ケモホモ短編

@Y

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口に出さないとわからない

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 イヤフォン越しに聞こえてきたその台詞に、思わず同意の相づちを打ってしまった。見えるはずもないのに。
 オオカミの丸いアイコンの下に表示されていた、発言中を示すイコライザ風のインジケータが静かに勢いを失っていく。面直での会話と違って、インターネットを介した会議なんかでは相手の表情を読み取れないぶん、こうした気づかいが必要になってくる。
「まあ、そうですよねぇ。なんでも察してもらえるなんて思っていたら甘いですよね」
 ミュート釦を押してから、缶ビールを一口。
 これも〝気づかい〟のひとつ。今どきの安価で高性能なマイクであれば、咀嚼や嚥下の音をいとも簡単に拾ってしまう。一部の特殊な趣向を持つ人達以外にとっては、聞かされて嬉しいものではないだろう。
 時計を見ると、間もなく日付が変わりそうだ。始めたのが夕食を終えて一服してからだったので、もう五時間以上も喋っていることになる。
 これが会社での打ち合わせだったならば地獄としか思えないだろう。幸いにして此処には SNSの知り合いしかおらず、晩酌スペースと銘打ってとりとめもない話をするばかり。
「それじゃあみなさん、ちんちんの大きさ教えてくださいよ」
 参加しているメンバが反応を返す前に、すかさずタイトルをちんちん測定会場へと変更しておく。
 もし現実でこんなことをすれば即座にセクハラで訴えられるだろう。でも今参加しているのは全員が同じような性的指向で、ネット上で仮面を被った人格達。くわえてお酒も入っているとなれば、この程度のおふざけは場を盛り上げる良いアクセントだ。
 弁解しておくと、四六時中こんなことばかりを話しているわけじゃない。真面目な話題で語り合うことも多々ある。仕事や学校、好きなアニメや今度開催される同人誌即売会についてだったりと多種多様。そういった中で、エッチな話が群を抜いて便利というだけだ。
 此処にはリアルでは出会う機会すらないような人達が集まっている。当然、バックグラウンドも様々。そこで政治や宗教、あるいはお金の話なんかをすると、火傷をしかねない。エッチな話だってあまりに度を越すと相手を傷つけてしまうが、バカ話に収められる程度であれば問題ないだろう。

「じゃあ、言い出しっぺから申告な」
 トラのアイコンからツッコミが入った。
 もちろんぼくだって、話を振ったからには自分のサイズを申告する義務があるのは承知している。義務? いや違うな。喜んで測るとも。さっきからぼくのモノは準備万端だからな。
「ええと、定規定規……。そうですね、14、いや押しつけると15センチくらいですね」
 ちんちんの正しい測定方法は、定規を上からあてて恥骨に押しつけるらしい。が、どの程度強く押しつけるものなのだろうか。痛いくらいに定規を押し込めば1センチくらいの誤差は簡単にでてしまう。
「オレは24センチくらいかな」
「わたしは13センチで、太さは——」
 四、五人ばかりの参加者から、次々にサイズが発表される。人間と獣人とが半々くらいだから随分とバラエティに富んでいる。
 そして発表の度に、想像していたよりも大きいだの小さいだのと感想を伝え合う。だからなんだって話ではある。これだけ楽しい気分になれるのはお酒の効力だろうか。それにしても獣人のモノはでかい。身体のサイズに概ね比例するのか。
「ぼくは……測ったことがなくて。測れるモノあったかな」
 最後に残ったオオカミがそう漏らした。ちんちんのサイズなんてゲイにとっては、身長・体重・年齢に次いで重要なアピールポイントなのに。
「じゃあ画像を送ってくれたら、写真判定しますよ」
 勢いにまかせて言ったそばから、しまったと後悔が膨らんでくる。
 オオカミのアイコンにはミュート中を示す表示がなされている。気を悪くしたのだろうか。いくらエッチな話が万能とて、しつこすぎるのはよくない。下ネタにさほど抵抗がないことは以前の会話で確認はしていたが、自分から積極的に発信するほど得意ではないらしい。それに、自分自身を性的な目で見られることを嫌悪する人だっている。ぼくはむしろ見て欲しいくらいだけど、人は人。
「あー、ま、まあ、冗談はさておき」
 我ながら苦しい言い訳。ここはキチンと謝罪するべきだ。
「平常時が5.5センチで、勃起したら11センチでした」
 いつの間にかミュートを解除していたオオカミの声。
 萎えかけていたぼくのちんちんが熱を取り戻していく。普段のおおらかな声と、獣人というのもあって相当に大きいと思っていたのに可愛らしいサイズ。そのギャップがとても良い。そして、なによりも今ぼくを興奮させているのは、この場で勃起させてくれたということだ。当然、音声のみの通話だからこの目で確認した訳でもない。適当な数字を並べ立てて誤魔化すことだって可能だ。
 だが、このオオカミの性格からすると本当に勃起させて測定したのだろう。こうしてリアルタイムに会話している相手が勃起させているという事実だけで、十分オカズにできるくらいに昂ぶってしまった。すぐにでも抜いてしまいたい。
「種族別の平均サイズってネットで見かけるけど、本当にアテになるんですかね」
 我慢汁をティッシュで拭いながら、話題を続ける。いくらなんでも流石に「ムラムラしたんで今からオナニーしますね!」とは言えない。
 その後も、やれ剥けているかどうか、イクまでの早さがどうだ、硬さがどうこうと盛り上がり、翌日に支障がでそうな時間になったころにようやくお開きとなった。

 そうしてあっという間に朝になり、深酒したことを後悔しながら頭痛にまみれて目を覚ます。
 いい歳をした大人がちんちんのことではしゃぎすぎたと、少しばかりの反省。あまりああいった話ばかりをしていると、飢えているヤバい奴だと思われるかもしれない。実際飢えてはいるけれど、節度は大事だ。
 顔を洗い歯磨きを終えてから、スマートフォンの画面を見やると通知が一件。SNSアプリにメッセージが届いたことを示している。十中八九スパムだろう。最近多いんだよな。裏垢女子みたいなのか、怪しい副業かどちらかのパターン。開かずにブロックして削除するのが賢明だ。うんざりしながらアプリを立ち上げる。
 画像を送信しました:写真判定お願いします。
 スマートフォンをスリープにして深呼吸。
 もう一度開く。受信メッセージ一覧。オオカミのアイコン。そして彼から画像と共に、写真判定云々といったメッセージが送られたことを示している。
 まてまて、焦るな。過度な期待は禁物。グロ画像ということはなくとも、ネットで拾ってきた可愛いネコの画像とか、面白ネタ画像の可能性だってある。彼なりの意趣返しというヤツ。「おちんちんだと期待した? 残念でした!」みたいなパターンはあり得る。もちろんぼくもそれで目くじらを立てたりはしない。「たはー、これは一本取られました!」なんて返すくらいの余裕はある。はずだ。
 ちんちん。11センチの。
 下腹部周りを覆う毛並みの灰色とは対照的に、鮮烈な赤色。あからさまに勃起し、これでもかというくらいに性的興奮をしている証拠。マジ?
 いつもいろんな人に冗談めかして「ちんちん見せて」なんて言っているが、本当に送られてくるとは。ちんちんの画像を指で拡大縮小してから念のため保存。データのバックアップは重要だからな。
 ええと、どうしよう。昨日は結局抜かずじまいだったし、抜くか。その前になにかコメントを返信……いやそうじゃない。パンツを脱ぎ、昨日使った定規。カメラアプリ。指が震える。
『確かに11センチのちんちんです! エッチすぎてぼくも大きくなっちゃいました』
 添えたのは自らのちんちんの画像。
 見られたい。見て欲しい。そんな欲望が全身を支配する。ギブアンドテイクの精神を重んじるだけであれば、この一枚だけで事足りるはず。バーチャルな性行為が目的のやり取りではないはず。
 あとは妄想で済ませてしまおうとした矢先、既読済みとなった。画像に対してハートマークのリアクション。そしてコメントを入力中の表示。
『すごく大きい! 先端からエッチな汁がでちゃってますね』
 大人の対応。きっと場の空気に合わせてそういってくれているだけだ。そうに決まっている。あんまりやり過ぎると気持ち悪がられてしまう。
 だけど、口に出さないとわからない。自分の気持ちを伝えてみないとわからない。本当に嫌なら断ってくれるだろうし。だから。
『もっと、ちんちん見てほしいです』
 次の画像は、正面からちんちんを仰ぎ見るアングル。腫れ上がった亀頭が我慢汁でテカっている。
『隅々まで見ちゃってますよ。目の前で見せつけられているみたい』
 許しを得たぼくは、どんどんと調子に乗ってしまう。
 亀頭を大写しにしてみたり、横から撮ってみたり、手を替え品を替え、余すところなく見てもらおうと写真に収めては送信する。
 ぼくが画像と拙いコメントを送ると、しばらくしてから返信がくる。自尊心が急速に満たされていく。彼のとぼくのちんちんのサイズ差は大したものじゃない。オオカミにしては小さいものの、短小と評するのはいきすぎだ。もちろんぼくも決して巨根ではない。
『立派なちんちんでうらやましいですよ』
 こうまでいわれたら我慢できるはずがない。カメラを動画モードに切り替える。
『射精するところも見てください』
 いつもなら、フローリングにまき散らした精液を拭き取るときは賢者モードで最悪な気分だ。エッチな本でよくある一発抜いて即座に二回戦なんてファンタジーだと思っていた。それがどうだ。自分の身体にはまだまだポテンシャルがあるんだなと思い知らされた。

「もしよかったら、こんどの休みにご飯でもどうですか? 焼肉でも奢りますよ!」
 あれから数日後、いつもの通話が二人きりになったタイミング。
 下心がまったくない訳じゃない。そりゃあゲイ同士、リアルで会いましょうとなればワンチャンそういうコトを期待してしまう。
「えっ!? ま、まあ……いいです、よ?」
 ただ、どちらかというと贖罪の意味合いのほうが大きい。
 こうして通話では変わらず喋ってはいるものの、彼とのメッセージはあれっきり止まったまま。ぼくだけ勝手に盛り上がってしまった気まずさが、二度目を要求する気にはさせなかった。
 それに、いくらネット上で仲良くなって勃起したちんちんを見せ合ったとて、お互いの顔も知らない。エッチな展開を期待して合いにいったところで「別に好みじゃないし」と一蹴される可能性も高い。
 それよりは、口には出さないものの、あんな自分のオナニーに付き合ってくれたことへの感謝と、友人として彼のことをもっと知りたい気持ちが原動力だ。さて、このまま通話で詳細を詰めるのは、プライバシー保護の観点でマズいし、誰かが入ってきてもよろしくない。早々に切り上げて、後はメッセージでのやり取りに移る。
 メッセージの画面を開くと、まず飛び込んでくるのは自身の射精動画。興奮して頭がバカになっている時ならともかく、シラフではとても直視できない。やめろ、自動再生するな。
 彼の居住地は、プロフィールに記載された都道府県レベルでは知っている。更に、これまでの会話から大体の目星はついていて、特急列車で二時間弱の距離。日帰りも可能だが、お酒が入ることを加味すればホテルをとるほうが無難だろう。
 詳細な時間、待ち合わせ場所、安いホテルにおすすめの焼肉屋。パズルのピースを埋めていく。いきなり、しかも強引に誘った謝罪をする間もなく、彼との話はトントン拍子に進んでいった。向こうも少しはぼくに会いたいと思ってくれているのであれば嬉しいな。

「いやあ、ホント美味しかったです!」
 美味しいお店は評価サイトで探すよりも、地元民に聞くのが間違いない。旅先ではタクシーの運転手さんにお店を聞くのがハズレなしともいうしね。
「それは良かった。喜んでもらえたならぼくも鼻が高いよ」
 お腹をさすりながら満足げに尻尾を振るオオカミ。
 初対面での緊張もあったし、アイコンと実物とでは印象も違っていた。おまけに酔っ払ったとて焼肉屋で下ネタトークをする訳にもいかないから、お通夜みたいな空気にならないかヒヤヒヤしていた。結果としてはそんなものは杞憂で、聞き慣れた声というのもあってか、旧知の仲のように楽しく過ごすことができた。当初エッチなことを期待していたのも吹っ飛ぶ程に、充実した時間。お腹いっぱい、大満足ってヤツ。
「あ、じゃあ、ぼく泊まるところソコなので」
 蛍の光窓の雪。そういや蛍雪時代なんて雑誌があったな。今も売っているんだろうか。
 ともかく、名残惜しいがお開きの時間。お互いに学生であれば朝までオールなんてノリも通用しただろうが、そんな体力はとうの昔に置いてきた。それにぼくが良くとも、彼も彼なりの予定があるだろう。腹八分目。これくらいが丁度良い。向こうの都合さえつけば、いつでも会えるだろうし。
 ホテルに帰ったら、浮かれた気分のまま抜くのも悪くない。ビジネスホテルに泊まると何故かテンション上がって全裸になったりするんだよな。そして浮かれついでにまた見て貰うのも……。
「もし嫌じゃなければ、ホテルの部屋で、どう?」
 いいの!? 期待しちゃいますよ?
「ご馳走になっちゃったし、せめて一杯くらいは出させてよ」
 手をコの字にしてクイッと傾けてみせる。
 あー、はいはい。そうですよね。宅飲み、ああホテルだから部屋飲みか。ホテルと聞いてそういう妄想に直結してしまうなんて頭の中ピンク色かって話ですよね。今から居酒屋やバーにいくのも帰りが遅くなってしまうし、お部屋で軽く飲んで談笑しましょうってコトね。
「もちろん喜んで!」
 近くのコンビニに寄って、各々好きなお酒とツマミをカゴに入れる。社員旅行の夜を思い出す。日中散々楽しんだのに、これからもっと楽しくなるんだという予感。気心の知れた、いやちんちんを見知った仲であれば尚更だ。
「おじゃましまーす……ん?」
 カードキーを差し込んで部屋の明かりをつけてから促すと、オオカミが遠慮がちに入ってくる。そして視線の先にあるのは、ベッドの上に畳まれた二着のガウン。
「あ! いや、ちょうどキャンペーンかなにかで安くなっていたんですよね! ほら今、全国旅行なんちゃらとかやってるじゃないですか。それでとにかく安くなっていて、一室一名と一室二名の料金が数百円くらいの差しかなかったんですよね。いやあお得ですよね。せっかく泊まるなら広いお部屋のほうがいいじゃないですか。シングルルームってホント、ベッドがドーンと置いてあって以上! って感じですしね。まあ二名で予約したところで実際泊まるのはぼく一人なので、部屋のタイプはツインでもダブルでもどっちでもいいかなって。ホテル側としても空いている客室を使ってもらえたほうが良いだろうし、あわよくば広めのお部屋にアップグレードしてもらえたりなんか……」
 我ながら見苦しい。苦笑いするオオカミ。だって、そりゃあ期待するって。
 それに本来であれば客室には宿泊者以外が立ち入ることは禁じられている。ちょっとお部屋に遊びにいくだけというのも基本はダメ。もしホテルの人に見つかればつまみ出されてしまうだろう。我ながら先見の明がある。

「そういうことなら、さ」
 レジ袋をテーブルに置くなり、オオカミがぼくの目の前に立つ。
 こうして並ぶとやはり大きい。逆光の中でギロリと目が光り、舌なめずり。
 硬直したままのぼくをよそに、オオカミは身体をかがめていく。ビールとニンニクが混じる吐息がぼくの顔を撫で、そこで留まることなく更なる沈降。
 しゃがみ込んだオオカミの目の前には、ぼくの股間。なにかいいたげな視線。いいよな。合意済みだと解釈するぞ。よし、言うぞ。落ち着いて深呼吸。いざ口に出すとなると恥ずかしい。
「ちんちん、見てください」
 ただ鼻を鳴らしたのか「うん」と応えたのか曖昧な音。真っ黒な鼻先がズボンの上から押しつけられた。
 お互いに脱いだ服をベッドに放り投げる微妙な時間。端から見ると興ざめしてしまいそうな間。薄い本みたいにシームレスに戦闘態勢に移行できればよいのだけれど。まあ、これはこれでドキドキする。
「じゃ、じゃあ」
 ちんちんをオオカミの目の前に突き出す。
 二人とも先ほどと同じ体勢なのに、覆い隠すものがなくなると視線がむず痒い。
「やっぱり大きいね」
 そして鼻を近づける。
「エッチなちんちんの匂い」
 耳の先がジンジンと痛むのは、きっと強すぎる暖房のせいだろう。
「こ、こんなにまじまじと見られると恥ずかしいですね」
 触れてもいないのに先走りが滲み始める。
「大きいちんちんの恥ずかしいところ、いっぱい見せて」
 その言葉に呼応して、ピクピクと脈動して頭を持ち上げる。裏筋も見てくれといわんばかりだ。初対面の相手に勃起したちんちんを見られてしまっている。こんな、気軽に見せちゃいけない場所なのに。
「す、すみません。こんなお見苦しいものを……」
 上辺だけの弁解に意味なんてないのに。
「ううん。見せてもらえて本当に嬉しいよ、ほら」
 指さしたのはオオカミ自身のちんちん。やっぱり小さい。けれど、真っ赤に膨れ上がってテカテカの亀頭。リップサービスなんかじゃない、正真正銘の性的興奮。ぼくのちんちんを見て、嗅いで、エッチな気分になってくれている。もっと見て、目に焼き付けてほしい。絶対に忘れられないように記憶に刻みつけたい。SNSでぼくのアイコンを見る度に、このちんちんを思い出してほしい。
「えと、あの」
 どれだけ時間が経ったのか。体感としては何十分だが、現実には五分か十分か。このまま無限にちんちんを見てもらうのもやぶさかでははない。ただ、やっぱり恥ずかしさもあるし、なによりこんな生殺しの状態では精神が持ちそうにない。これ以上はさすがに〝見る〟だけでは済まなくなる。腰をよじり、手で股間を覆い隠そうとしたそのとき。
「恥ずかしがり屋のちんちんが逃げないように、パクッとお口で捕まえないといけないかな?」
 そんな、このオオカミの口の中に、ちんちんが入っちゃうだなんて。
 分厚いロース肉をいとも簡単に噛み切った牙が生えている場所に。恐怖心と好奇心が渦を巻く。
「あ……えっ……」
 舌がもつれて上手く声がでない。
 許可を待ちわびるオオカミの視線。ここまでくれば、ぼくがただ一言発すればいい。

「口に出さないとわからない、よね?」
 そうだ。この状況だから後はわかるよな、なんて察してもらおうなんて甘いよな。意を決して——
 ちゅっ。れるっ。がぷっ。
「おわっ!? え、あのっ!?」
 バンジージャンプで覚悟を決める前に突き落とされた気分だ。入っている。オオカミの口の中にちんちんが入っている。
 じゅぶっ。ぐぷ、にゅぽっ。
 唾液にまみれたちんちんが、長い口吻を掘り進むように往復する。
「ちょっ! 口に出すって、そういう意味じゃっない、いっ!」
 抗議の声が届くはずもない。鍾乳洞のような見た目とは裏腹に、柔らかい肉壁が余すところなくちんちんを包みこむ。
「はぁっ、おくちっ! ちんちん、つかまってるぅっ!」
 にゅこっにゅこっ、ぶぽ。ぐじゅっ。
 ピストン運動が激しくなるにつれ、摩擦熱もあってか溶け出してしまいそうな熱量。
「ぷはっ。我慢汁をまき散らして悪いちんちんだなぁ」
 仮釈放も束の間、また収監。
「だめ、だめっ! 逃げないからっ、ちんちんいじめないでっ」
 もっと、もっといじめてほしい。
 裏筋でうねっていた舌が、にゅるりと亀頭を取り囲む。カリ首を擦りあげてから、今度は亀頭へ。器用に細められた舌先が尿道口をほじくり返す。快楽の許容量を振り切って、甘い痛みすらもたらされる。ちんちんの根元から精液がこみ上げてくる。どう我慢したところであと二、三秒が関の山。
「いくっ、ちんちんぴゅっぴゅしちゃう! お口の中でちんちんミルクでるっ!」
 びゅっ! びゅる、ぴゅ! びゅく、びゅるっ。
 荒い鼻息。嚥下音に合わせて滑らかに搾り取られる精液。
「またご馳走になっちゃったね」
 そう息をついたオオカミの股間も、白濁した粘液にまみれていた。

 あらゆる液体まみれとなったカーペットを取り急ぎ掃除し、同じく濡れそぼった身体をシャワーで清める。なんとなく暗黙の了解のように二人でバスルームに入ったものの、お互い会話は皆無だった。
「あ、これ……」
 汗だくになったのは、冷蔵庫に入れそびれたお酒たちもだった。とうの昔に温くなっているだろうし、今から冷やしたところで適温になるのは数時間後だろう。アイスディスペンサーが同じフロアに設置されているようだが、さすがにビールに氷を入れるのはな。そういう飲み方もあるにはあるらしいけど。
「寝ましょっか」
 それが最適解に思えた。
 全裸のままベッドに入り、横に並ぶ。絶妙に空いた隙間。
 天井を眺めるのにも飽きて、オオカミの方を向くと目が合った。常夜灯を反射する金色の瞳。
「見てもらえて、気持ちよかったです。それに、その、口の中もすごかったです」
「うん」
 そうじゃなくて。
「また機会があったら、お願いします」
 違うって。
 思い切って手を伸ばすと、彼の手のひらに触れた。肉球って案外硬いんだな。
「ええと、あのですね」
「オオカミは……いやぼくは、結構独占欲強いけど大丈夫?」
 先手を打ったのは彼だった。
「ぼくもです」
 誰かにではなく、あなたに見て欲しい。
「ぼくの恋人になってください」
 歯磨き粉と、精液の香り。
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