18 / 65
第18話 懺悔
しおりを挟む
「じゃあ礼二さん、また今度」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「ふふん、ネココがついているから心配いらないニャ!」
「そうだな、じゃあ、二人をよろしくお願いします、美鈴さん」
「はい、静子さんとネココさんの護衛は本官にお任せください」
「ネココは戦力外ニャ!?」
突発的に開催されたパジャマパーティーから夜が明け、俺はネココや美鈴さんと一緒に自宅へと帰っていく静子ちゃんを見送った。
それでも普通に生きている人間には、静子ちゃんが一人で帰っているように見えるだろうが、今はもう人通りのある時間帯だし、美鈴さんが送っているのは、それが警察官である彼女の仕事だからという理由の方が強いだろう。
実際、彼女は現実世界の人や物体に直接触れることは出来ないので、もし護衛としての役割が必要な場面に遭遇したとしても、活躍するのはネココの方になるだろうからな。
「心配ですか?」
「まぁ、少しはな……だけど、今はネココもついてるし、本当に一人でここを行き来していた時よりは不安は少ない」
そんなことを考えながら、遠くなっていく彼女たちの背中を眺めている俺に、後ろから地方公務員の宇井さんが声をかけてきたので、俺は今の正直な気持ちを答える。
彼女も同じように、ポルターガイスト能力は持っていないので、一緒について行っても役に立たないということで、見送る側に回った……ということだが、多分、それだけが理由ではないのだろう。
「……少し、話をしてもよろしいですか?」
「……ああ」
だから俺は、きっとその話とやらが、彼女がここに残った本当の理由なのだろうと察して、一緒に俺の部屋まで戻っていった……。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
部屋まで戻ると、俺はいつものルーチンでお茶を入れて、ちゃぶ台に置く。
今、この場にいるのは、昨日と変わらない姿の俺と、ピシッとしたスーツ姿に着替えている宇井さんだけ……昨日、パジャマ姿の彼女を見ているだけに、何だか微妙に気まずく感じているのは、俺だけだろうか。
ちなみに、タクシー役のキーヤンこと佐藤 吉一郎は、外で自分の車をメンテナンスしながら、タバコを吸っている。
そして、昨日、美鈴さんに追われて俺の家に来たものの、ずっと布団で簀巻きにされていた錬は、朝起きて確認した時には既にいなかった。
ロープで縛られた布団だけを残して、中身は空……きっと、拘束の際にネココに霊体化されていた布団やロープを、彼自身のポルターガイスト能力で実体化させて、静かに通り抜けて出て行ったのだろう。
思い返してみると、俺たちがトランプで遊びだした時には静かになっていたので、あの時は寝たのかと思っていたが、もうその時には逃げ出していたのかもしれない。
ズズズ、と、二人分のお茶を飲む音が部屋に響き、コトン、と、ちゃぶ台に湯呑を置く音もほぼ同時に聞こえた。
前回の俺が住所登録の手続きをした時もそうだったが、宇井さんは話を溜めて、気まずい空気を作るのが趣味なのだろうか……。
話があると言ってきたのは彼女の方なので、それならさっさと彼女の方から話を始めて欲しいのだが……。
「あのー……」
「静子さんの事ですが……」
沈黙に耐えきれなくなった俺が発した声と、やっと話始めた宇井さんの声が被る。
気まずいことこの上ないが、まぁ話が進みそうなので気にしない方向でいこう。
「静子さんの事ですが、彼女とあなたはどういった関係なのでしょうか?」
「……」
何となく、そんな質問が飛んでくるんじゃないかと思っていた俺に、予想通りの質問が飛んできたが、まだ明確な回答を用意できていなかったので、少し言葉に詰まってしまう。
見た目は俺より若そうだったが、美鈴さんも、宇井さんも公務員という立派な職業に就いている社会人で、大人だ。
おそらく、昨日の時点でこの話題を出したかったのだろうが、空気を読んで、静子ちゃんの笑顔を壊さないことを優先して行動してくれたのだろう。
質問をするタイミングを伸ばしてくれたとはいえ、美鈴さんも宇井さんも、職業的に、この辺りのことは聞かないといけないだろうからな……美鈴さんが静子ちゃんを送って、宇井さんがここに残ると言った時点で、この状況になることは何となく想像していた。
「……」
宇井さんは、沈黙を保っている俺に対して、問い詰めたり、返答を急がせたりすることなく、ただ黙って、俺が自主的に話始めるのを待っている。
これで相手が強面の刑事とかだったら、取調室でカツ丼でも出されているような気分にでもなったのかもしれないが、彼女からは不思議とそんな威圧感は全く感じず、むしろ、母親に優しく見つめられているような感覚さえしてきた。
地方公務員と言っても色々な仕事があるし、もしかすると彼女は生前、そういったスキルが必要な仕事をしていたりしたのだろうか……。
「ちょっと頭の中で話が整理できてなくて、時系列がバラバラになったり、冗長になったりするかもしれないが、それでもいいか?」
「構いません」
「そうか、じゃあ、まずは……」
そうして、俺は静かに、つらつらと、取り留めなく、俺がまだ生きていた頃に静子ちゃんとどんな出会い方をしたかとか、俺が命を落としてから彼女とどんな出会いをしたかとか、その後、彼女とどんな交流を持ったかといった話を始めた……。
まるで、教会の懺悔室で、自分の罪を告白するかのように……。
「ああ、気を付けて帰れよ」
「ふふん、ネココがついているから心配いらないニャ!」
「そうだな、じゃあ、二人をよろしくお願いします、美鈴さん」
「はい、静子さんとネココさんの護衛は本官にお任せください」
「ネココは戦力外ニャ!?」
突発的に開催されたパジャマパーティーから夜が明け、俺はネココや美鈴さんと一緒に自宅へと帰っていく静子ちゃんを見送った。
それでも普通に生きている人間には、静子ちゃんが一人で帰っているように見えるだろうが、今はもう人通りのある時間帯だし、美鈴さんが送っているのは、それが警察官である彼女の仕事だからという理由の方が強いだろう。
実際、彼女は現実世界の人や物体に直接触れることは出来ないので、もし護衛としての役割が必要な場面に遭遇したとしても、活躍するのはネココの方になるだろうからな。
「心配ですか?」
「まぁ、少しはな……だけど、今はネココもついてるし、本当に一人でここを行き来していた時よりは不安は少ない」
そんなことを考えながら、遠くなっていく彼女たちの背中を眺めている俺に、後ろから地方公務員の宇井さんが声をかけてきたので、俺は今の正直な気持ちを答える。
彼女も同じように、ポルターガイスト能力は持っていないので、一緒について行っても役に立たないということで、見送る側に回った……ということだが、多分、それだけが理由ではないのだろう。
「……少し、話をしてもよろしいですか?」
「……ああ」
だから俺は、きっとその話とやらが、彼女がここに残った本当の理由なのだろうと察して、一緒に俺の部屋まで戻っていった……。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ありがとうございます」
部屋まで戻ると、俺はいつものルーチンでお茶を入れて、ちゃぶ台に置く。
今、この場にいるのは、昨日と変わらない姿の俺と、ピシッとしたスーツ姿に着替えている宇井さんだけ……昨日、パジャマ姿の彼女を見ているだけに、何だか微妙に気まずく感じているのは、俺だけだろうか。
ちなみに、タクシー役のキーヤンこと佐藤 吉一郎は、外で自分の車をメンテナンスしながら、タバコを吸っている。
そして、昨日、美鈴さんに追われて俺の家に来たものの、ずっと布団で簀巻きにされていた錬は、朝起きて確認した時には既にいなかった。
ロープで縛られた布団だけを残して、中身は空……きっと、拘束の際にネココに霊体化されていた布団やロープを、彼自身のポルターガイスト能力で実体化させて、静かに通り抜けて出て行ったのだろう。
思い返してみると、俺たちがトランプで遊びだした時には静かになっていたので、あの時は寝たのかと思っていたが、もうその時には逃げ出していたのかもしれない。
ズズズ、と、二人分のお茶を飲む音が部屋に響き、コトン、と、ちゃぶ台に湯呑を置く音もほぼ同時に聞こえた。
前回の俺が住所登録の手続きをした時もそうだったが、宇井さんは話を溜めて、気まずい空気を作るのが趣味なのだろうか……。
話があると言ってきたのは彼女の方なので、それならさっさと彼女の方から話を始めて欲しいのだが……。
「あのー……」
「静子さんの事ですが……」
沈黙に耐えきれなくなった俺が発した声と、やっと話始めた宇井さんの声が被る。
気まずいことこの上ないが、まぁ話が進みそうなので気にしない方向でいこう。
「静子さんの事ですが、彼女とあなたはどういった関係なのでしょうか?」
「……」
何となく、そんな質問が飛んでくるんじゃないかと思っていた俺に、予想通りの質問が飛んできたが、まだ明確な回答を用意できていなかったので、少し言葉に詰まってしまう。
見た目は俺より若そうだったが、美鈴さんも、宇井さんも公務員という立派な職業に就いている社会人で、大人だ。
おそらく、昨日の時点でこの話題を出したかったのだろうが、空気を読んで、静子ちゃんの笑顔を壊さないことを優先して行動してくれたのだろう。
質問をするタイミングを伸ばしてくれたとはいえ、美鈴さんも宇井さんも、職業的に、この辺りのことは聞かないといけないだろうからな……美鈴さんが静子ちゃんを送って、宇井さんがここに残ると言った時点で、この状況になることは何となく想像していた。
「……」
宇井さんは、沈黙を保っている俺に対して、問い詰めたり、返答を急がせたりすることなく、ただ黙って、俺が自主的に話始めるのを待っている。
これで相手が強面の刑事とかだったら、取調室でカツ丼でも出されているような気分にでもなったのかもしれないが、彼女からは不思議とそんな威圧感は全く感じず、むしろ、母親に優しく見つめられているような感覚さえしてきた。
地方公務員と言っても色々な仕事があるし、もしかすると彼女は生前、そういったスキルが必要な仕事をしていたりしたのだろうか……。
「ちょっと頭の中で話が整理できてなくて、時系列がバラバラになったり、冗長になったりするかもしれないが、それでもいいか?」
「構いません」
「そうか、じゃあ、まずは……」
そうして、俺は静かに、つらつらと、取り留めなく、俺がまだ生きていた頃に静子ちゃんとどんな出会い方をしたかとか、俺が命を落としてから彼女とどんな出会いをしたかとか、その後、彼女とどんな交流を持ったかといった話を始めた……。
まるで、教会の懺悔室で、自分の罪を告白するかのように……。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
死霊術士が暴れたり建国したりするお話
はくさい
ファンタジー
多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。
ライバルは錬金術師です。
ヒロイン登場は遅めです。
少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」
masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。
世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。
しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。
入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。
彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。
香織は、八重の親友。
そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。
その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。
ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。
偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。
「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。
やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。
その中で、恋もまた静かに進んでいく。
「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。
それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。
一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。
現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。
本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる