それでもあなたは銀行に就職しますか 第3巻~彰司と佳奈子の勉強会~「連帯保証人」

リチャード・ウイス

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新聞取材

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「東郷さん、そうしましたら、四時四十五分に広報部に直接行きますので宜しくお願いします」
そういって相手はスマホの通話を切った。

「(またこれだ!・・・おまけに夕方近くになって電話をしてきて・・・、きょうは水曜日だぜ。
仕事のあとの予定も六時から入っているというのに)」
と東郷彰司はむっとした表情を浮かべた。

 電話の主は毎朝新聞 福岡支社の社会部記者 原田一郎からだった。
大体、原田から電話がかかってくるとロクなことはない。おまけに、彼のネチネチとした性格が東郷は苦手だった。

 電話で原田が言ってきた内容は・・・
「お宅の銀行の赤塚支店に定期預金をしている男性から、うちの社会部に電話がかかってきましてね、その人が言うには赤塚支店の預金の取り扱いがおかしい。自分の預金が知らぬ間に引き出されている、と言うんですよ。脇川っていう人なんだけどね。なにかお宅の支店で不祥事が起きているんじゃないのぉ?そこを取材したいので三十分後に伺いますよ」
と言うものだった。

原田は東郷よりも三つ年が下だが、新聞記者にありがちな、タメ口で、ずけずけと物を言ってくるややこしい人間だった。

東郷が『毎朝新聞、またかよ・・・!』とつぶやいたのも、訳があった。

原田からは、一か月前にも取材の依頼があった。その電話の内容は
「あー東郷さん、さっき博多駅西口の西都銀行のATMコーナーを通りがかったんだけど、えらい沢山の人が並んでいましたよ。長蛇の列ね。システム障害か何かを起こしているんじゃないのですかぁ?その事実を隠していませんか?公表しました?今からそちらに行っていいですか、取材させてもらえます?」だった。
それは東郷が極めて忙しい時の電話で、取材に来られてもとても相手をできる状況ではなかった。
しかし、この取材要請に対して、もし東郷が無下に
「いきなり取材をと言われましてもねぇ・・・、今日はこれから来客があり、その後は企画会議があり、時間が取れないのですよ」
などと言おうものなら、記者特有の、あの
「しゅ、しゅ、取材拒否ですねッ!!それって取材拒否ですよ!ウチのデスクに伝えますよ。西都銀行は取材拒否だったと!」と大声でわめかれてしまう。
よって、東郷は、
「システム障害が発生した場合は、うちの銀行ではシステム統括部門から、その旨の連絡が真っ先に広報部に入るようになっています。ですが、今現在は、特にそのような連絡は来ていないんですよね」続けて、
「でも、システム運用部長に私から確認を入れて、有無を確かめて十分後には回答を電話します」
そう腫れ物に触るくらい丁寧に回答した。しかし彰司は
「(今日はデータ量が極端に増える二十五日だ。ATMは混んでいて当たり前だ。そんな折り、入金の際に誰かがシワくちゃの一万円札を多量にATMに押し込み、内部でお札がジャムって止まっちゃったぐらいの話だろうな、おそらく。この前も、博多魚市場の仲買人が、ウロコが付いた現金十五万円を本店のATMに入れこんだために、途端にエラーが発生して・・・っていうのもあったし)」
とつぶやきつつ、システム運用部長の甘利正吾に電話を入れた。

「えっ?システム障害が発生していないかだって?!ないないない。順調だよ。今の二倍近いデータが押し寄せてきても平気だよ(笑)。 そうだなぁ・・・なんだったら私から、『ATMカスタマー対応センター長』に電話して、記者が言うそのATMでなにかエラーが起こっていないか聞いてやるよ」そう言って甘利は電話を切った。

五分後に甘利から彰司に電話があり、博多駅西口のATMでは、やはり予想したようなことが起こり、セコムの担当者が急行し、機械の中のからみ合ったお札を引っ張り出して今しがた無事回復したと言う事だった。
彰司は(やはりな・・・)と思いながら、毎朝新聞の原田にその旨を電話し、その件はそれで短時間で一件落着していたのだった。


 四時四十五分きっかりに原田は七階エレベーターホールの内線から広報部に電話を入れてきた。
報道の記者達は、広報部に来る際は、一応は一階の入館受付窓口で守衛から入館バッチをもらうのだが、そこを通り過ぎたら、自分の会社であるかのごとく、我がもの顔でノッシノッシと歩いたりする。
「あー、東郷さん。今着きましたよ。場所はどこで?第一応接、それとも第二?先に入っときますよ」
「(おいでなすった)」彰司はそう心の中でつぶやいた。
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