負け犬令嬢日本探遊記

那珂田かな

文字の大きさ
2 / 10
プロローグ

負け犬とよばれて

しおりを挟む
シオン魔法学園。
ここには『強者に逆らうことは許されない』という最大の掟がある。

「あら、アンリエットこんなところにいたの」
図書室で魔導書を読んでいた私を、三人の人影が取り囲む。
しかし、私は無視して魔導書をめくった。
「相変わらず、無駄な努力がお好きなようねえ」
三人はクスクスと笑った。

ー相変わらず、五月蝿い人たちだこと

そのうちの一人が甲高い声を上げた。
「今日は王太子殿下のお茶会のはずだけど…あなた、もしかして呼ばれていないの?」
「ええ」
「まあ、かわいそうに!それでしたら、私のお供として、連れて行ってあげてもよろしくてよ?同じ四大侯爵家のよしみだもの」

王太子殿下のお茶会。
学生たちと親交を深める目的で、王太子の気まぐれで人選が行われる。だから四大侯爵家であっても呼ばれるとは限らない。

私は顔をあげた。
銀髪の少女がさも馬鹿にしたような顔で、私を見下している。
「お断りするわ、イザベラ・グリント。
あなたのヒステリックな声を聞きながらお茶なんて。まだ鶏の声のほうがマシ」
「なんですって!負け犬のくせに!」
「万年負け犬のあなたに言われたくないわ」
イザベラと私は睨み合う。
四大侯爵家の令嬢で同学年だけど、イザベラの魔力は中の中。
それなのに、実家の権力を振りかざさずにはおれない、非常に厄介な人間だ。
 
「静かにして」

どこからともなく、声が聞こえた。
私が顔を向けると、一人の少女が近付いてきた。
背中まである髪と、切れ長の瞳は真っ黒で、薄い唇がきりりと結ばれている。
「おしゃべりするなら、他の場所に行ってくださらない?」
「マリエ・ブラッドリー様、申し訳ございません」
イザベラは猫なで声で黒髪の少女に言い、慇懃に頭を下げると、ほかの二人と一緒に歩き出した。

「マリエ様、また、お茶会でお会いしましょう」

マリエの横を通り過ぎる時、イザベラはあからさまに声を上げ去っていった。

ーマリエも王太子殿下のお茶会に呼ばれているですって?
私は胸騒ぎがした。

マリエはイザベラを見向きもせず、私に近づいてきた。
「その本、貸してもらうわ」
マリエは私が読んでいた本を奪う。
「ちょっと、なにするの!」
「あなた、私に逆らえると思っているの?」
マリエは切れ長の目をさらに細めた。
黒髪が風もないのにふわりと空気をはらむ。
マリエの手元に黒い表紙の本が現れた。

「あなたは私に負けたの。四大侯爵家の御令嬢がにね」

マリエは見下すようにいった。
「もう一度、その時のことを再現してあげましょうか?」

「何をしてるんですか!ここでは魔法禁止ですよ!」
司書が異変に気づき、慌てて近づいてきた。
「申し訳ございません、先生。まだ魔力の制御が上手くできなくて」
マリエの纏っていた魔力が消える。
そして本を持ったまま、出口に向かった。

「次は私が勝つわ」
私はその背中に向けて叫んだ。

「無理ね。あなたは一生負け犬よ」

マリエは私を振り返ろうともせず、一言いい、また歩き出した。
私はその後ろ姿を眺めながら、屈辱に震えるしかなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

幸福なる侯爵夫人のお話

重田いの
ファンタジー
とある侯爵家に嫁いだ伯爵令嬢。 初夜の場で、夫は「きみを愛することはない」というけれど。 最終的にすべてを手にした侯爵夫人のお話。 あるいは、負い目のある伯爵令嬢をお飾りの妻にして愛人とイチャイチャ過ごそうと思ったらとんでもないハズレくじを引いちゃった侯爵のお話。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

• 『社交界の華は、影に咲く毒。〜私を捨てた世界、すべてお返しいたします〜』

YOLCA(ヨルカ)
ファンタジー
「その黄金の瞳……なんて気持ち悪いの。我が家に化け物は必要ないわ」 名門伯爵家の娘として生まれたエレーナ。しかし、彼女に宿った未知の能力を恐れた継母イザベラは、実父の留守中を狙い、幼い彼女を雪の降る町に捨て去った。 死を覚悟した彼女を拾ったのは、帝国の裏社会を支配する「皇帝の弟」ヴィンセント公爵。 彼はエレーナの力を「至宝」と呼び、彼女を公爵家の実の娘として迎え入れた。 それから数年。 エレーナは、二人の過保護な兄と、五人の精鋭部下に囲まれ、美しくも最強の工作員へと成長していた。 すべてを暴く『黄金の瞳』、すべてを操る『魅了』、そして伝説の師匠たちから授かった至高の淑女教育を武器に。 一方、継母イザベラは父を捨て、さらなる権力を手に入れるため、悪名高い侯爵の妻として社交界の頂点に君臨していた。 「お久しぶりです、お母様。……化け物と呼ばれた私からの、お返しを受け取ってくださいね」 捨てられた少女による、優雅で残酷な復讐劇。 今、その幕が上がる。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...