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XIV.パンドラの匣を開く【暗中飛躍、秘中之秘】

La montagne accouche d'une souris.

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「シャルに、会わせてくれない?」



 その夜。

部屋へ訪れたレオに告げれば
昨日と同じくして私を後ろから抱き締める彼の腕が一瞬緩んだ。



「……なんだと?」

「シャルに、会いたいの」



 勘違いされかねない発言だ。


期待を裏切らず、
明らかに勘違いをしたレオは私の体を離して。

私に覆い被さってきた。


私を見下ろす青い瞳がやけに鋭い。

それでも少しも逸らさずに見つめ続ける。



「何故会う必要がある?」

「聞きたいことが、あるから」

「ほう。何をだ」



 あぁ、また打首にされるかもしれない。


見るからに怒りを抱えている彼から
一度目を逸らして苦笑する。



「オリーブから、聞いたの」



 オリーブからされた話を、そのまま彼に伝えると
レオはどこか納得したような。

でも、完全に蟠りは解消できていないような顔をした。



「……なるほど」

「だから、その真意を問いたくて」

「ダメだ」



 半分、食い気味にされた否定に顔を顰める。


「何故?」
そう問いかけると、体を起こした彼は私に背を向けて。

後ろ姿でもよく分かる程、大きなため息を吐いた。



「そんな安易な理由で、
拘束されている罪人との面会は許可出来ない」

「安易な……って。それは、そうかもしれないけど。
貴方は気にならないの?」



 仮にも、愛する女が他の男にそんな言い方をされているのに。

気にならない訳がない。


そう思って、語気を強めながら彼の背中を詰めると
レオは睨むように目を細め私を咎めた。



「アイツに近づけば、
ろくな目に合わないのはお前もよく分かったはずだ。
シャルには近づくな」



 二度と、その話もするんじゃねぇよ。


言葉を吐き捨てたレオに私は殊更に肩を上げて落とした。






【山が鼠を出産する】
La montagne accouche d'une souris.

(……また、何か隠してるわねこの男)
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