ケモホモ短編

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気弱なオオカミくんとご飯を食べにいく話

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 四面楚歌。孤立無援。針の筵に前門の虎後門の狼、ってこれは違うか。
 ともかく今、とんでもなくピンチな状況に陥っている。この場において唯一の味方であるはずの彼は、ただただ申し訳なさげな顔をするばかりなのだった。まあ、だからといってあのときのことを悔やんでいるわけじゃない。あんな風に啖呵を切っておいて「やめときゃよかった」なんてダサすぎるにもほどがあるからな。

 会社帰り、駅へと向かう道すがら目に飛び込んできたその看板にパブロフの犬よろしく腹がグウと鳴る。牛丼か、悪くはない。このまま空腹を堪えて家に帰ったところで、待っているのはコンビニ弁当かカップ麺ぐらいなものだ。それならば久々の牛丼と洒落込むのもいいだろう。本当なら華の金曜日だから居酒屋で一杯ひっかけたいが……なんせ給料日前だから仕方がない、節約コースでいくか。
「っしゃいませえ」
 気怠げな店員の声。店内に響く流行りの歌。なんて曲だったかな、たしか最近流行っているアニメの曲。券売機を手早く操作してから空いている席へと腰掛ける。
 店員が食券を回収して、牛丼並盛りが運ばれてくるまでの間に辺りを見渡す。駅前のペンシルビルの一階にあるここはカウンター席だけの小さな店だ。店内には僕と同じく会社帰りのサラリーマンに大学生とおぼしき三人組、出勤前の食事を取る水商売風の男女。聞こえてくる会話はいかにもこの場にピッタリな、お洒落なイタリアンレストランでは絶対に聞こえてこないような内容ばかり。
 ま、そんなもんだよな。変に気取った雰囲気を出されても入りづらくなるし、これぐらいの空気感が僕にとっては居心地がいいくらいだ。そして暇つぶしにニュースでもチェックしようとポケットに手を伸ばしたとき、自動ドアの扉が開いて駅前の喧騒が雪崩れ込んできた。
「あー……」
 店員の戸惑いがちな声。顔を上げるとそこにいたのはオオカミの頭。獣人。時折街中でも見かけることはあるけど、こんな店で鉢合わせするのは初めてだ。
「ええ、えと、その」
 そのオオカミはひどく困惑がちな顔をして、食券を片手に空いている席を探しているようだ。不意に目があった。すがるような金色の瞳が絡み付くと胸の奥にどうしようもない居心地の悪さが押し寄せてくる。確かに僕の隣は空いているけれど、面倒なことに巻き込まれるのは勘弁だ。
「チッ……」
 誰かの舌打ち。それに端を発したのか別の誰かが口を開く。
「やだ、毛が入っちゃう!」
 確かに顔どころかつま先までびっしりと生えた体毛。服を着ているとはいえ、少し風が吹いただけでも抜け毛が飛ばされてくる恐れはある。
「なんか犬臭くね?」
「うげ、まじで食欲なくなるわ」
 学校でも会社でもイジメが無くならないのは、人間が元来そういう生き物だからなのだと聞いたことがある。種の繁栄のためには異質なものを排除して調和を保つ必要があるのだ。
「あの、大変申し上げにくいのですが……」
 場の空気を察した店員が奥歯に物を挟みながら両手をすり合わせている。
「ワンちゃんのご飯はここじゃないでちゅよー?」
 どっと笑いが起こった。集団になると、有利な立場になると、普段は温厚なひとでも途端に凶暴化する。あおり運転なんてその典型だろう。大きくて速い車のハンドルを握るとまるで自分が偉くなったように――
「いまはご入店いただけない状況でして、すみません」
 どういう状況だと言うのだろうか。席は、空いているのに。
「てか不法滞在なんじゃないの? あんなボロッボロの格好でさ。怪しくない?」
 牛丼を食べにきたという繋がりしかもたない集団の中に連帯感が構築されていく。かくいう僕自身もこの空気に飲まれて、ニュースでみた獣人による犯罪の特集を思い出した。
「とと、特別永住者証明書もちゃんとあります!」
 オオカミは慌てて財布から免許証に似たそれを取り出して、自分がここに居られることの正当性を訴えかける。でも偽造だったら。免許証だってパスポートだって、見た目を似せるだけなら簡単な話だ。
「おい! はやく追い出せよ!」
「動物園じゃねえんだぞ」
 いまだに動こうとしないオオカミに対して、当事者には直接向けられはしないものの店員を通して不満の矢が放たれた。店員はただただそれらをバックグラウンドにして、あくまで丁寧な態度で退店を促すのであった。表向きは獣人に対する差別は禁止されていて、一応は罰則だってある。適用された例があるのかはわからないけど。
 オオカミは口元にだけ曖昧な笑顔を浮かべ、あの金色を揺らめかせる。なんだかはじめとは違う種類の居心地の悪さ。弱い物イジメをして、サンドバッグにして喜んでいるこの連中と同じ穴の狢。
「別の店、いきましょう」
 我ながらなんでこんなことを口に出したのか。ヒーロー願望というよりは良心の呵責に耐えられなかったというところだろうか。突っ立っているオオカミの手を取ると、実家で昔飼っていた犬を思い出した。
「あ、ちょ、お客様、まだ注文の品が」
「結構です!」
 感情に任せてオオカミを店外へと連れ出し、人混みをかき分けて大股で歩く。もうあの店には行けないな。困り顔で引きずられるままにされているその姿に周りはギョッと目を剥くもそれ以上の関心は持ち合わせないようだ。まあ、こんな厄介な状況に首を突っ込みたくはないわな。そして当の彼自身も、下手に抵抗して争っているとみなされれば警察のお世話になりかねない。だからこうして連れ立って歩く他に選択肢は無かった、のだろう。

「あの、あのお」
 あてもなく彷徨い歩き、人もまばらな路地に差し掛かってようやくオオカミがおずおずと口を開いた。
「あっ! ごめんなさい」
 慌てて繋いでいた手を離す。どうしよう。何の考えも無しに飛び出してしまった。
「そそ、そうだ、牛丼代」
 大事なことをすっかり忘れていた。僕が無理矢理に連れ出したからこのオオカミは食いっぱぐれたんだった。あの状況じゃ到底牛丼にありつけはしなかっただろうが、少なくとも店員から食券の返金は当然の権利として受けられただろう。
「いえ、あのこちらこそすみませんでした」
 オオカミもポケットを探り財布を取り出した。もちろん僕も食べ損ねた身ではあるが、それは己の判断だし、数百円の小銭をせびるのはいくらなんでも不細工だ。
「僕が勝手にやったことなので。これ」
「いやいやこっちこそ!」
 互いに千円札を押し付けながら、相手からのそれは反対の手で阻止する。これ、お互いに受け取ったらプラマイゼロだよな、なんて脳裏に浮かんで笑ってしまいそうになる。なんだこの状況。
「ふふ、あっ、すみません」
 どうやら向こうも同じことを考えていたようだ。
「あー、どうしましょうね」
 別にこのまま解散するのもアリなのだが。だけど「別の店にいきましょう」なんて言った手前なあ。
「あのっ、僕はもう大丈夫ですので……こんなのと一緒にいたら普通のお店は入れないでしょうし」
 なんだよそれ。そんなこと言われたら余計に引けなくなってしまうじゃないか。それにどんな店だって入店拒否はできないはずなんだぞ。あくまでも建前だけの話だけど。
「じゃあ、入れる店でいいですよ」
 オオカミの顔はこれまでにないくらいに困惑の色に染まったのだった。

「らっしゃい!」
 裏路地からさらに奥に入った雑居ビルの中。
 看板も出ておらず、扉には会員制と書かれた札がかかっているのみ。初見では絶対にわからないぞ。
 先導するオオカミに続いて店内に入ると、こうなんというか、オブラートに包んで言うなれば野生的というか個性的というか、サファリパークというか。
「……そっちは?」
 しゃくられた顎の先には場違いな人間がひとり。身長二メートルは余裕で超えている用心棒みたいな相手に見下ろされると否が応でも身体が萎縮してしまう。おまけに獣人。僕だけだったら全力で走って逃げているところだ。
「あ、あ、あの、いっしょに」
 何ら遠慮する必要のない彼にも僕の緊張が伝わったのだろうか。
「へえ、そうかい。まあいいけど」
 よかった。なんとか招き入れてはもらえるようだ。
「ウチは人間サンが食うような洒落たモンはねえからな」
 歓迎はされていないみたいだけれど。
 薄暗い店内の中で、天井から吊るされたペンダントライトの光を反射した幾つもの眼光がこちらに差し向けられる。とても気のせいだとは思えない。案内されたカウンター席に座ると痛いくらいに背中がざわつく。
「すみません、やっぱり……」
 そっとオオカミが耳打ちする。正直なところ引き返すなら今のうちだろう。大袈裟な話、この先は僕が五体満足でいられることは保証されない。
「オススメ、どれですか?」
 それが精一杯の強がりだった。
 メニューにはまあ肉肉肉。オオカミ相手な商売だから当然っちゃ当然なのだが。先ほど忠告があったように彩りとか華やかさはこれっぽっちも感じられない、ザ・男飯といったものばかり。けれどもそれは腹ペコの僕にとってはどれも魅力的で、牛丼なんて頭の中から消え去ってしまう。彼の方も同じだったようで隣からグウと腹の虫が鳴くのが聞こえてきた。
「いやあ、珍しいお客さんだねえ」
 料理を待つ間、ふたりして気配を殺していたところに陽気な声がかかる。
「オレ、人間サンと話したこと全然なくてさ、一杯奢るから隣いいかな?」
 ビールジョッキを片手に首を傾げる姿は見た目には温厚そのものであるのだが、左隣の彼の表情を見ると不安げに目を泳がせている。あの店でこのオオカミがそう見られていたように、人間に好意を持つ獣人なんてのはテレビの向こうでしか知らない。
「きょきょ、今日は二人で……いえっ、なんでも、ない、です」
 にこやかな顔と憂わしげな顔に挟まれてパーティーが始まった。
 猜疑心の海の中で乾杯を交わしてから、アペタイザーとして運ばれてきたビーフジャーキーを齧ってみる。それは見た目の豪快さに反して薄味で、良く言えば繊細ではあるものの悪く言えば味気ない。もう少しパンチが効いているほうがビールには合うと思うのだけれども、オオカミは案外ヘルシー志向なのかもしれないな。それとも肉に並々ならぬこだわりがあるからこそ化学調味料で誤魔化したくないということだろうか。
「にしても、ほっとんど毛がねえんだな。触ってみてもいいか?」
 興味深げに僕の手を覗き込み、上目遣いにそう頼まれてしまうと無下に断る訳にもいかなくなってしまう。さっきから僕の影に隠れるように身を潜める彼はあてにならないし、この完全にアウェーな状況で空気を悪くするのは得策ではない。
 恐る恐る手のひらを差し出すと肉球の付いた指が絡み付いて、どうしようもない気持ち悪さが皮下を這いずり回り鳥肌がゾワリと起き上がる。さっきはそんなことなかったのに。やがて手相占いでもすべく顔が近づいてきて生暖かい鼻息が吹き付けられると、とうとう我慢できなくなって反射的に手を引いた。
「おっと、わるいわるい」
 おどけた様子でパッと両の手のひらを僕の方に向けて降参のポーズ。
「オオカミなんかに触られるのは嫌だよなあ。オレたち犬臭いからなあ」
 目が笑っていないぞ。あれほど賑わっていた店内がシンと静まり返って重苦しさが肩にのし掛かる。なるほどお互い様って訳か。ここでは僕がサンドバッグになる番なんだな。どう振る舞うのが正解だ? 下手に刺激はできないし、かといって沈黙を貫いたところで見逃してもらえるとは思えない。
「い、いえいえ。ちょっとくすぐったくてビックリしただけで」
 追い込み漁で網にかけられた魚だな。
「その、オオカミって格好いいですよね、僕すきですよ」
 焦るあまりに余計なリップサービスをしてしまうも後の祭りだ。なんとも底意地の悪い笑顔。口元は大きく裂けてギラギラと光る白い牙が覗き見え、赤ずきんのワンシーンを彷彿とさせる。
「嬉しいこといってくれるねえ。じゃあさ」
 もう一杯奢るよ! なんてそんな都合のいい話――
「親睦の証に、指の一本ぐらい齧ってもいいよなあ?」
 ――あるわけないよなぁ。
 え、まっていまなんて。なんかえらく物騒な台詞が聞こえたんですけど。
「おいおい待てよ」
 後ろのほうから諌める声。よかったマトモそうなひとがいて。
「独り占めはよくねえだろ。獲物はみんなでわけないとな」
 コイツもロクでもない奴だった。獣人が人間を食べるなんて都市伝説だ。極々一部の猟奇殺人者は例外として、そんなの過激な思想をもった一部の連中のでまかせに決まっている。
「俺は親指がいいなあ。噛みごたえありそうだし」
「しょうがねえ小指で我慢してやるよ」
「十本で足りるかなあ。あ、足もあるか」
 いや、いやいや。今日何日だったっけ。エイプリルフール? ハロウィン? ドッキリ大成功の札は見えないぞ。左のオオカミは何かを言いたげに口を開きかけるも俯いたまま黙りこくった。そうじゃないって。この場をなんとかできるのは君しかいないんだってば。カウンターの下で手を伸ばしてオオカミの膝を突いて助けを求めた。
「あの……」
「あん? なんか文句あっか?」
「いえ……」
 諦め早すぎだっつうの。苛立ちに任せてぎゅっとつまんで服の上から太ももの毛を思い切り引っ張る。
「いっ!? つう……あ、あのですね、その、そのひとはですね、ぼくの」
 ちょっと頼りないけど、ここでビシッと「俺の連れに手をだすんじゃねえ!」なんて凄んでくれればワンチャンあるぞ。さあ、がんばれ。漢気を見せてくれ、頼む。
「なんだよ。ボクちゃんのご主人様なんですー、ってか? ぶはは!」
 下卑た笑いがわんわんと耳に響く。同じ種族だからといって仲がいい訳じゃないのは同じなんだな。まあ今までの態度や言動を見ても彼は、諍いを避けて大人しく目立たないように過ごしてきたんだろうなってのは想像に難くない。もうこの場では誰も頼りにできない。走って逃げるか、それとも警察を呼ぶか。多勢に無勢だから彼らに有利な証言をされたら揉み消されて、あとは当事者同士で話し合って解決してねなんてことにもなりかねないけど、このまま黙ってやられるがままなんてのはごめんだ。
「あのっ! このひとは!」
 店中が、それは僕も含むのだが、その声の主を注視した。
「ぼっ、ぼぼ、ぼくの、ツガイですっ!!」
 沈黙、沈黙、沈黙。静寂の中で皆一様にきょとんとして互いの顔を見合わせている。ツガイ? つがいってあの番だよな。えっと、つまり。
「おい。客をあんまり脅かすんじゃねえ。まあ口に合うかはわからねえが食ってけよ」
 あの用心棒、兼マスター兼シェフが、いったい何人分なんだって量の大皿を差し出した。
「い、いやだなー、冗談だって冗談!」
 ピリピリとした空気が一瞬にして溶解して、僕の背中をバシバシと叩くとオオカミ達は各々テーブルへと戻り、また元のような賑やかな談笑の花が咲いた。
 後に残されたのは白い湯気を立てる肉の塊と、顔を真っ赤にしたオオカミが一匹。
 グゥ。どちらのものともつかない腹の虫。
「……とりあえず、いただきます」
 慌ててオオカミも手を合わせた。

 しばらくはもう肉を見ただけで胸焼けしそうだ。たっぷり一年分くらいは食べたような気がする。そりゃあもちろんとびっきり美味しかったし、あのボリュームにして信じられないくらいにリーズナブルだった。ふたりして箸を伸ばす度に舌鼓をうって美味い美味いと褒めちぎったものだから、気を良くして随分サービスしてもらったというのもあるのだが。
「あのっ」
 店を出るなりオオカミが口を開く。
「すみませんでした……」
 耳をぺったりと伏せてシュンとしてしまうオオカミ。別に謝る必要なんてないのに、なんですぐ謝っちゃうかなあ。これが彼なりの処世術なのだろうか。
「お詫びといってはなんですが」
 だからいいって。そう口を開く間もなくオオカミに手を引かれた。この裏路地にしてさらに奥の奥、雑居ビルの僅かな隙間。歓楽街の残渣が鼻をつく。どこからか溢れてきたネオンがタペタムに反射して怪しく光る。不穏な空気に背筋が凍りつく。一体何をする気なんだ。
「部活の先輩達に仕込まれたんですけど」
 そう言って置いてけぼりで突っ立ったままの僕の足元にしゃがみ込む。
「結構上手いって言われてたんですよ?」
 自虐的な笑顔。僕の股間に鼻を寄せてズボンの上からクンクンと嗅いでみせる。まったくもって理解が追いついてこず、なす術もなくベルトを緩められ、ジッパーを下げられても尚、何が起ころうとしているのかわからない。
「気持ち悪かったら目をつぶっててくださいね。ああ……久しぶり……」
 感触を確かめるように、曝け出されたちんぽをつまんで二、三度しごき、大きく口を開けるとそのままパクリと咥えこんだ。
「えっ、ちょ! なな、なにっ」
 そんな、嘘だろ。オオカミにフェラチオされている。ほんの十数分前に骨つき肉を頬張っていたその口の中に、今は僕のちんぽが入っている。口をすぼめネットリとした舌で舐め回されるにつけて、動揺とは裏腹にちんぽが膨らんでいくのを感じた。
「えへへ、おっきくなってきた」
 口淫を受け入れ、興奮とともに増加する体積を口内壁で認めて、無邪気な顔で喜んでみせる。
 ぐぶっ、ちゅぶっ
「まって、こんなっ……あっ」
 じれったいくすぐったさが亀頭から駆け上り、甘い疼きとなって精巣に響き渡った。
「おいひい……んむっ、はあっ……」
 今まで所謂大人のオモチャってやつで遊んだことは何度もある。それまで右手での快楽しか知らなかった僕は、ローションをたっぷりと含んでちんぽ全体を包み込み、シリコンのひだがカリ首を擦るその刺激に至上の快楽を味わったものだ。こんなにも気持ちいいのなら、わざわざ面倒な手続きを経て誰かを探さなくたって、やりたい時にすぐに取り出せて終わったら水でジャーっと流しておしまいの簡単で楽ちんなオナホで十分なんだと思っていた。
 だがどうだ、このオオカミの口は。長細く突き出たマズルがちんぽを根本まですっかりと飲み込んで、唾液腺から分泌されるじゅくじゅくと熱された粘液が火照りをもたらす。前後する頭の動きに合わせてちんぽが口内を往復し、亀頭が見えそうなくらいにずりゅっと引き抜かれた際には、まだ肌寒い夜風が濡れそぼったちんぽから気化熱を奪いキンタマを縮こまらせる。それでも冷えるどころか熱量はますます増加していき、これはまるで――
「ああっ、すごっ……あつい……ちんちん露天風呂に入ってるみたい……」
 ぐぼっ、ぬぶぶっ、ぐぽ、じゅぶぶっ
「んぐっ、はっ……ちんちんゴシゴシしてキレイにしましょうね?」
 理性をぶっ飛ばして脳みそがショートし、幼児退行の末に意味不明な妄言を口走る僕を宥めるように、子供に言い聞かせるようにしてオオカミは吸い付きをさらに強めていく。口内の、上顎にある肉ひだが名実共に洗濯板となって一日パンツの中で蒸されたちんぽから汚れをこそぎ落としていった。
「ね、ねえっ」
 ただされるがままに圧倒されて嬌声をあげるのが精一杯。もちろんこのまま全てを彼に任せて極楽を味わうというのも魅力的なプランではある。が、それでは僕の男の沽券にかかわるし、何よりも一番引っかかっているのはこの手慣れて余裕綽々といった態度。確か先輩がどうとか言っていた。体育会系の部活ではそういうコトがあるとまことしやかに、半ばネタとして噂には聞いたことがある。上級生の性の捌け口として後輩が自らの身体を提供するというのだ。過去のことを引っ張り出したところで今は何も変わらない。そんなことは当然わかってはいるのだが、僕のちんぽに懸命に奉仕するこのテクニックがかつて別の誰かに、それは同種なのか或いは人間なのかは定かではないが、そいつに仕込まれたという事実に苛立ちを隠しきれない。きっと今も、その初めての相手のちんぽが脳裏に浮かび、大きさも、硬さも、味も比べられている。僕はユニコーンじゃないし、ましてや彼の――
「つっ、つがいっ」
 思わぬボディブローに目を丸くする。
「つがいのっ、ちんちん……おいしい?」
 何度か頭の中で反芻したあと、ようやく理解したのだろう。全身の毛がブワッと膨らんだ。
 途端にそれまでの事務的な、小慣れた作業にぎこちなさが増していく。あの場を凌ぐためのその場限りの言葉だとしても、それにすがる他に道はない。
「あああっ……おいしい……ぼぼ、ぼくの、つがい……ちんちん」
 目尻を潤ませながら言葉を紡ぎ、制御装置を失った尻尾がバタバタと暴れ狂う。鼻息は荒くなってマズルの中はますます熱を帯びて僕の身を焦がした。
「ぼくだけの、つがい専用のちんちんのお風呂……んっ、あったかいよ」
 尻尾と同様にしっちゃかめっちゃかに動く耳を手のひらで包みこんでから、くすぐるように耳の裏をかいた。甘えるような鳴き声。支配欲と嗜虐心と、なんだか得体の知れない感情。どうせ真っ当な感情じゃない。これは性欲が作り上げた幻想。自分の都合の良いように捻じ曲げられた解釈。いいんだ。それで。ニセモノかもしれないけれど、ウソじゃないと思うから。
 ぐっぽぐっぽ、ちゅぶっ! ぬこっぬこっ
 激しくなるにつれてオオカミと僕の体温が混ざり合い平衡状態になっていく。身体の輪郭が溶けてなくなりもはや自分がなんであったのか、種族という言葉が意味を失って、ただただお互いを貪り喰らい続けた。
「いくっ……いく、のんでっ、全部のんで!」
 びゅるっ! びゅーっびゅっ! びゅぶっ、どぷ
 激情の迸りが怒涛の勢いでオオカミの口内にうち放たれていく。一滴たりとも溢したくないという思いが交錯して、どちらからともなくギュッと抱きしめ合った。
 太ももにチクチクと刺さるヒゲの痛みすらも、愛おしいとしか思えなかった。

「えーっと……あー、あの」
 オオカミがおずおずと口を開いた。そういえば、まだお互いの名前すら知らない。
 今更になって気恥ずかしさが押し寄せてきて、たまらず膝を着いたままのオオカミを抱きしめて首筋に頬を寄せる。こうすれば、顔を見なくても話せるから。
「あっ、け、毛がついちゃいますよ、匂いも……」
 つけてるんだよ、言わせるな。
「つがいの匂い、嫌いじゃ……すっ、好きだよ」
 嫌いという言葉が出た途端にシューンと垂れた尻尾を見て慌てて言い直す。
「ここじゃ落ち着かないしさ、ウチくる?」
 言わずもがな。返事は聞くまでもなかった。
 こうして手を繋いで歩くのは三度目だ。今度は先の二回よりもしっかりとぎゅっと握る。誰にも取られてしまわないように。
 道ゆく人々は訝しげな顔で道を開けて振り返る。オオカミと人間が、それも男同士で手を繋いでいるのだから良い見せ物だろう。
「そうそう。大事なことを忘れてた。僕の名前は――」
 そこまで言ったとき、遠巻きに見ていた酔っ払いの集団の一人がスマートフォンを構えたものだから、とびっきりでっかいVサインを笑顔を添えてお見舞いしてやった。
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