それでもあなたは銀行に就職しますか 第3巻~彰司と佳奈子の勉強会~「連帯保証人」

リチャード・ウイス

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ある女性の延滞

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 佳奈子たちが今いるピッツァリアグランディーノは、道に接する間口が5mくらい、奥行きが10m弱のこじんまりした店だった。壁とフロアは木目、その壁には黒板にチョークで書いたようなメニュー表があった。ライトはLEDの小球が天井から1mくらいに各テーブルの上に釣り下がっていた。天井近くの細長い飾り棚にはカップをはじめとしたイタリアのお洒落な食器類がかわいらしく並べられていた。イタリアの路地裏にあるような、こんな肩ひじ張らない雰囲気のこの店が二人は好きだった。

「じゃあ、東郷さん自身は、行員としてさっきのような『早速、保証人へ請求!』場面に出くわしたってことはないのですか」
そう佳奈子に言われて、彰司は八年ほど前の高谷支店時代の件をふと思い出したのちに、
「そりゃ当然あるさ、商売柄ね」と言った。

       ◇

「東郷さん、ちょっとすいません」
業務が多忙な二十八日の昼過ぎだった。
二階の営業課の部屋から階段を下りて一階の貸付係の横を通りがかった時に呼び止められた。
「なに、どうした」
東郷は当時まだ入行二年目。融資先の開拓をメインに担当する外回りをしていた。もちろん、昔からの古い融資取引先を二十社ほどきっちり管理するのも彼の仕事だった。
「田山さんの普通預金口座がまた残高不足で、今月の返済の引き落としができていません」
係りが言う取引先の内容はこうだった。 

田山敦子 五十九歳 福岡市役所の外郭団体の会社員(副係長)
六世帯用の、家族向けの二階建てアパート一棟を所有。
建設資金を西都銀行 高谷支店から借入し、融資の返済は 毎月二十八日・・三十三万円。

その田山の管理を担当していたのが東郷だった。

「いくら足りないんだ」
「十五万円です」
これで六ヶ月連続して返済日に残高不足を起こしていた。
その度に、東郷は田山敦子に連絡を入れ、少なくとも明日までの普通預金への入金と、今後の返済見通しをヒアリングしていた。
「またか・・・・。わかった、先方に至急連絡を入れるから」
そう言って、二階の自分の机に足早に戻った。

東郷は自分の営業課に戻るや、自分の上司である高尾に今の件を早速報告した。
高尾は眉をひそめて言った。
「すぐに電話しなさい。入金は明日正午までに必ずだ。この人には、前回みたいに月を超えた延滞はもう許されないぞ」
「わかりました」
「それから田山敦子には、二十八日から今月末までに支払わなければいけない他社への返済関係を全部聞き出すんだ」
その点については彰司も周知のことだった。
まずは、田山の携帯に電話を入れた。案の定出ない。
間髪を入れず会社の方に電話を入れた。

「はい、福岡港湾企画 経理課です」
「恐れ入ります、東郷と申すものですけれど、田山さんお願いします」
「あ・・・あいにくですけど、ただ今外出しております。つきましては戻り次第お電話するように申し伝えます」
「そうですか、よろしくお願いします」

 イライラしながら待つこと約一時間、田山敦子から東郷のスマホに電話がかかってきた。
彰司は、(こっちが電話したのは分かっていただろうに、一時間もたって・・・)とムッとしながら電話に出た。
「お待たせいたしました、東郷です」
「もしもし、田山です。電話をいただいたみたいで・・・。今日の返済の件でしょう・・」
一応は気にしている様子だった。

東郷は詳細について話し始めたが、その電話を制するように田山敦子は言った。
「いま会社なので、まずいんです、細かいことを話すには・・・。口座の残高不足の件は分かっています。なんとか考えています・・・明日以降で会社が休みの日にしてもらえませんかこの話」
それでは彰司の方が逆にまずい。
「いや、これは急ぎますので、今晩そちらに伺います。何時でしたら・・・・」
八時なら何とか会えるとの回答を得た。
彰司は椅子に座り直し、両手両足を伸ばしながら、フーっと息を吐いて目を閉じた。
『いよいよかもしれない』・・そうつぶやいた。

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