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どきっ
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100円ショップに勤め始めて、3ヶ月になる。
仕事には慣れてきたし、週3で4時間だけの出勤。
シフトも流動的なので、苦手な人とも顔を合わせない一息つける日も多くて、それなりに楽しくやっている。
「このメモ書き、誰です?」
「あ、わたしです。まずかった?」
「いやいや、こういう気づき、ホント助かるんスよ」
小声でそう言う彼は、このお店の店長の神田さん。うちのチェーン店では、女性の店長が多いらしいんだけど、わたしを面接した人も彼だったし、人当たりの柔らかな、若い割には、接しやすいタイプの男だ。
小声だった理由はすぐに分かった。
いるいる、近くに山上さん。
いわゆるお局さんというやつで、神田さんがこのお店に来る前から働いていたらしい。
前のコンビニは、この手のお局的存在がいたから逃げるように辞めたのだけど、彼女は週に二日だけのシフトで、絡みも少ない。
わたしの経験上、パートが占める販売業の職場には、けっこうな確率で、こういった牢名主がいる。
「こういった新しいアイデアを嫌う人もいますからねぇ。でもね、店長として僕ぁ、助かってるんスよ。いえホント」
「あはは、どうも~」
こうした空気の読める、潤滑油的店長がいるから、楽しくやれている。
そして、こういったレジ打ちで楽しみなことがもう一つ・・・。
それは、
イケメンと会えること!
ほらっ、今日もやって来たあぁ。
「ひらっしゃいませ~」
まずい、声が裏返った・・・。
スラリとして、均整の取れた顔。体格。
清潔感のある服装。
髪型もわたし好みに外れてない。
物静かに歩き、必ず、ほら、そう、まずはキッチンコーナーに足を運ぶ。
指は何度も見たけど、リングはない。
独り身なんだろうか。
来る曜日はまちまちで、必ずカビの除菌剤を買っていくところを見ると、ひとり暮らしなら、かなりの綺麗好きに違いない。
彼の様子を窺いながら、レジをゲットするタイミングを計る。
マニュアルとして、商品の袋詰めは客にお願いすることになっているのだけど、わたしが彼に応対するとき、できるだけ袋詰めをしてあげることにしている。
そうすると、彼はいつも
「ありがとうございます」
と、わたしに感謝の言葉を掛けてくれる。
そのときの、しんみりとした幸福感。充実感。生きててよかった感。
そのあとに、最大のイベントがある。
お釣りを受け取ろうと、差し出された彼の掌。
それを甲側から優しく左手を添え、硬貨をつまんだ右手を軽く彼の手に押し当て、お釣りを渡すのだ。
甲に触れる左手も、掌に触れる右手も、露骨にならないほどの、ほわんとした具合に。
「あ、らっしゃいませー」
は!!!!!
取られた!!
山上に彼のレジを取られた。
間合いを計るうちに距離を取りすぎてしまった!
ありえないくらい、仏頂面で彼にお釣りを渡す山上。
もちろん、袋詰めなどしない。
「それ、補充しすぎしすぎっ。もう入んないしょ」
「へ?」
店長の声だ。
「あらら、ほんと、もう入らないね。キッツキツに詰めちゃった」
「・・・・・。」
店長の目。
冷たい目?
刺すような目だ。
「あの」
「はい?」
「前からちょっと気になってたんスけど」
「う、うん?」
「あの客のこと、好きでしょ?」
仕事には慣れてきたし、週3で4時間だけの出勤。
シフトも流動的なので、苦手な人とも顔を合わせない一息つける日も多くて、それなりに楽しくやっている。
「このメモ書き、誰です?」
「あ、わたしです。まずかった?」
「いやいや、こういう気づき、ホント助かるんスよ」
小声でそう言う彼は、このお店の店長の神田さん。うちのチェーン店では、女性の店長が多いらしいんだけど、わたしを面接した人も彼だったし、人当たりの柔らかな、若い割には、接しやすいタイプの男だ。
小声だった理由はすぐに分かった。
いるいる、近くに山上さん。
いわゆるお局さんというやつで、神田さんがこのお店に来る前から働いていたらしい。
前のコンビニは、この手のお局的存在がいたから逃げるように辞めたのだけど、彼女は週に二日だけのシフトで、絡みも少ない。
わたしの経験上、パートが占める販売業の職場には、けっこうな確率で、こういった牢名主がいる。
「こういった新しいアイデアを嫌う人もいますからねぇ。でもね、店長として僕ぁ、助かってるんスよ。いえホント」
「あはは、どうも~」
こうした空気の読める、潤滑油的店長がいるから、楽しくやれている。
そして、こういったレジ打ちで楽しみなことがもう一つ・・・。
それは、
イケメンと会えること!
ほらっ、今日もやって来たあぁ。
「ひらっしゃいませ~」
まずい、声が裏返った・・・。
スラリとして、均整の取れた顔。体格。
清潔感のある服装。
髪型もわたし好みに外れてない。
物静かに歩き、必ず、ほら、そう、まずはキッチンコーナーに足を運ぶ。
指は何度も見たけど、リングはない。
独り身なんだろうか。
来る曜日はまちまちで、必ずカビの除菌剤を買っていくところを見ると、ひとり暮らしなら、かなりの綺麗好きに違いない。
彼の様子を窺いながら、レジをゲットするタイミングを計る。
マニュアルとして、商品の袋詰めは客にお願いすることになっているのだけど、わたしが彼に応対するとき、できるだけ袋詰めをしてあげることにしている。
そうすると、彼はいつも
「ありがとうございます」
と、わたしに感謝の言葉を掛けてくれる。
そのときの、しんみりとした幸福感。充実感。生きててよかった感。
そのあとに、最大のイベントがある。
お釣りを受け取ろうと、差し出された彼の掌。
それを甲側から優しく左手を添え、硬貨をつまんだ右手を軽く彼の手に押し当て、お釣りを渡すのだ。
甲に触れる左手も、掌に触れる右手も、露骨にならないほどの、ほわんとした具合に。
「あ、らっしゃいませー」
は!!!!!
取られた!!
山上に彼のレジを取られた。
間合いを計るうちに距離を取りすぎてしまった!
ありえないくらい、仏頂面で彼にお釣りを渡す山上。
もちろん、袋詰めなどしない。
「それ、補充しすぎしすぎっ。もう入んないしょ」
「へ?」
店長の声だ。
「あらら、ほんと、もう入らないね。キッツキツに詰めちゃった」
「・・・・・。」
店長の目。
冷たい目?
刺すような目だ。
「あの」
「はい?」
「前からちょっと気になってたんスけど」
「う、うん?」
「あの客のこと、好きでしょ?」
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