出張ホスト 邂逅神代です

乍冥かたる

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下田市 郁美のこと

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アァーっ




・・遠くでカラスが鳴いている。


いや、笑っているに違いない。


「・・・・。」

俺は郁美の隣に腰を下ろしていた。

「邂逅さん、お、怒ってますよね?」

「い、いえ」

足元の石を見つめる。心なしか、石の凹凸が人の顔に見え、それが笑っているようにさえ見える。

「呆れてますか?」

「いえ」

怒ってるし、呆れてる。

だけど、それは自分自身にだ。

もっと上手いやり方があったはずだ。

「あの、、、許してくれます?」



ち ょ っ と 黙 っ て い て 。



言いかけて、飲み込んだ・・。


彼女は幼い。

そう感じた第一印象をなぜ信じなかったのか。

女がときおり繰り出す、正体不明の凛とした魔法に惑わされてしまった。


抱きたかった。

心底そう思った。

これは私情じゃない。

抱いて、素敵な時間を与えたかった。これには自信があるんだ。


だけど、見事に無に帰した・・・・・・・?


いや、まてまて。

素敵な時間は、何もひとつじゃないぞ。

よし。

切り替えた。


「郁美さん、そういえば、普通のデートがしたいと言ってたね」

自然とさん付けに戻っていた。

「はい」

「できてないね」

「えーっ、できてますよっ。お食事したり、スイーツ食べたり。普通ってどんなのかわからないけど、、、私は大満足ですよ。途中、スパイスも入ってるし」

「スパイス?」

「ハグとか、キスとか、、、」

薄味というか、ぼやけた味付ですいません。


「いーや、できてないっ」

「できてますっ」


「ドライブに行こう!時間の限り、一緒にいろんな景色を見よう。お気に入りの雑貨屋なんてない?伊豆だから隠れたおしゃれ店とかあるでしょ。なんか買ってあげる!」

「えー、そんな気を使わないでください。でも、ドライブいいですねえ」

「決まった!よーーーし、下まで競争ね!」


今度は郁美を待ってみた。

勇んで駆け出す郁美。

滑稽な走り方で階段を降りている背中は、シャンとはしていなかったが、生き生きとしている。


「だーっ、ほんとにおっそいね!」


追い抜いた。


風に巻かれて、郁美から、柔軟剤のいい香りがした。


「下田でも歩くか。良いじゃない見られたって!」

「だーーーーめ!」

「ふふっ、じゃあ、西伊豆まで行ってみよう。大丈夫、きちんと時間には帰してあげる 笑」


「邂逅さん!」

「なんじゃい」

「キスしろ」


俺はさっと郁美の髪を撫で、軽くチュッとした。


「行くよっ」

「はーーい」


俺たちは車に乗り込んだ。


 
【 下田市 郁美のこと Fin. 】


 
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