を探してスクロールしていると待機室に彼の名が見えた。
 それまでは各自リラックスした体勢で、愚痴大会はおろか新作のゲームの話題まで持ち出して談笑していた一同が一斉に背筋を伸ばして上長を迎える姿勢をとる。さてと、入室を許可っと。
「すまん、遅くなった。」
 ダンディな渋い声が響くや、一気に空気がピリッと張り詰めた。
 が。
「え? あの、部長? ですよね」
 戸惑う聴衆。もちろんその中には僕も含まれている。一同の狼狽に対して、部長は何か文句でもあるのか? と言いたげな顔。だとおもう、多分。
 それもそのはず、そこに映し出されていたのはオオカミの顔だったのだから。
 ハロウィンの仮装? 着ぐるみ? いやCG? でも、こういう場で決してふざけるような人ではないし、バーチャルなアバターを表示させるほど高度な技術を使いこなしているとも思えない。何よりも目の前のオオカミはとても作り物とは思えない精巧な出来なのだ。表情筋の繊細な動きに従って毛並みはなめらかに動き、疑念と苛立ちの中でカメラを睨みつける瞳孔、ハエを追い払う牛の尻尾のようにぷるんと跳ねる耳。そんなオオカミがワイシャツを着ているものだから違和感が満載。
「おい片桐、なにボサッとしてんだ」
 鼻先に皺を寄せながら開かれた口の中には、ズラリと並んだ牙。
「お、オオカミ……?」
 参加者の一人が率直な感想を漏らす。うん、誰が見ても正真正銘本物のオオカミにしか見えないよな。
「!? あ、えっ! あ、あ、えっと」
 それまで仏頂面だった、いや仏頂面に見えた部長は、僕たちの戸惑いの原因が自分自身にあると気付くや慌ててカメラをオフにしようとした……のだと思う、画面の中にあるメニューを必死に探している。
「ま、まずい……」
 けれどもただでさえパソコンに疎い部長が操作できるはずもなく。
 まだ、未だに信じられないが、これが大掛かりなドッキリでもない限り、つまりその、部長は狼男ってヤツなのか? いやいやそんな漫画の世界じゃあるまいし。でもなあ、どう見ても本物だよなあ。
 僕は現実離れしたこの光景に対してムクムクと湧き出した好奇心と、方や早く仕事を片付けたい気持ちとが拮抗する中で、こんな面白そうなチャンスを逃してなるものかと光の速さでキーボードを叩いた。
『部長、ちょっといいですか』
「な、なんだ片桐くん」
『個別チャットで僕たちしか見えていないので返事はしなくていいです』
『だいじょうぶ、まかせてください』
 藁にもすがる思いのオオカミが小さく頷いた。
『間違えてビデオフィルターがかかってしまった』
「え?」
『そう言ってください』
 頭にハテナマークを浮かべて首を傾げつつも、今はこれに賭けるしかない。
「あー、えっとだな、その、びっ、ビデオフィルター? が、間違ってかかってしまった……ようだ」
 棒読みもいいところだ。しかしまあこれできっと上手くいく。
「そうなんですね、もう、ビックリしましたよ!」
 大袈裟にリアクションを取ってみせた。
『オフにする設定を探すふり、ふりだけでいいです』
「オフにするのは……どれだ、えーっと」
 マウスをカチカチ鳴らす大根役者。
「なんだ、それ本物かと思いましたよ」
「それどうやるんすか? 今度教えてくださいよ」
 周りの人たちは、目の前の理解を超えた怪奇現象に対して示された逃げ道に安堵の表情で駆け込んでいく。
「あー、すまんな。色々設定していたらこうなってしまってな、戻し方がわからんのだ」
 ぎこちなかった演技にも徐々に慣れがでてきた。さすが部長に昇り詰めるだけあって適応能力や判断力は高いのだろう。
「普段からそのキャラの方が若く見えていいんじゃないですか?」
 誰かが冗談を飛ばすと、どっと笑いが巻き起こる。
「一応言っておくが、今喋ってるのはオオカミじゃなくて私本人だからな」
 部長までちょっと楽しそうにしちゃってるし。けど、あまり長引かせてボロが出てもいけない。
「部長すみません。時間も押してますし、いったんこのままで始めてもいいですか?」
「ああそうだな、皆悪いが今はこれで我慢してくれ」
 それまでの穏やかな表情から一変して、仕事モードの真剣な顔。と言ってもオオカミだけど。
『助かった、ありがとう』
 どういたしまして。もちろん僕だって聖人君子って訳じゃない、相応の見返りは要求させてもらうけどね。
「それでは改めまして、客先から至急見積もりが欲しいとの連絡がありまして……」
 始まる時には一悶着あったものの、会議自体は至って普段と同じもの。僕が作った資料に対して時折厳しい指摘を入れたり周りの意見を纏めたりと、いつもの部長。
 でも……気になる。気になって仕方がない。同じ言葉、同じ仕草でも全部がオオカミの姿なのだから。オオカミが工数の計算を真面目な顔してしているなんて思わず吹き出しそうになってしまう。受注したら誰にアサインするかで悩んでいる時なんかは大きな三角の耳がピコピコ動いて心がほっこりとしてしまった。そうだ、録画して保存しておこう。
「……よし、じゃあこれで回答しておくか。皆いいな?」
 いつもなら苦痛で時計の針がやたらに遅く感じるのに、今日はあっという間に終わってしまった。会議が名残惜しいと思ったのは初めてだ。
『片桐、あとで話がある』
 ちょうど僕も同じメッセージを送ろうとしたところだった。

「……よう」
 今度は二人っきりの打ち合わせ。部長はやっぱりオオカミの姿のまま。
「あー……さっきは本当に助かった」
 今回ははじめから録画もバッチリだ。
「それ、ホンモノですよね。部長ってなんていうか、狼男なんですか?」
 形式だけの質問。だって「助かった」なんてもう自ら認めているようなものじゃないか。
「まあそんなようなもの……だな。ざっくり言えばそうなるか」
 微妙に歯切れの悪い回答。狼男にも種類があるのだろうか。獣人とか、人狼とか、当人達にしかわからない細かな違いがあるのかもしれない。
「で、だな。その、このことはどうか内密に頼む!」
 机の上に頭を擦り付けんばかりに頭を下げる。自分から白状した以上は誤魔化せないと思ったのだろう。こうもすんなり事が運ぶとちょっと拍子抜けだな。録画もしているしこっちには証拠があるんですよ、なんて脅し文句の一つでも言ってみたかったのに。
「何でもする! 金も少しぐらいなら」
 僕が沈黙を守ったままでいることに何やら勘違いをした部長が自ら地雷を踏んでしまう。こんなんじゃ悪い人に騙されて布団とか壺とか買わされそうだな。それだけ焦っているという証拠かもしれない。
「いいましたね? なんでもって。」
 耳が伏せられて怯えるオオカミの顔。ごくりと唾を飲んでカメラ越しに僕の表情を窺っている。さてどんな要求をしてやろうか。正直なところ金銭に対しての欲望もちょっぴりはある。生活に困窮するほどお金が無い訳じゃないけれど、いくらあっても困らないものだし部長ぐらいにもなれば給料もボーナスもそれなりに、おまけに独身だからたんまりと貯め込んでいることだろう。しかしそんなことをすればきっと良心の呵責に耐えられなくなってしまう。自分は善人だなんて綺麗事を言いたいってことではなくて、そんな悪事を働くほどの度胸が僕にあるとは思えない。
「じゃあ、脱いでください」
「はえっ!?」
 予想外の角度から飛んできたボールに目を丸くするオオカミ。
 だって、気になるじゃないの。
「いやあ、狼男の身体ってどうなってるのかなと思いまして」
 突然の提案を反芻しながら難色を示している。そりゃまあね。
「いやですか?」
「わわわかった! 脱ぐ、脱ぐから!」
 僕の機嫌を損ねては得策ではないと、渋々ながらもワイシャツのボタンに手をかけた。わ、手も大きいなあ。
 一つボタンが外れるごとに胸元のふわっふわの毛並みが露呈していく。ああ将来お金貯めて大型犬飼いたいと思っていたんだよなあ。これぐらい大きければ戯れあったりしたらさぞかし楽しいんだろうな。
「手のひらって肉球とかあるんですか?」
 今度は反論や抵抗もなく、生体認証でもするかのごとく無言でカメラの前にかざされる手。形こそ人間のものと同じなのに、特徴はまるでオオカミ、いや犬、まあどちらでも同じようなものだろう。黒っぽい爪が攻撃的に飛び出ていて、その怖さを中和するような丸くてもっちりした肉球。
「ぬ、脱いだぞ……」
 見惚れているうちに貴重なストリップシーンは終わってしまっていた。あとでじっくり見返そう。
「あー……」
「最近は、その、運動もあまりしてなくてな」
 引き締まった無駄のない筋肉! みたいなのを想像していた僕の表情から色々と察したのか、部長が先んじて弁解を口にした。まあ、野生の中で暮らしているのならともかく、ジャンクフードに囲まれた都会の中にいたらこうなるのも無理はないだろう。中年太りでだらしなく腹が出始めたオオカミ。毛皮があるぶん人間のそれよりは見苦しさは無いのが幸いだが。
「格好いいですよ! すごくこう、あの、野生的で」
 なんで僕が気を遣ってるんだ、まったく。そんなにションボリした顔をされると胸の内がチクチクと痛む。
「いやあ、肩もガッシリしていて強そうですし、お顔もシュッとしてて」
 お腹には触れないように別のところに注意を向けないと。
「そ、そうか? まあ昔はもっと筋肉もあったんだがね、今はこれぐらいで」
 ちょっと褒めたら照れ臭そうにしながらも力コブなんか作って見せてくるし。普段からこの人の部下だからな、ヨイショの仕方は熟知しているのだ。
「お口の中はどうなってるんですか?」
 今度はドアップで映される口内。動物病院の歯科検診ってこんな感じなのだろうか。真っ赤な大陸の中にギザギザとした連峰がそびえていて、犬歯なんかは人間のそれとは比べ物のならないくらいに鋭利で分厚い肉だって突き通してしまいそう。こうしてまじまじと見ると結構怖いな。
「さっすがオオカミ! こんな立派な牙みたことないですよ!」
 そう思ったのも事実。たちまち部長の背後で黒い影が揺れ動き、それが喜びのあまり振られた尻尾だと気付くのに時間はかからなかった。
「じゃあ次は下の方ですね」
 上機嫌だった顔が一転してピシリと固まる。だって気になるでしょ、上を見たなら次は下に決まってるじゃん。
「まあ、無理にとは言いませんけど、大神部長?」
 半分は本音。あまりしつこくすると回線を切られちゃうかもしれないからな。
「……わかった」
 大きなため息とともに部長は立ち上がった。

 目の前には下半身だけが切り抜かれている。
 まあ、パソコンに付いているカメラで全身を映すのは至難の業だからな。天辺からつま先まで全身ぐるりと見渡してみたいものだ。
「な、なあ。見ても面白いものじゃないぞ」
 ズボンを下ろし、現れたトランクスのゴム紐に手をかけたところで戸惑いがちな声が降ってくる。これがただの中年男性の身体であれば確かにその通りではあるのだが、相手は狼男なのだ。ただでさえ男としては変な気がなくとも他人のサイズってのは気になるものだ。狼男ともなればきっと凄いイチモツなのだろうと怖いもの見たさの血が疼き始める。
「別に男同士、減るもんじゃないですよね」
 思春期の中高生ならともかくお互いいい歳してるんだぞ。銭湯か何かと思えば大したものじゃないだろう。銭湯といえば……今年はこんな状態だから社員旅行も取りやめになってしまったが、今までに行ったあらゆる保養地、ほとんどが温泉だが、そこで部長と湯船に浸かった記憶がない。いつも皆から誘われても部屋で入るからとかわしていた。もしかして裸を見せられない事情が……実は若気の至りで彫った刺青が入っているとか?
「片桐くん、本当にもう勘弁してくれないか……」
 懇願の声に少しだけ胸がチクリと痛む。自分が極悪人になった気分。けれども、たとえアソコに元カノの名前がでかでかと彫ってあったとしても、自分の正体がバレるのと天秤にかけるほどなのか?
「あー、この録画ファイル、間違えてZooTubeにアップしちゃうかも」
 もちろんそんなことするつもりは毛頭ないけどね。
「わかっ、わかった、わかったから……それだけは……」
 何度か深呼吸の音が聞こえてきたあと、ようやく意を決したのか勢いよく下されるトランクス。とうとう白日の元に晒される狼男の陰茎。人智を超えた極太のソーセージがボロンと、あれ、ポロン?
「え。小さい……」
 カメラの画角だとかレンズの屈折率では説明のつかないモノが映し出されていた。
 せいぜい僕の親指ぐらいだろうか、先端まですっぽりと皮に覆われていて少年漫画に出てくるようなおちんちんと表現するに相応しいモノ。大きな狼男の身体に不釣り合いな粗チン。
「もっ、もういいだろっ!」
 その表情は窺い知ることはできなかったが、きっと羞恥にまみれていることだろう。
「もっとよく見せてくださいよ。ココは人間のと同じなんですね。随分可愛らしいですけど。」
 グルルと獰猛な唸り声が鳴り始める。声だけ聞いたら恐ろしさのあまりチビってしまうかもしれないけど、この短小包茎を前にすると滑稽そのもの。
「オオカミというよりは……チワワかポメラニアン?」
 画面に向かって小便をする格好で出された小さなちんぽ、いやちんちんがピクリ。
「うっ、うるさいっ!」
 そんな反応に嗜虐心をくすぐられて、それまでは単純な好奇心の塊だったものが徐々に変貌をとげていく。要するに僕もちょっとこのシチュエーションに興奮してきたのだ。
「それ、剥けるんですか? 随分皮がありますけど。」
「むっ、剥けるわっ! ほ、ほらどうだ!!」
 これ以上隠すものが無くなってふっきれてしまったのか、グイッと皮を引き寄せると現れる小さな果実。厳重に守られて過保護に育てられた亀頭は滑らかな粘膜質で綺麗なピンク色。目の前にいたらちょっと臭ってきそうだな……それにこれって。
「チンカスついてません?」
「なあっ!? ひ、光の加減だっ!」
 慌てたオオカミが腰を引くと隠れるようにまた皮が覆い被さった。
「小さくてもちゃんと剥いて洗わないとダメですよ。おちんちん。」
 返事とばかりに小さなそれがムクっと動く。
「ほら部長のおちんちんもそう言ってますよ」
「んっ……やめっ、ろ……」
 部長のそれは自己主張をしようと海綿体いっぱいに血液を貯め込んでいく。萎えていた時よりはマシだけどまだまだ小さいな。それでも一生懸命に背伸びをする姿につい応援したくなってしまう。
「おちんちん頑張って大きくなりましたね」
 言葉を形成するには至らない荒っぽい息遣い。よっぽど嬉しいんだろうか。なんだか不思議な感覚。でも萎えたままでいられるよりも、こうして目の前で興奮の証を示されると悪い気はしない。現に部長のその可愛らしい勃起を見ながら僕も紛れもなく勃起しているのだから。
「大神部長はおちんちん見られるの好きなんですね」
 言わずもがなだけれども、念のための確認。
「変態で悪かったな……ぐずっ……好きなだけ笑えばいいだろう……」
 ああもう泣いちゃっていじめ甲斐があるんだから。でもこれ以上追い込んで自暴自棄になられても困るし、そんなのが目的では無いのだ。
「部長。ぼく絶対に誰にも言いませんよ、部長が狼男で粗チンだなんて。約束します。」
 こんな面白い秘密、誰かに教えてたまるものかっての。
「ほ、ほんとか……?」
 きっと今、地獄の釜の底へ垂らされた蜘蛛の糸を見るような目をしているのだろうか。
「信じて、いいんだな?」
 未だに疑心暗鬼が芽生えている。ここまでされて口約束だけで信用しろと言うのも土台無理な話だろう。
「もちろんです。と言っても……言葉だけでは説得力ないですし、これなら」
 そこまで言うと立ち上がり、すでにガチガチに勃起していた自らのモノをカメラに向かってさらけ出す。
 画面にはお互いの股間だけが大写しになっている。なんだこれ。冷静な時にこれを見たら吹き出してしまうかドン引きするところだろう。でも今は、こんな異様な光景がますます興奮をかき立てて仕様がなかった。
「部長だけ恥ずかしい思いをするのはアンフェアですから」
 いかにも彼のために渋々身を切ったような言いっぷりをしながらも、内心は自らこうすることを強く望んでいた。男同士、お互いのちんぽを見せ合って興奮するなんて僕も部長に負けないくらいに大概変態だよな。
「でっ、デカい……」
 驚嘆の声がむず痒い。そんな自慢できるほどのサイズじゃ無いってば。ネットで見た日本人男性の平均サイズ、あれってどれぐらい信憑性があるのかわからないが、それでいうところの平均といったところなのだ。カメラに向かって突き出しているから多少は大きく見えるかもしれないけど。
「どうです? まあ大人にしては普通ぐらいかと思いますけど」
 さっき部長が力コブを自慢げに見せてきた気持ちがよくわかる。
「皮もすっかり剥けているし、男らしくて立派な男性器だと思うぞ」
 仕事で褒められた時よりも段違いにドーパミンが放出される。やばい、これ癖になる。頭の中でチリチリと火花が散って理性なんかあっという間に消し去ってしまう。
「おっ、大神部長、もももっと、見てください……ちっ、ちんぽ!」
 たまらず自ら扱き上げてカメラの前に濡れそぼった尿道口を近づける。クチャクチャと響く水音がマイクを通じて電子データへと変換され、あの大きなオオカミの耳に届いていることだろう。
「ああ、見てるぞ。片桐の、その」
 この異様な空気に流された彼も、小さなおちんちんを親指と人差し指でつまんでゆるゆると上下に動かしてみせる。ああなんてことだ、オナニーを見せ合ってしまっている。
「ちんぽ……ちんぽって言ってください」
「はあっ……片桐の、大きいちんぽ……ちゃんと見てるからなっ」
 部長のそれからも我慢汁が垂れ始め、卑猥な二重奏が快楽を盛り上げる。ピンク色だった亀頭は擦りあげられるうちにすっかり赤く腫れあがり、アメリカンチェリーを想像させる。小さいのに、いや小さいからこそ、いじらしい姿がよりエッチにうつるのだ。
「ほら、目の前で見てるぞ」
 その短小に目を釘付けにしながら一心不乱にシゴいていると、視界からそれが消えてしまう。なんで? と声をあげようとした瞬間、そこに現れたのは部長の顔。仕事中の勇ましく精悍な顔からは想像だにつかない惚けた顔。
「あっ! ああっ……おおかみぶちょうっ!」
 思わぬサプライズに気が狂ってしまいそうだ。所詮は液晶モニタに映された光の集合体だというのに、半開きの口から漏れ出た吐息の熱がちんぽへと伝わってくる。
「こうして見ると匂いまで伝わってきそうだぞ」
 少しだけ意地悪に口角を釣り上げながら、大袈裟に鼻をスピスピと鳴らしてみせる。すっかり先ほどまでと立場が逆転してしまい、癪だという気持ちも少しはあった。けれどそれに文句を言ったりマウントを取り変えそうという思いは得体の知れぬ感情に全て塗りつぶされてしまう。
「ちんぽの口が物欲しそうにぱっくり開いてるな?」
 激しく右手をピストンさせながら小刻みに振動する部長の顔が一層カメラに近づいてくる。長いオオカミのマズルが魚眼レンズを通して見たように画面を覆い尽くした。
「ちっ、近いですって! 鼻がくっついちゃうう……」
 チュッ
 いよいよ画面から光源が無くなり真っ黒になると口付けの音が聞こえた。
「ああ……こんなにして、いやらしいちんぽだ」
 びゅっと先走りが噴き出した。
「ちんぽっ! ちんぽにもっとチューして! 我慢汁舐めて……っ!」
 恥も外聞も無く叫ぶように懇願する。啄むようなキスの雨が亀頭に降り注ぎ、その度にオオカミの鼻を、口元を先走りで湿らせていく。
「どんどん溢れてくるな……立派な雄ちんぽで羨ましいぞ」
 お互いに、後から聴き返したら恥ずかしくて死んでしまいそうなセリフだ。
 けれども快楽の坂道を駆け降りる車輪にもう歯止めはきかない。事象の地平面を超えてしまったならば何者もそこからは脱することが出来ないのだ。
 しばらく暗転していた画面に次に光が差し込んだ時、そこには大開きになったオオカミの口。ちんぽはおろか牛の骨だって噛みちぎってしまいそうなトラバサミの中で、哀れな獲物を誘い出そうと挑発的に蠢く紅色の触手。
「ううっ、ぶちょ……」
「エッチなちんぽ、食べちゃうぞ」
 現実と空想の境界が曖昧に溶けていく。僕のちんぽは今、この危険なトラップへと足を踏み入れた。
 ちゅぶぶっ……ぐぷっ……
「すご、すごいい……口の中熱い……」
 ぬぼっ、ぬりゅちゅっ
「あっ、ああ、口の中が大きいちんぽでいっぱいだ……はあっ」
 じゅこっ、じゅぼっ
「ぐっ……、んんっ、ちんぽ食べられて気持ちよくなっちゃってるっ!」
 じゅぼぼっ、ぬこっ、ぬこっ
「ちんぽおいしい……大人のちんぽの味……」
 にゅっ! ぬっ! ごぷ、れるっ
「あ、ああ、あっ! いく、いくっ! 口の中で射精しますよっ!!」
「いいぞ! 出して、ちんぽのミルクいっぱい飲ませてくれ!」
 びゅっ!
 勢いよく飛び出した第一陣が、モニタに白い筋を作った。射精の絶頂の中、スーパーコンピュータ顔負けの判断力で、もはや手の届くところにティッシュが無いことを導き出すと手のひらで亀頭を包んで飛び散らないようにカバーする。
 びゅーっ、びゅ……びゅぷ……びゅ……
 いつも一人でする時よりも倍以上は放出される精液。収まり切らずに溢れてフローリングに点々と雫が作られていく。
「あの、えと……」
 急激に息を吹き返した理性が、今までのことを、目の前の惨状に対して背筋を凍らせた。
 大神部長とてそれは同じだったのだが。
「いっぱい出たね? おいしかったよ」
 そう言って手のひらにすくった自らの精液をベロリと舐め上げて怪しい笑みを浮かべた。亀の甲よりなんとやら、さすがに一枚上手ってわけか。
「さて……っと。余韻に浸りたいのは山々だが、とっとと掃除するぞ、片桐。」
「はいっ! 部長!」
 特売の日にキッチンペーパーを多めに買っておいて良かった。しかしモニタはそれでいいにしても……キーボードは悲惨なことになっている。隙間に染み込んだ精液は上から拭くだけじゃ取りきれない。水洗いするしかないよなぁ。最悪ダメなら買い換えるか……。

「なあ片桐、今日はもうこれでいいか?」
「はい、すみませんでした……」
 これにて僕と部長の契約は成立したって訳だ。部長の秘密を守るかわりにと、調子に乗って色々と無茶な要求をしてしまった。でもそれももうおしまい。名残惜しさはもちろんあるけれど、男と男の約束を自分勝手な欲望で反故にするのはあんまりだ。
「録画したのも消しておけよ、いいな?」
 有耶無耶にしようと思っていたところに釘を刺されてしまった。そんな。せめてこの録画を見返して楽しもうと、未練を断ち切ろうと思っていたのに。別に流出させたりなんて気は毛頭無いし……そもそも僕も映ってるからね。
「返事は!?」
「はいいっ!!」
 鬼軍曹の声に、邪な考えもぶっ飛んで背筋がピンと硬直する。削除するふりをしてこっそり残しておこうかとも考えたのだが、この剣幕ではそれも無理だよなぁ。一理の望みにかけて大神部長の顔を見ると、これまでとは打って変わって猛獣そのもの。ひええ、迫力ありすぎだっての。
「おい」
 しょぼくれながら画面を拭いていた僕にまた声がかかる。やばい、また怒鳴られる。
「お前、新入社員の頃からひとの話を最後まで聞かないトコあるよなあ」
 確かに昔はそれが原因でよく怒られたっけ……でも今は僕にだって後輩も出来て指導だって人並みにはやっているし、仕事でのミスだって殆ど無いはずなのに。
「今日は、っていったんだ」
 強調されたその単語の意味を頭の中でぐるぐると反芻する。え、つまりそれって。
「じゃ、じゃじゃ、じゃあ明日はいいんですか!? 明日も休みですよね、朝からとかでも大丈夫だったり」
「いいから、そ・う・じ!」
「イエッサー!!」
 仏頂面のオオカミの背後で尻尾が風を切っていた。
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