非日常的御遊戯御招待の事

乍冥かたる

文字の大きさ
1 / 8

どきっ

しおりを挟む
100円ショップに勤め始めて、3ヶ月になる。

仕事には慣れてきたし、週3で4時間だけの出勤。

シフトも流動的なので、苦手な人とも顔を合わせない一息つける日も多くて、それなりに楽しくやっている。

「このメモ書き、誰です?」

「あ、わたしです。まずかった?」

「いやいや、こういう気づき、ホント助かるんスよ」

小声でそう言う彼は、このお店の店長の神田さん。うちのチェーン店では、女性の店長が多いらしいんだけど、わたしを面接した人も彼だったし、人当たりの柔らかな、若い割には、接しやすいタイプの男だ。

小声だった理由はすぐに分かった。

いるいる、近くに山上さん。

いわゆるおつぼねさんというやつで、神田さんがこのお店に来る前から働いていたらしい。

前のコンビニは、この手のお局的存在がいたから逃げるように辞めたのだけど、彼女は週に二日だけのシフトで、絡みも少ない。

わたしの経験上、パートが占める販売業の職場には、けっこうな確率で、こういった牢名主がいる。

「こういった新しいアイデアを嫌う人もいますからねぇ。でもね、店長として僕ぁ、助かってるんスよ。いえホント」

「あはは、どうも~」

こうした空気の読める、潤滑油的店長がいるから、楽しくやれている。



そして、こういったレジ打ちで楽しみなことがもう一つ・・・。


それは、



と会えること!



ほらっ、今日もやって来たあぁ。


「ひらっしゃいませ~」


まずい、声が裏返った・・・。


スラリとして、均整の取れた顔。体格。

清潔感のある服装。

髪型もわたし好みに外れてない。

物静かに歩き、必ず、ほら、そう、まずはキッチンコーナーに足を運ぶ。


指は何度も見たけど、リングはない。

独り身なんだろうか。

来る曜日はまちまちで、必ずカビの除菌剤を買っていくところを見ると、ひとり暮らしなら、かなりの綺麗好きに違いない。


彼の様子を窺いながら、レジをゲットするタイミングを計る。


マニュアルとして、商品の袋詰めは客にお願いすることになっているのだけど、わたしが彼に応対するとき、できるだけ袋詰めをしてあげることにしている。

そうすると、彼はいつも


「ありがとうございます」


と、わたしに感謝の言葉を掛けてくれる。

そのときの、しんみりとした幸福感。充実感。生きててよかった感。


そのあとに、最大のイベントがある。

お釣りを受け取ろうと、差し出された彼のてのひら

それを甲側から優しく左手を添え、硬貨をつまんだ右手を軽く彼の手に押し当て、お釣りを渡すのだ。

甲に触れる左手も、掌に触れる右手も、露骨にならないほどの、とした具合に。




「あ、らっしゃいませー」



は!!!!!


取られた!!





山上もはや呼び捨てに彼のレジを取られた。

間合いを計るうちに距離を取りすぎてしまった!


ありえないくらい、仏頂面で彼にお釣りを渡す山上。

もちろん、袋詰めなどしない。


「それ、補充しすぎしすぎっ。もう入んないしょ」


「へ?」


店長の声だ。


「あらら、ほんと、もう入らないね。キッツキツに詰めちゃった」


「・・・・・。」

店長の目。

冷たい目?

刺すような目だ。


「あの」


「はい?」


「前からちょっと気になってたんスけど」


「う、うん?」





「あの客のこと、好きでしょ?」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...