まんぷくと腹八分

那珂田かな

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エラそうな婚約者様、ラーメンをヤケ食いする【後編】

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「なんでラーメン屋にしたの?」
カウンターに並んで座っている婚約者サマは、俺の顔を見ずに言った。
「だってカロリー高いっていったら、まずはラーメンっしょ、昼飯もまだだし」
俺は答えたが、女は何も言わず水を飲んだ。
ー嫌だったら嫌ってハッキリ言えっての!
黙っててもわかるでしょ!なんて男には通用しねえんだよ。俺は心の中で悪態をついた。
俺がイライラしていると、店員がやってきた。
「ご注文は、お決まりですか?」
「えーっとラーメン大、バリカタ、ヤサイマシマシ、アブラもマシマシ、ニンニクは...マシで」
本当はマシマシにしたかったけど、さすがに女の前だし少しだけエンリョした。
「はーい!バリカタ、ヤサイアブラマシマシ、ニンニクマシですね!お客様はどうされますか」
バイトが聞いた。しかし、婚約者サマは驚いたのか何も言わない。
ざまあみろ。俺は心の中でほくそ笑んだ。
「難しいっすよね。俺が代りに注文...」
「私も同じモノで」
婚約者サマは無表情で言った。
「「えっ?」」
バイトと俺がほぼ一緒に声を上げた。
「お客様、量が多いので普通か小サイズをお勧めしますが...」
「無茶っすよ、止めといたほうがいいっすよ、絶対」
「同じものでお願いします」
俺とバイトが制止したにもかかわらず、婚約者サマは言った。バイトが俺に目をやる。ホントに大丈夫ですか?と言わんばかりの目だ。
知るかよ俺が。俺はバイトを睨み返す。
「...わかりました。ではお客様も同じもので」
バイトは厨房に戻っていく。
ーしらねーぞ、俺は。
俺は水をがぶがぶと飲みほした。

「おまたせしました~」
バイトが大盛に盛られたどんぶりを持ってくる。
モヤシが富士山の頭みたいに盛られ、その上にニンニクがトッピングされている。そしてスープにはアブラがたっぷりと、その隣には分厚いチャーシューがゴロゴロとあり嫌でも食欲がそそられる。
隣の婚約者サマの顔を見ると、無表情だった。
ー余りの量に声も出ねえみたいだな。
俺はしめしめと思いながら割りばしを割った。
「いただきまーす」
底からラーメンを引きずり出し、モヤシとアブラをスープに混ぜていく。
ずるずるとラーメンをすすり、モヤシを食い、チャーシューに食らいつく。
こってりとしたアブラ浮いたスープを飲み、またラーメンをずるずるとすする。
このラーメンを食うのは格闘だ。残したら負け確定。
ー絶対負けねえからな
俺はラーメンを食うのに必死だったから、婚約者サマの事なんて考える暇がなかった。
三分の二を食ったところで、そういえば、と思いチラリと隣を見る。
婚約者サマは着物の襟にハンカチを付け、モヤシを一本一本、上品に食べていた。
ーおいおい、ラーメン食ってねえじゃん!
「あの、そんなにちまちま食ってたら、ラーメン伸びますよ」
俺が言うと、婚約者サマはチラリと俺を見た。
「わかってるわよ、でも麺を食べるためにはこうしないと」
「いや、混ぜるんすよこうやって」
俺が食べ方を教えると、婚約者サマは怖い顔で睨んだ。
「嘘教えてるでしょ」
「なんでそんなことする必要あんの?まあ人それぞれだけど、だいたいこうっすよ!」
俺は少し苛立って答えた。
婚約者サマは仕方ない、と言うような顔で、俺と同じような食べ方をし始めた。
ーちっ、バカにしやがって。教えて損した。
俺は残りのラーメンにがっついた。
ほんと、こんなんなら一人で食ったほうが十分うまいに決まってる。
こってりとしたスープをすすり、最後のチャーシューのかけらまで食べきると、俺は水をがぶ飲みした。
「ごちそーさまでした」
俺はまた、隣を見た。
婚約者サマの端が止まっている。そしてさっき見た時と量がほとんど変わっていない。

「だから言ったんすよ。無茶だから止めとけって」

俺が勝ち誇ったように言うと、婚約者サマの手が止まった。
そして、なぜか涙を流した。
ーおいおい、ちょ、ちょっと!俺がワルモノみたいじゃん!
俺が慌てていると、婚約者サマはじろりと俺を睨みつけた。

「じろじろみないで」

そう言って、婚約者サマは泣きながら、またラーメンをすすりだした。


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