ウイスの回顧録 その2

リチャード・ウイス

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「紺野美沙子氏と芦田愛菜氏」について(前編)

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 ドラマの主演や有名アパレルのモデルへの抜擢を経て、一躍、時の人となった新人タレントは多い。
紺野美沙子もそのうちの一人だ。

彼女は1978年から81年にかけて、ユニチカの三代目マスコットガールを務めたのちに芸能界入りした。
その後まもなく、NHK連続テレビ小説「虹を織る」のヒロイン役を勝ち得た。

 彼女と私は同時期1980年に慶大日吉校舎でキャンパスライフをスタートさせた。
学生がこぞって入るクラブ活動では、私はまずはテニスクラブと軽音楽部に入った。
そこでは男女を問わず多くの友人に恵まれた。

このテニスクラブでの話だが、美人で明るい性格で、そしてテニスが上手なT子さんがいた。このT子さんと美沙子さんはともに慶応女子高校出身で、昔から仲が良かった。お互いにあだ名で「さっこ」に「たっこ」と呼び合っていた。おまけに大学の学部も文学部国文科と二人とも同じ。

 ある日、三田のキャンパスの片隅で、テニスクラブの仲間が集まって和気あいあいと世間話をしていた時に、ふと話題が紺野さんの話になった。これは、その「たっこ」が「さっこ」との写真をたまたま持っていたことに端を発した。ずうずうしい漆山君は、
「いつか会わせてよー」
などと言っていた。

三枚の写真があった。街中によくある様な公園で遊ぶ二人が映っていた・・・高校生時分だっただろう、ブランコで遊んだりしている二人の笑顔ははつらつとしていた。

 そうこうするうちに「青年老いやすく学成り難し」の言葉通り、私自身が何をどう学んだか分からない内に、卒業の季節を迎えることとなった。
卒業の数日前には卒業確定者の名前が張り出された。
私は友人と一緒にその掲示板を見に行った。たくさんの学生がすでに集まっていた。場所は専門過程の2年間に慣れ親しんだ「西校舎」の一階ロビー。一応自分はOKであったことを確認しほっとした。
そこで心に余裕ができたのか、一緒に来ていた友人とのあいだで
「紺野美沙子の名前もついでに探さないか。確か・・・国文科だ」
との話になった。

文学部の一角に行って、オッここだ、と名前を探した。
しかし名前がない・・・。一瞬がっくりした。
「(やっぱりテレビ出演やモデルの仕事などで忙しく、出席日数が足りなかったのかなぁ)」そして、
「(同じ卒業アルバムに載れたなら、一生ハッピーだったろうになあ)」とも思った。

・・自分でいうのもなんだが、あわて者としか言いようがない。紺野美沙子は芸名だ。
その事に気づいて二人でもう一度、舐めるように掲示板を見た。
文学部国文科 佐藤美佐子さんは無事に卒業者の一人に名を連ねていた。


 時は流れて、卒業後に私が平々凡々とした会社員生活を、地元の福岡や転勤先の東京で送っている間に、紺野氏は、結婚しそして母親となった。
女性としてこのような保守的な生き方をしながらも、その知性と美貌で、並行してテレビや舞台等々では活躍を続けていた。
ついでに95年には執筆したエッセイが日本文芸大賞 女流文学賞を受賞した。
小間使い同然にお取引先を走り回っていた私から見ると・・羨ましい限りの実績である。
一方で98年にはUNDP(国連開発計画)の親善大使に任命され、発展途上国を訪問し、様々な人との交流を通じて世の中に平和を広めていくと言う、私とはちょっと次元が異なるスケジュールをこなしていた。
彼女らしい愉快で明るい性格は、インターナショナルのフィールドで活躍するにはうってつけだと思った。


 ところで、そんな1980年代の半ば以降、ヒーリング音楽と言うものが世に出てきた。
歌が入っていな所謂(いわゆる)インストゥルメンタルの緩やかな調べだ。ピアノ系統の曲が多かったように思う。
外国からはウインダム・ヒル・レーベルからCDを出していたジョージウインストン、またアンドレギャニオンが、そして日本では西村由紀江の調べがいろんなところで流れていた。

その西村氏とならぶ女性ピアニストに中村由利子がいた(80年代には約3枚のCDを発表)。
私は頻繁に彼女のCDを聞いていた。スキーの行きかえりには必ずと言っていいほどクルマの中でも聞いていた。その結果、その後大きくなった娘からは「クルマの中では中村由利子とクイーンしか聞いた記憶がない!」と後に皮肉を言われる始末だった。

それから数年たち、時代はバブル崩壊の90年代に入った。忙しすぎる社会人の心の慰めに打って付けなのか・・中村由利子のピアノの曲は周りにさらに浸透していった。

95年からは東京FMの深夜の人気プログラム、ジェットストリームにて「アイ ウイッシュ」がオープニングテーマ曲として、また、「トワイライト ウインズ」がエンディングテーマに用いられた。その関係から、JAL機内の月替りミュージックプログラム「ジェットストリーム」でも、その始まりと終わりにこの2曲が流れていた。

そんなとき、三十五才になった私はその中村由利子のコンサートがあれば「ぜひ行きたい」という思いを持っていた。東京に(二回目の)赴任をしてすぐの頃だった。
そこはさすが首都圏である。私の思いが天に届いたのか、平成七年、仕事も終わりかけた夕刻、社内のラックに置いてあった新聞を何気に見ていたところ
「横浜関内ホール/中村由利子コンサート開催」
・・・この文字が目に飛び込んできた。

(後編に続く)


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