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XI.オセロのように色を変え続ける【翻雲覆雨、悪逆無道】

Un train peut en cacher un autre.

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 ――――貴女を襲わせたのは、貴女の“執事”よ。アリア。



「なっ……!! そんな、何かの間違いでしょう……!?」



 あの日。

アリシアの口から紡がれた名に、瞬きが止まらなくなった。



「いいえ。この目で見たの。
あの執事が、貴女を襲わせた男達に小切手を渡しながら
その旨の話をしているところを」



 きっと彼女は、何か勘違いをしている。

そうは思っても、もう声が外に出たがらない。


動揺が隠しきれない私の前で、
アリシアは視線を俯けながら続けた。



「でも、気配で、彼に気づかれて。
私がやったことに、しろって、脅されたの」

「脅す、って、そんな、の。
本当なら、レオにでも、言えばよかったじゃない」

「……言える訳、ない」

「え……?」



 彼女は、囁いた。

そして、何故か震え始めて。

その震えを抑えるかのように、
左手に右手を重ねた彼女は、一体何に怯えているのか。


それは、定かではない。


「アリシア……?」
ただ、何かを恐れているようにしか見えない程
震え始める彼女の名を呼ぶ。


その声にハッと自我を取り戻したアリシアは
やけに視線を泳がせながらまた呟いた。



「……私も、貴女を、追い出したかった、から」



 だから、協力したの。


そうして、自分の悪を吐いた彼女は、
私が思うよりずっと誠実だった。

やり方が少し歪んでしまっただけで、
彼女は、レオをただひたすらに愛しているだけだった。


 でも、何故、オオトリが。


いや、彼はそんなこと、する人じゃない。


この十年、私は彼と過ごしてきたのだ。

そんな下劣なことをする男でないことは、
この私がよく分かっている。


「それに」
彼女は、一言で再び私の思考を遮った。



「レオには、言えない、理由が、もう一つあるの」

「え……?」

「これは、ただの、私の勘、なのだけれど。
恐らく、この顛末の首謀者は――――」



 “ヴィーガン・シャル=ルイ・リルベート”


彼女は、ゆっくりと私の目を射抜いた。






【ある列車は他の列車を隠していることがある】
Un train peut en cacher un autre. 

(確かにレオには、言えないわね)
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