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プロローグ
突然の婚約破棄
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「アンリエット・スカーレル、貴様との婚約は破棄する」
恐れていた言葉が、フェルナン王太子の口から伝えられた。
「理由をお聞かせ願いますか?」
「理由?貴様はそんなこともわからないのか?」
王太子殿下は、さも馬鹿にしたように言う。
「アンリエット、貴様はこの前の魔法試験で敗れた」
「次回は必ずっ…」
「それも、つい数か月前、この学園に来た者に無様に負けたのだ。そんな人間は、我が王家にふさわしくない」
フェルナンはまるで野良犬を追い払うかのように、アンリエットに手を振った。
「お前の顔など見たくもない」
「…承知いたしました」
私は、粉々に砕け散ったプライドをかき集め、王太子に美しくお辞儀をする。
紅い髪がさらりと肩からこぼれた。
カツ、カツ…と靴の音だけが執務室に響く。
ドアを開けようとしたとき、私は振り向いた。
「一つだけ、質問してもよろしいでしょうか」
王太子殿下は書類に目を向けたまま言った。
「…なんだ」
「父にこのことは」
「まだだ」
「それを聞いて安心しました」
「ふん。例え四代侯爵家の当主であろうと、私の意見に逆うことは許さぬ。残念だったな、父親に頼っても無駄だ」
「いえ。殿下が恥をかかずに済んだことに、安心したのです」
「なに?」
「このアンリエット・スカーレル、必ずや名誉挽回致します。そしてあなた様にふさわしい人間になってみせます」
私は部屋中に響く声で宣言した。
「貴様がそれほど見苦しい人間とは思わなかった」
王太子殿下は、髪の色と同じ金色の眉根を寄せた。
「スカーレル家では『必ず勝て』と常に教えられてきました。最後に勝つのは私です」
私はまた優雅にお辞儀をし、執務室を後にした。
廊下を歩くと、窓からは温かな日差しが差し込んでいる。
しかし、私の体は雪のように冷たい。
婚約破棄。このスカーレル家の長子である私が。
たった一度、魔法試験で負けただけで。
損得だけで行動する冷徹な方だと思っていたが、これ程とは。
「アンリエット様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
すれ違う者がアンリエットに挨拶をし、アンリエットも笑顔で返した。
王太子殿下がさっきの事を公表したら、誰も私に挨拶などしなくなるだろう。
それどころか、陰で私を嘲るにちがいない。
ただでさえ、前回の魔法試験で負けたことで、多くの人たちが私を避けるようになったというのに。
ふと、左頬に冷たいものがつたった。
「?」
雨?まさか。
頬に触れると、確かに濡れている。
「っ!」
私は気づいた。自分が泣いているのだと。
そして恥ずかしさのあまり走り出す。
誰もいない裏庭につくと、涙はとめどなく流れてきた。
「うっ…っ…」
歯を食いしばりながら、私は泣いた。
そして自分に誓う。
これから、屈辱の日々が始まるだろう。
けれど、私はアンリエット・スカーレル。勝つために生まれてきたの。
「勝ってみせる。絶対に!」
恐れていた言葉が、フェルナン王太子の口から伝えられた。
「理由をお聞かせ願いますか?」
「理由?貴様はそんなこともわからないのか?」
王太子殿下は、さも馬鹿にしたように言う。
「アンリエット、貴様はこの前の魔法試験で敗れた」
「次回は必ずっ…」
「それも、つい数か月前、この学園に来た者に無様に負けたのだ。そんな人間は、我が王家にふさわしくない」
フェルナンはまるで野良犬を追い払うかのように、アンリエットに手を振った。
「お前の顔など見たくもない」
「…承知いたしました」
私は、粉々に砕け散ったプライドをかき集め、王太子に美しくお辞儀をする。
紅い髪がさらりと肩からこぼれた。
カツ、カツ…と靴の音だけが執務室に響く。
ドアを開けようとしたとき、私は振り向いた。
「一つだけ、質問してもよろしいでしょうか」
王太子殿下は書類に目を向けたまま言った。
「…なんだ」
「父にこのことは」
「まだだ」
「それを聞いて安心しました」
「ふん。例え四代侯爵家の当主であろうと、私の意見に逆うことは許さぬ。残念だったな、父親に頼っても無駄だ」
「いえ。殿下が恥をかかずに済んだことに、安心したのです」
「なに?」
「このアンリエット・スカーレル、必ずや名誉挽回致します。そしてあなた様にふさわしい人間になってみせます」
私は部屋中に響く声で宣言した。
「貴様がそれほど見苦しい人間とは思わなかった」
王太子殿下は、髪の色と同じ金色の眉根を寄せた。
「スカーレル家では『必ず勝て』と常に教えられてきました。最後に勝つのは私です」
私はまた優雅にお辞儀をし、執務室を後にした。
廊下を歩くと、窓からは温かな日差しが差し込んでいる。
しかし、私の体は雪のように冷たい。
婚約破棄。このスカーレル家の長子である私が。
たった一度、魔法試験で負けただけで。
損得だけで行動する冷徹な方だと思っていたが、これ程とは。
「アンリエット様、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
すれ違う者がアンリエットに挨拶をし、アンリエットも笑顔で返した。
王太子殿下がさっきの事を公表したら、誰も私に挨拶などしなくなるだろう。
それどころか、陰で私を嘲るにちがいない。
ただでさえ、前回の魔法試験で負けたことで、多くの人たちが私を避けるようになったというのに。
ふと、左頬に冷たいものがつたった。
「?」
雨?まさか。
頬に触れると、確かに濡れている。
「っ!」
私は気づいた。自分が泣いているのだと。
そして恥ずかしさのあまり走り出す。
誰もいない裏庭につくと、涙はとめどなく流れてきた。
「うっ…っ…」
歯を食いしばりながら、私は泣いた。
そして自分に誓う。
これから、屈辱の日々が始まるだろう。
けれど、私はアンリエット・スカーレル。勝つために生まれてきたの。
「勝ってみせる。絶対に!」
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