それでもあなたは銀行に就職しますか 第4巻~彰司と佳奈子の勉強会~「不渡り手形」

リチャード・ウイス

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神戸の事故

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 しばらくは曇天が続いていたある日の午後、小会議室に六名の男たちが集まっていた。場所は神戸市にある警察署だった。
署の方から二名、それと残りは新聞記者たちだった。

「えーっ。そう言う訳で、去る三月と五月に市内で発生した、高級外車の連続窃盗事件の犯人はこの三名でありまして、ほかに共犯者はいない模様と考えられます。これからはこの案件は検察に送られ法にのっとり処分が下されるものと思われます」

三名の記者はメモを取りながら熱心に聞いていた。
このところの刑事事件についての、プレスリリース兼記者会見らしきものが開かれていたのだ。

「さて、では皆さんの方から、何か最後に質問はありますか」
担当の警察の幹部が各記者の顔を見ながらそう言った。

「あ、すいません。ひとつよろしいですか」
「はいはい、神戸合同新報さん、どうぞ」

「五日前にあった、県道8号線の事故について聞きたいのですが」
「はい、イイですよ」
「結局、あの事件の原因は何で、警察としてはどこまで調べが進んでいるのですか」

その時に、神戸合同新報のその記者が追加で質問するのも無理はなかった。
その事故により、片側二車線の上り線の道路が、完全に三時間も封鎖されると言う事態が起きていたからだ。人もひとり死んでいた。

「ああ、その件ですね。え・・・あの事故におきましては、すでに皆さん方も第一報として報道されていますが、死亡者一名」
続けた
「名前は矢部真二。会社役員。大分の企業で、役職は専務、自殺であります」

内容はこうだった。
五日前の夜11時ころ、矢部真二は神戸市中心部を迂回するバイパスを走っていた。乗っていたクルマは白色の普通乗用車。

すぐ後ろを走っていたクルマのドライバーが事故を証言していた。
「前を走る車の後を、わたしは・・そうですねぇ5分くらい付いて行くような感じで走っていました。特に最初は問題はなかったのですが、次第に前の車が左右にふらふらとし始めたんですよ」

そのドライバーが話すバイパスのそのあたりは、夜になると大型のトラックやダンプカーなどが結構な量、走っているところだった。

「あそこ辺りって、違法なんでしょうけれど、夜には道路左側に少し広いところがあると、長距離トラック運転手が休息のために結構車両を止めているじゃないですか。ふらふらしていたその車が、それにぶつかりやしないかと、ヒヤッとしたもんです。そしたらその車は、ものの1分もしないうちに、いきなり急加速して・・・たぶん120キロ以上は出ていたと思います、・・・路肩に止めてあったダンプカーにむけて突っ込んで行って大破したんですよ。いやぁ、すごい音がしてびっくりして、思わず急ブレーキを踏みました」
大破した部品や、斜めに止まった車体が車線を完全にふさいだために、そこは三時間の通行止めとなった事故だった。

「えー、警察の調査においても細かいところまで把握しております」続けて
「急加速して、猛烈なスピードで突っ込んでいます。ノーブレーキです」

「薬物とかは?飲酒は?」
「検出されませんでした。ただし・・・」
「ただし・・・?」
「事故を起こしたクルマは、会社所有の物だったからでしょう、前方、後方そして車内と、三方向録画に加えて音声も記録するドラレコが付いておりまして、そちらも解析し、すでに結果も出ております」

「で、その結果は」
「結果は、事件性は全くありません。先のドライバーさんの証言通りです。よって自殺だったとの判断になります」

しばらく間をおいて警部は続けた・・
「えー、ただ音声の方で私たちが注目したのが、死亡した矢部真二が運転中に繰り返していた言葉です。(責任は自分だけかよ、くそっ!)とか(ちっくしょう、学歴は俺が上なのに)また(あれは俺の退職金代わりだ)と、何度も言っていた事が判別されました」
さらに続けて
「心身障害の疑いがあります。思い余って瞬間的な行動をとったものと分析しています」

「自殺」と聞いて、各記者は「記事の対象じゃないなこれは・・、さあ、帰るか」のような顔をして、帰り支度を始めた。

先の警部が
「但し、矢部真二は、大分市で起こった『横鷹ホームの取り込み詐欺事件』の容疑者にもなっていますので、ま、私たちの署には関係は無いのですが、大分県警の方では捜査が引き続き行われるものと思っております。会社側の説明では、社長がうかがい知らぬところで、矢部氏が単独で画策し実行したとされておりまして・・」

しかし・・・最後のこの話は、記者連中は全く、誰も聞いていなかった。



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