地縛霊おじさんは今日も安らかに眠れない

naimaze

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第52話 暗雲

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「うにゃー、いかにも都会のハイカラなお店って感じがするニャー」

「……ネココさん」

「あっ、ごめんニャさい……静かにしておくニャ……」

 店内に入ると、予想通りといえば予想通りだが、日本の喫茶店とは違うその雰囲気に対して、ネココはさっそく静かにするという約束を破り、静子ちゃんに小声で咎められていたらしい。

 静子ちゃんも色々と感想を言い合いたかっただろうが、最近、突飛な行動をすることが多くなったとはいえ、彼女も基本的には真面目な部類に入る人間だからな……守らなければいけない約束は守ろうとするのだろう。

「こんにちは、ご注文はお決まりですか?」

「えっ? あっ……いや、その……すみません……まだちょっと決まってなくて……」

「かしこまりました、お決まりになりましたらお声かけください」

 そんな静子ちゃんでも、やっぱりまだ対人戦では緊張するようで、店員さんに話しかけられてアタフタしていたようだ。

「静子ちゃん、どれで悩んでるの?」

「えっと……お店の前にもパネルが出ていた、この期間限定のやつが美味しそうだなって思ったんですけど、クラスの女の子は、ダークフラペーニョみたいな名前のやつをよく頼むって言ってて……でも、これも美味しそうですし、これもちょっと気になりますし……うーん、迷ってしまいますね」

「ネココは期間限定の桃のやつをお願いするニャ」

「あ……だったら、私がキャラメルの方を頼むから、静子ちゃんがダークモカの方を頼んで、皆で交換しながら飲みましょう」

「いいんですか?」

「もちろん、私も色々飲みたいし」

「えっと、じゃあ、それでいきましょう……それで、あの……」

「ん?」

「注文、るあさんにお願いしてもいいでしょうか……私、ちょっと、ちゃんと言えるか自信がなくて……」

「ふふふ、分かったわ、ここは経験豊富なお姉さんに任せなさいっ! ……まぁ、このお店に関しては、人付き合いが得意な人でも初めての注文は緊張するから、あんまり気にしなくて大丈夫よ」

「……ありがとうございますっ」

 レジ横にあるメニュー表の前で、少し長めに考えていたようだが、他のお客から見たら場所を取っているのは2人だけなので、物理的にも視覚的にもそれほど邪魔にならなかっただろう。

 実際には、2人の間にネココがいたり、その後ろからは美鈴ちゃんも真剣な表情でメニュー表と睨めっこしていたり、少し離れた場所で、宇井さんとキーヤンが、レジ横ではなく、カウンターの上にある方のメニュー表を遠目に見ていたりと、それなりの大所帯なのだが。

「注文いいですか?」

「はい、お伺いします」

「えっと、テイクアウトで、まず、この期間限定の……」

 そして、このグループを代表して、こういったお店に一番慣れている、るあちゃんが、注文を始める……。

「あと、それから……ちょっと待ってください、えーっと……」

 彼女はその社会経験からか、元からそういった気遣いが得意なのか、自然な動作で他の幽霊組の注文を受け付ける態勢を取るために、まるでそこに友達から事前に確認してきたメモでも書いてあるように、スマホを眺め始める。

「Yo! 俺はクールにアメリカーノのホットをショートで頼むぜ」

「私はカフェミストのアイスをショートでお願いします」

「私はバニラクリームのトールにチョコチップとチョコレートソースを追加で……」

 流石、大人組の方も、るあちゃんの気遣いを瞬時に察したようで、キーヤン、宇井さん、美鈴ちゃんの順番で注文を伝える。

 キーヤンがクールなのかホットなのかというツッコミは置いておいて、美鈴ちゃんは意外と甘いもの好きなんだな。

 るあちゃんも、きっと頭の中ではそんなことを思っただろうが、口には出さず、大人な対応で彼らの注文を店員に伝えた。


 もし世界が許すなら、ここまでの間にも、皆を巻き込んで、色々な雑談が出来ただろう。

 もし世界が許すなら、この後も、店内で互いのドリンクを交換しながら、楽しくお喋り出来ただろう。


 だが、命を持つ者と持たざる者が一緒に、普通の日常を送ることは、この世界ではまだ、許されていない。

 彼女たちは、事前に決めていた通り、注文を受け取るカウンターの前で、静かに、ドリンクが出来上がるのを待つことになる。


 それでも、静子ちゃんは、これからドリンクを受け取り、外に出て、ずっと気になってはいたものの、気恥ずかしくて手を出せていなかったそれを飲みながら、皆と感想を言い合うのを楽しみにしていた。


 それなのに、この世界は、そんな小さな夢さえも、許してはくれない……。


「……静子ちゃん?」

「えっ……?」

 受け取りカウンターでドリンクを待つ静子ちゃんの名前を呼ぶ声に、彼女は後ろを振り返る。

 そこには、スーツを着た、30代半ばほどの男性が一人立っていた。

「……叔父さん」

 静子ちゃんがそう呼んだ男性は、そこで一瞬、何とも言えない表情を浮かべたが、すぐにその横に視線を向けると……。

「あれ? どうして宇井さんが、静子ちゃんと一緒に?」

 そんな疑問の声と共に、その視線を宇井さんの顔で止めた。

「……えっ?」

 静子ちゃんが叔父さんと呼ぶ男性の発言に、彼女は眼を見開いて、その視線を辿り、そこに確かに、自分が今まで一緒に行動していた宇井さんがいることを確認する。

「叔父さん……宇井さんの事が見えて……というか、何で宇井さんの事を……」

「静子さん、雄二さん、ひとまず、お店を出ましょう……ここでその話をしては周りに迷惑がかかります」

「……わかった」

「っ! ……はい」

 色々な意味で状況的によろしくない発言をしようとしている二人を制して、宇井さんは、努めて冷静に、そう提案した。

 静子ちゃんは少し感情的になりかけていたが、店内にいる周りのお客や店員が自分たちに注目し始めていることに気づいて、言葉を飲み込むように肯定する。

 そして、宇井さんは、心配そうに眺める他のメンバーを身振りで制して、2人を連れて、お店を出て行った……。

 空では、いつの間にか分厚くなっていた雲が、陽の光を遮っていた……。
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