地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない

naimaze

文字の大きさ
21 / 65

第21話 酔っ払い追加

しおりを挟む
「えーっと……これがここだから……あれ、違う? こっち向きかな……いや、それともこっち向き? うんー?」

 廃ビルの1階、ドアなどが設置されていない開きっぱなしの入り口を入ってすぐのエントランス区画で、説明書を片手に、広げられた大きな合成繊維の布の周りをくるくると回っている若い女性が1人。

 彼女の前には、その特殊な形をした大きな合成繊維の布の他にも、ゴム紐で連接された金属の棒やロープ、大きな釘のようなものが並べられており、今か今かとその活躍のタイミングを待っているようだが、その出番はなかなかこないらしい。

 言わずもがな、これは立てられる前の状態のテントなのだが、その様子から察するに、彼女はテントの設営やキャンプ自体が未経験か、少なくともこのテントを立てた経験はないのだろう。

 一応、このテントは、値段だけで言えば、初心者にも手が出しやすいくらいの価格ではあるし、立てた後の見た目としてはなかなか映えそうな見た目にはなるのだが、可能であるならば、俺はあの番組スタッフに一言、物申したい……。

 なぜ非自立型のテントを選んだ……。

 初心者には自立型の方が分かりやすいとかは置いておくにしても、ここ、コンクリート床の屋内なんですけど?

 いやまぁ、別に、重りになるようなものを見繕ったり、ロープを固定できそうな場所を探したりすれば立てられなくは無いよ? でも、初心者に説明無しでそこまでやらせるのはちょっと無理があるんじゃないかなぁ……。それ多分、今も彼女が真剣に眺めてる説明書に書いてないよ?

 今も録画が回ってる自主撮影用のハンディカメラは、バッチリと三脚で立てられてるみたいだけど、カメラの三脚を立てるのとテントを立てるのは違うからね? カメラの向こうの未来の視聴者も、この光景を見て、絶対俺と同じことを想ってるからね?

 まぁ、悩んでる姿も可愛いらしいし、スタッフもそれを見越してこのテントを選んだんだと思うけど、さっきの涙を見た後だと、ちょっと不憫さが勝っちゃうかなぁ……。

「あ、先輩ー、こんな入り口で珍しいっすね、何やって……」

 と、そんなことを考えながら、ゴム紐で連接された金属の棒ポールを持って首をかしげている彼女を眺めていると、廃ビルの外から、またいつものように缶の酒が詰め込まれたビニール袋を提げてやってきた男が1人……。

 元職場の後輩こと管野 錬くだの れんは、片手を上げて俺に挨拶を投げかけつつ、入り口からエントランスに入ってきて、俺が後方で腕を組んで見守っていた視線の先にいるグラビアアイドル、平井ひらい るあ ちゃんを視界に捉えると……。

「……もしもし美鈴ちゃん? なんか廃ビルで薄着の女性をじっと眺めている不審者がいるんだけど」

 スマホを耳に当てて、突然そんなことを言い始めた……。

「ちょちょちょ、待てぇぇえええぇええい!!!」

「うわ、不審者が近づいてきたっ」

「誰が不審者だ!」

「いやだって、こんな場所でじっと女の子を眺めてるとか明らかに……」

「俺は! 善良な!」「無職の」「一般市民だ!!」

「……」

「……今、俺のセリフの間になんか挟まなかったか?」

「え? 気のせいじゃないっすかね」

 そんなこんなで、よくない誤解を生んでしまうような絶妙なタイミングで、それが誤解だと分かった上でも絶対に絡んでくるであろう面倒な奴に見つかってしまったわけだが、まぁ、俺自身、この状況をどうしたものかと悩んでいたし、ちょうどよかったか。

 俺は、今日も今日とて軽いノリで、その日その時を全力で楽しんでいる酔っ払いの後輩に対して、そこまでする必要はないかもしれない弁明も混ぜながら、今の状況を説明し始めた……。

 ……というか、元はと言えば、こいつが学生の肝試しにちょっかいを出したのが原因なんだし、俺なんかよりもよっぼどこの問題を解決する義務があるだろう。

 この状況に対して俺が心配しているのは、廃ビルの二階にある俺の住処が発見されたりしないかと、耐久面でもセキュリティ面でも心配なこの建物で彼女に危険が及ばないかの2点……。

 ……いや、俺の睡眠時間が確保できるかの心配も含めると、3点か。

 ま、そんな風に問題だらけなわけだが……はてさて、何からどう手を付けて行ったらいいものかねぇ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

はくさい
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

処理中です...