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第51話 曇り空
しおりを挟む「……まずは、申し訳ございません。静子ちゃんが今の状態になった原因の多くは、私にあります」
まだ窓の外では大雨が降り続いている廃ビルの一室。
俺がちゃぶ台を挟んで宇井さんの向かい側に座ると、彼女は静かに、謝罪の言葉を述べた。
「宇井さんに原因……?」
「いや、宇井さんは悪くないっすよ。ただちょっと、色々と悪いタイミングが重なっただけで」
「錬、お前は何があったか、もう聞いてるのか?」
「そうっすね、先輩がヨダレを垂らして寝ている間、暇だったっすから」
「……」
部屋の中には、俺と、錬と、宇井さんの3人だけ。
俺と宇井さんはちゃぶ台を挟んで向かい合って座っているが、錬は手を頭の後ろに組んで、窓の近くの壁に背中を預けていた。
宇井さんをここまで連れてきた、タクシー役のキーヤンは、部屋に入ればいいのに、こんな大雨の中、外に停めてある車の中で待っているらしい。
「まぁ、宇井さんが原因がどうかは、俺も最後まで話を聞いてから決めるよ」
「ありがとうございます。では、私達が原宿を歩いていたところから、お話させていただきます」
※
今から数時間前、空には少しずつ雲がかかってきたものの、まだ雨までは降りだしていなかった時間帯……。
一通り原宿を遊び歩いた集団デート組は、少し休憩をしようという話になり、幽霊も一緒に入れそうな喫茶店を探していた頃の事らしい。
「あっ、これってもしかして、よく聞く有名なチェーン店ですか?」
この集団デートの企画主であり、宇井さんとキーヤンをカップルにしようと画策していた張本人であるはずの静子ちゃんは、複合施設の入り口付近に立てられていた案内板を見て、ひとつの店を指さす。
その問いは、彼女の後に続く全員に向けられたものだったが、周囲の人間からは、その声に反応したのは一人だけだったように見えていただろう。
「そうですね、私もよく利用しますよ、マネージャーさんが差し入れに買ってきてくれることもありますし」
「うーん、確かに、よく見かけるニャ……でも、ネココは苦いのは嫌いだから、こういうところには近づかニャいニャ」
実際に彼女に近づいて会話に参加したのは2人。
1人は、サングラスをかけて大きめの帽子をかぶった、プロポーションの良い女性で、もう1人は、どう見ても、女子高生の静子ちゃんより年下にみえる女の子。
正確には、雑誌の表紙を飾るくらいには有名なグラビアアイドルをやっているとうことを考慮して、周囲に自身の正体がバレないように変装している、るあちゃんと、この世界で過ごしている年数としては、そんな社会で活躍している彼女よりも年上な、ネコミミ幽霊のネココ。
静子ちゃんもそれなりに高水準と思える容姿を持っているため、彼女と、るあちゃん、2人が並んで会話していても違和感が無いだろうが、その2人の間に小中学生くらいの、ネコミミ型カチューシャを付けた女の子が混ざっているのが見えていたら、それなりに注目を集めていただろう。
「ふふふ、ネココさん、ここにはなんと、苦いコーヒーが苦手な人も飲める、甘くておいしいドリンクも売っているんですよ!」
「そうなのかニャ?」
「はい! ……と言っても、クラスの女の子たちがそう言っていただけで、私自身は1回も入ったこと無いんですけど……何となく1人じゃ入りづらい雰囲気ですし」
そんな風に、案内板の近くで、傍から見たら2人、実際には3にんが会話をしている様子を、少し後方から見守っている大人が3人。
今回の主役であったはずの、私服姿でも内なる真面目さが隠しきれていない、宇井さんと、いつも通りロックでパンクな服装をしている、キーヤン。
そして、宇井さんの付き添いできた、今回はちゃんと季節感の合ったラフな格好をしている、美鈴ちゃんだ。
最初の頃は、企画主の静子ちゃんも、当初の目的通り、宇井さんとキーヤンをくっつけるために、るあちゃんやネココと一緒に、2人の距離を近づける色々な手を尽くしていたようだが、そんな行動に対して、宇井さんもキーヤンも、望んだ反応は返してくれなかった。
というよりも、宇井さんとキーヤンは、割と早い段階で、静子ちゃんの企みに気づいていて、ただ、それを咎めることはなく、子供の遊びだと思って、ずっと静子ちゃんの行動に付き合っていたような形だったらしい。
2人をくっつけるようなアクションは起こさなかったものの、どちらかというと、宇井さんとキーヤンが自分と同じように甘々なデートをすることになるのを見てみたいと思っていた美鈴ちゃんは、そんな2人の様子を見て、「これが……大人のデート……」と、何やら企画組の3人とは別のショックを受けていたようだ。
「ちょっと、ここに寄ってもいいですか?」
静子ちゃんが、そんな大人組の3人に振り返って、そんな質問を投げかける。
「ここは……残念ですが、幽霊の対応店ではないようです」
「まぁ、チェーン店で対応しているところの方が珍しいですからね、しかも、そのお店があるのは、大きな商業施設の中のようですし」
彼女の質問に対して、案内板を確認し、最初に回答を出したのは、キラリと陽の光を反射させるメガネが似合っている宇井さん。
それに続くような形で、美鈴ちゃんも、目の前の大型商業施設を見上げながら、そんな回答を上げた。
「But! オレたちの事は放っておいて、グラビアアイドルと2人で行ってきてもI don't careだぜ!」
「えー? ネココはお留守番なのかニャー?」
「仕方ありません、それがルールですから」
「ぷんぷんニャ! 委員長はルールに真面目過ぎるニャ!」
「委員長ではありませんが、地方公務員ですから」
キーヤンは、せっかく行きたそうにしている静子ちゃんを気遣ってか、幽霊でない2人で行ってくればいいと提案するが、静子ちゃんの説明で少し行きたくなっていたらしいネココは、その提案に不満げな様子だ。
宇井さんがそれが決まりだとネココを諭すが、ネココの不満な様子は拭えない。
「えっと……テイクアウトで頼むので、皆さん一緒に行きませんか? 後ろから頼みたいメニューを伝えていただければ、皆さんの分まで、私が注文できますし、店内で喋ったりしないで、注文を受け取ったらすぐに出てくれば問題ないと思うんですけど……」
「……」
「うーん」
「はいはい! ネココは賛成ニャ! お店の中では絶対に静かにするニャ!」
この幽霊社会のルールを取り仕切る立場である宇井さんと美鈴ちゃんは、その提案に対しても悩んだようだが。
「……分かりました、ただし、必要以上の会話は控えて、注文を受け取ったらすぐにお店を出ます」
静子ちゃんやネココの視線に負けて、最終的には、許可を出したらしい。
※
「今でも、あの時、私がちゃんと止めていればと後悔しています……幽霊が許可された店にしか入らないのは、店員に相手にしてもらえないからという理由だけでは無いと知っていながら……そのルールを破ってしまいました……地方公務員失格です」
「え? いや、そこで何があったか知らないが、静子ちゃんとネココが頼んできたことだろ? そこまで気にする必要ないって」
原宿での様子を語りながら、その時の選択を本当に後悔しているのだろう宇井さんが、膝の上で拳を強く握りしめているのを察して、俺は、気にしすぎるのはよくないと諭す。
そこで何があったかは知らないが、実際、俺がその場にいても、彼女と全く同じ選択をしたと思うしな……。
……窓の外は、相変わらず暗い雲が空を覆い隠し、陽の光の代わりに、大粒の雨を降らし続けている。
ここまでは楽しそうに遊んでいたみたいだが、そんな静子ちゃんの身に、いったい何があったんだ……。
俺は、窓を叩きつける雨の音をBGMに、再び話始めた宇井さんの声に耳を傾けた……。
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