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「瀬島龍三氏と田中末吉(日本帝国陸軍・軍人)」について(前編)
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若者の晩婚化とそれに起因する「少子化」の進展が大きな社会問題となって久しい。
国は少子化問題担当大臣までおいてその対策に乗り出している。
私の時代の仲間たちの結婚は、就職して3年くらいたった頃から徐々に見られた。その後、28歳くらいがピークとなった。
私たちが二十代を過ごした昭和60年代と今日とでは、結婚に対する若者の見方が大きく変わってしまったようだ。
さて、独身時代の私は、ご多分に漏れず、給料のほぼ全部が小遣い銭である一方、駆け出しで忙しいながらもプライベートの時間は多々あったために、頻繁に友人(そのまた友人)を交えて、男女そろってスキーやテニスや食事に行ったものだ。
ある日、三菱銀行に就職していた田窪君から、
「今週末は空いてるか? 飲みに行かない、女性が二人来るんだけど」
そんな連絡をもらった。
この昭和62年はバブル経済ピーク突入のころで、週末の繁華街はどこも華やかだった。
株の成金や、不動産成金が夜の街を闊歩していた。その一方、企業の営業担当者(特に証券会社)は接待費を湯水のように使っていた。
それにグルメブームが加わり「酒食は高くて当たり前」の時代。株も、投資型マンションも、外車も「銀行から金を借りて買え」の時代であった。
日本経済は右肩上がり、誰が書いたかは忘れたが「NTT株は一千万円をめざす」などと、今思えばバカバカしい本が出るなど株価は活況(=異常)を呈していた。(なお、NTT株は310万円あたりをピークにその後は無残にも下落の一途をたどる)
そのせいか、そこら辺の中堅証券会社の若手さえも「クルマはマセラティ、スーツはアルマーニ・・・」などと寝言を言っていた。
そんな日本国はじまって以来の狂乱の時代だった。
その約束の日、待ち合わせの場所は銀座四丁目交差点、日産ショールーム(現 ニッサン クロッシング)向かいのハンバーガーショップだった。
田窪君によれば、T子さんは伊藤忠商事の秘書課、M子さんはANAのCAで国内線に乗っているとのこと。
二人に私は「はじめまして」とあいさつしながら、(三菱ともなると、さすがに付き合う女性は、着ている服から何まで違うなぁ)と感心していた。
食事のあいだ、世間話に続いて、会社や自分が担当している具体的な仕事が話題に上った。
田窪君が「この娘さ、いま相談役を担当しているんだって。知っている?瀬島龍三さんって」とT子さんの事を私に話した。
(えっ、せじま・・・りゅうぞう・・・)
酒を飲む手が一瞬止まった。
(まさか、あの瀬島龍三氏?!)
瀬島氏と言えば、当時、伊藤忠商事の相談役であると同時に、当時の中曽根首相のブレーンと言われる我が国の政財界の重鎮であった。
また、彼は、しばらく前に出された小説「不毛地帯」(山崎豊子 著)の主人公「壱岐 正」のモデルとして知られていた人物である。
学生時代わたしはアパート住まいの部屋で、城山三郎や山崎氏の企業小説、ならびに司馬遼太郎の歴史ものをよく読んでいた。この御三方の主人公には往々にして実在の人物がいる。
そのなかでも、すごい人生を送った人物がいるものだと感動したのが小説「不毛地帯」であり、主人公の瀬島龍三氏であった。
彼の略歴は次のようになっている。
生い立ちは1911年、富山県西砺波郡生まれ。・・・積雪が結構きびしい地域である。
1938年、陸軍大学校(今の青山一丁目交差点あたり)を首席で卒業。天皇陛下から
恩賜「 軍刀」を受ける。
太平洋戦争が始まる1941年に大本営・陸軍部に配属、その後、陸軍のほぼ全ての作戦に参謀として関与。そして、終戦の年、関東軍参謀に任命され満州に赴任。1945年の8月の日本の降伏後に、関東軍幹部らと共にソ連軍に拉致されてシベリア送り(11年間)となる。
実業家時代は1958年の伊藤忠入社から始まっている。戦後復興に伴う当社の近代化に辣腕をふるった。会長を経て、相談役には1981年に就任した。
この実業家時代は並行して、中曽根政権の(1982~87年)ブレーンとして国鉄民営化、電電公社や専売公社(現NTT、JT)の民営化に辣腕をふるった。
先の銀座での彼女らとの初対面から1年を少し過ぎたころ、田窪君から「T子さんと結婚するよ」と電話があった。そして
「式には来てくれよな。あ・・そして友人代表の挨拶も頼むから考えておいてくれ。じゃあ」と。
私はすでに数か月前に婚約していた。その関係で、彼らからはその結婚の日に至るまでに、時折新生活に関する諸々の相談をうけたりしていた。そんな二人の式の段取りの話の中で(えっ?!)という内容が聞こえてきた。
「瀬島相談役も披露宴に来て下さるそうよ、ビックリね」
「本当にありがたいよ。嬉しいことだ。しかしちょっと大変・・・・」
(なにっ、瀬島氏が出席をOKした・・?)
(えっ、彼に接することができる!) 超ド級の驚きである。
瀬島氏からのオーケー回答は、「会社でいつも良くしてくれる(この孫娘のような)T子さんに対する、感謝の気持ち」からの判断だったのだろう。
数分経ってから私の気も落ち着いてきた。しかしまた心の中では(おいおいちょっと待てよ!私は新郎の友人代表スピーチを請け負っている。大丈夫か・・・!?)
すなわち、山崎豊子の小説に感動し、敬意の念を持っていた人物の前に立つことになる。官僚や政治家の抵抗を押し切り、NTTの民営化を成し遂げるなど、国家の構造改革に取り組んできた男の前に出るのである。
さらに、元の帝国陸軍の大本営参謀であり、当時は官邸にも出向いて政府を相手に重要案件をさばいて行ったであろう筋金入りの軍人の前に立つのである。
思った・・・
「これも良い意味での運命というものか」と。
国は少子化問題担当大臣までおいてその対策に乗り出している。
私の時代の仲間たちの結婚は、就職して3年くらいたった頃から徐々に見られた。その後、28歳くらいがピークとなった。
私たちが二十代を過ごした昭和60年代と今日とでは、結婚に対する若者の見方が大きく変わってしまったようだ。
さて、独身時代の私は、ご多分に漏れず、給料のほぼ全部が小遣い銭である一方、駆け出しで忙しいながらもプライベートの時間は多々あったために、頻繁に友人(そのまた友人)を交えて、男女そろってスキーやテニスや食事に行ったものだ。
ある日、三菱銀行に就職していた田窪君から、
「今週末は空いてるか? 飲みに行かない、女性が二人来るんだけど」
そんな連絡をもらった。
この昭和62年はバブル経済ピーク突入のころで、週末の繁華街はどこも華やかだった。
株の成金や、不動産成金が夜の街を闊歩していた。その一方、企業の営業担当者(特に証券会社)は接待費を湯水のように使っていた。
それにグルメブームが加わり「酒食は高くて当たり前」の時代。株も、投資型マンションも、外車も「銀行から金を借りて買え」の時代であった。
日本経済は右肩上がり、誰が書いたかは忘れたが「NTT株は一千万円をめざす」などと、今思えばバカバカしい本が出るなど株価は活況(=異常)を呈していた。(なお、NTT株は310万円あたりをピークにその後は無残にも下落の一途をたどる)
そのせいか、そこら辺の中堅証券会社の若手さえも「クルマはマセラティ、スーツはアルマーニ・・・」などと寝言を言っていた。
そんな日本国はじまって以来の狂乱の時代だった。
その約束の日、待ち合わせの場所は銀座四丁目交差点、日産ショールーム(現 ニッサン クロッシング)向かいのハンバーガーショップだった。
田窪君によれば、T子さんは伊藤忠商事の秘書課、M子さんはANAのCAで国内線に乗っているとのこと。
二人に私は「はじめまして」とあいさつしながら、(三菱ともなると、さすがに付き合う女性は、着ている服から何まで違うなぁ)と感心していた。
食事のあいだ、世間話に続いて、会社や自分が担当している具体的な仕事が話題に上った。
田窪君が「この娘さ、いま相談役を担当しているんだって。知っている?瀬島龍三さんって」とT子さんの事を私に話した。
(えっ、せじま・・・りゅうぞう・・・)
酒を飲む手が一瞬止まった。
(まさか、あの瀬島龍三氏?!)
瀬島氏と言えば、当時、伊藤忠商事の相談役であると同時に、当時の中曽根首相のブレーンと言われる我が国の政財界の重鎮であった。
また、彼は、しばらく前に出された小説「不毛地帯」(山崎豊子 著)の主人公「壱岐 正」のモデルとして知られていた人物である。
学生時代わたしはアパート住まいの部屋で、城山三郎や山崎氏の企業小説、ならびに司馬遼太郎の歴史ものをよく読んでいた。この御三方の主人公には往々にして実在の人物がいる。
そのなかでも、すごい人生を送った人物がいるものだと感動したのが小説「不毛地帯」であり、主人公の瀬島龍三氏であった。
彼の略歴は次のようになっている。
生い立ちは1911年、富山県西砺波郡生まれ。・・・積雪が結構きびしい地域である。
1938年、陸軍大学校(今の青山一丁目交差点あたり)を首席で卒業。天皇陛下から
恩賜「 軍刀」を受ける。
太平洋戦争が始まる1941年に大本営・陸軍部に配属、その後、陸軍のほぼ全ての作戦に参謀として関与。そして、終戦の年、関東軍参謀に任命され満州に赴任。1945年の8月の日本の降伏後に、関東軍幹部らと共にソ連軍に拉致されてシベリア送り(11年間)となる。
実業家時代は1958年の伊藤忠入社から始まっている。戦後復興に伴う当社の近代化に辣腕をふるった。会長を経て、相談役には1981年に就任した。
この実業家時代は並行して、中曽根政権の(1982~87年)ブレーンとして国鉄民営化、電電公社や専売公社(現NTT、JT)の民営化に辣腕をふるった。
先の銀座での彼女らとの初対面から1年を少し過ぎたころ、田窪君から「T子さんと結婚するよ」と電話があった。そして
「式には来てくれよな。あ・・そして友人代表の挨拶も頼むから考えておいてくれ。じゃあ」と。
私はすでに数か月前に婚約していた。その関係で、彼らからはその結婚の日に至るまでに、時折新生活に関する諸々の相談をうけたりしていた。そんな二人の式の段取りの話の中で(えっ?!)という内容が聞こえてきた。
「瀬島相談役も披露宴に来て下さるそうよ、ビックリね」
「本当にありがたいよ。嬉しいことだ。しかしちょっと大変・・・・」
(なにっ、瀬島氏が出席をOKした・・?)
(えっ、彼に接することができる!) 超ド級の驚きである。
瀬島氏からのオーケー回答は、「会社でいつも良くしてくれる(この孫娘のような)T子さんに対する、感謝の気持ち」からの判断だったのだろう。
数分経ってから私の気も落ち着いてきた。しかしまた心の中では(おいおいちょっと待てよ!私は新郎の友人代表スピーチを請け負っている。大丈夫か・・・!?)
すなわち、山崎豊子の小説に感動し、敬意の念を持っていた人物の前に立つことになる。官僚や政治家の抵抗を押し切り、NTTの民営化を成し遂げるなど、国家の構造改革に取り組んできた男の前に出るのである。
さらに、元の帝国陸軍の大本営参謀であり、当時は官邸にも出向いて政府を相手に重要案件をさばいて行ったであろう筋金入りの軍人の前に立つのである。
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