突然倒れた婚約者から、私が毒を盛ったと濡衣を着せられました

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この夜、メリッサ・シンクレアは舞踏会を主催していた。

メリッサは象牙色のシルクのドレスを纏い、首元には祖母から譲り受けた真珠のネックレスを輝かせていた。その白い肌は月光のように透き通っており、銀色に近い淡い金髪は丁寧に編みこまれ、頭上に小さなルビーをちりばめたティアラがきらめいていた。彼女の瞳は深いエメラルドグリーンで、その奥には静かな強さと、まだ傷ついていない希望が宿っていた。彼女は笑顔を絶やさず、賓客一人ひとりに丁寧に挨拶を交わした。その仕草は優雅で、まるで風に揺れる柳のようだった。

「お越しいただき、誠にありがとうございます」と、彼女は微笑みながら言う。その声は澄んだ小鳥のさえずりのように、耳に心地よく響いた。

そして、彼女の隣には婚約者のロイド・フラハーティが立っていた。背が高く、整った顔立ちに、青い瞳はいつも自信に満ちていた。彼の黒い燕尾服は完璧に仕立てられ、胸元のエメラルドのブローチは、彼の家柄の高さを物語っていた。彼はメリッサの手を取り、「君こそ、この夜の女王だ」と囁いた。その言葉は甘く、しかしどこか機械的で、心の底から湧いたものではないような気がした。だが、メリッサはその違和感を無視した。今日が、彼女の新たな人生の始まりなのだから。

音楽が流れ、カップルたちが舞踏室で円を描くように回り始める。シャンデリアの光が水晶のグラスに反射し、室内は宝石箱のように煌めいていた。シャンパンの泡がきらめき、銀のプレートには鴨のコンフィやトリュフを添えたスープが並び、すべてが贅沢の極みだった。

だが、その幸福な時間は、突然の断絶によって引き裂かれた。

ロイドがグラスを口に運んだ直後、彼の顔色がみるみるうちに青白くなっていった。彼は喉を押さえ、苦しげに咳き込み、テーブルに手をついて体を支えた。その瞳は驚愕と恐怖に歪み、声は掠れていた。

「……毒だ……俺に、毒が……!」

その声は宴会場に響き渡り、一瞬にして音楽が止んだ。笑顔が凍りつき、杯が床に落ちる音が、静寂を切り裂いた。人々の間に波が走り、ざわめきが広がる。メリッサは信じられない思いで彼の前に跪いた。

「ロイド! どうしたの? どこが痛いの?」

「お前……お前のグラスから……」と、彼は喘ぎながら言った。「俺の分にだけ……毒が……」

その言葉に、周囲の視線が一斉にメリッサへと向けられた。彼女の胸は氷のように冷たくなった。彼女は慌てて自分のグラスを見たが、そこには何も異常はなかった。だが、もう遅かった。噂は瞬く間に広がり、耳打ちが壁を伝って広がっていく。

「メリッサ嬢が婚約者を殺そうとした?」

「信じられない……あんなに優雅な人が……」

「でも、ロイド様は命に関わるところだったのよ……」

医者が急いで呼び寄せられ、ロイドは寝室へと運ばれた。メリッサはその後を追いかけようとしたが、彼の側近に押しのけられた。

「今はお静かに……ロイド様は、あなたと会いたくないと仰っています」

その言葉は、心にナイフのように突き刺さった。彼女は廊下に立ち尽くし、手すりに体重を預けた。シャンデリアの光が彼女の影を長く伸ばし、まるで罪人のように見えた。

数時間後、ロイドは回復したと告げられた。毒ではなかったらしい。医者は「過労と神経の高ぶり」と診断したが、ロイドはそれを認めなかった。

翌日、彼はメリッサの前に立ち、冷たい声で言った。

「俺は、お前が俺を殺そうとしたと考えている。当然婚約は破棄する。今後、二度と俺の前に現れるな」

メリッサは声にならない叫びを飲み込んだ。彼女は無実だと訴えた。涙を浮かべ、震える声で「どうして? 私はあなたを愛していたのに」と言ったが、ロイドの目にはもう情はなかった。

「信用できない女と、一生を共にできると思うか?」

そう言って、彼は去っていった。扉が閉まる音が、彼女の人生の終わりを告げるように響いた。

そして、社交界には「メリッサ嬢の毒殺未遂」の噂が猛スピードで広がっていった。真実は誰も探さなかった。美しい宝石が泥に塗れても、誰もそれを拭おうとはしない。メリッサの名は、一夜にして「危険な女」として、貴族社会の闇に葬られた。

彼女は窓辺に立ち、庭に散らばる枯れた薔薇の花びらを見つめた。風がカーテンを揺らし、まるで過去の幸福が遠ざかっていくようだった。

「私は……何もしていないのに……」

その声は、誰にも届かなかった。
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