ノーザンライツ

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白いオオカミ

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 雪に閉ざされた北極圏の白い大地を一人歩いている。
 足の肉球を刺すような痛みも、少し前から痺れるような感覚に取って代わりはじめて、このままでは指先から壊死してしまうのではないかという恐怖感を覚えさせた。
「くそっ、やべぇな……」
 ちらちらと降っていた雪が段々と吹雪の様相を見せ始めたことに悪態をついてみたところで何ら事態は好転しない。
 そもそも何故こんな所を一人で歩く羽目になったのか、寒さに強いハイイロオオカミの自分ですら凍えてしまう極限の環境。どうして、を考えたところで苛立ちと後悔を生むだけだった。
 ウオォーーーン……
 陰鬱な気持ちを振り払うように遠吠えをする。誰に届くとも思っていない。ただ白く塗りつぶされていく世界の中で、自分の存在を確かめたかっただけだ。
 雪の上に身体を横たえて目を閉じる。きっと春には草の肥やしぐらいにはなるだろう。

 ズリ……ズリ……
 身体を引きずられるような感触。
 首元に圧迫感とほのかな痛み。随分前に死んでしまった母親を思い出した。

 温もりに包まれている。
 これがあの世ってヤツだろうか。
「かあさん……」
 何故こんな事を口走ったのか自分でもわからない。ただこの暖かさがずっと続いて欲しいと願っていた。
 やおら目を開けると、一面の白。あの世では雪も暖かいのか。夢見心地のままその雪の中に鼻先を突っ込んでふすふすと匂いを嗅いでいると、ひゃっと小さく声が上がる。
 自分とは違う動物の匂い。オオカミ……?
「あの……」
 遠慮気味にかけられたその声にはっとする。むくりと動いたその雪玉は、胸元に顔を埋めている俺を困ったような顔で見つめていた。
「お、おまえっ!誰だよっ!?」
 それがホッキョクオオカミとの出会いだった。
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