それでもあなたは銀行に就職しますか 第3巻~彰司と佳奈子の勉強会~「連帯保証人」

リチャード・ウイス

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値段の価値ほどない物件(1)

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「ちょっときついですねその修繕の額って。そんな金額をもし自分が別に使えるとしたら、何着お洋服が買えて、何回お友達と旅行できるかしら」
佳奈子は、(もったいない・・・)と言うようなそぶりで言った。続けて、
「改修工事の時に、大金を払っているようだけど、それってもっと上手くやる方法は無かったの?賃貸業務に詳しい人に広く意見を求めるとかよく聞く話じゃないですか、ねえ」
そう彰司に相槌を求め、マスタード付の生ハムをつまみながら、グラスに残っていたビールの最後のひと口を飲みほした。

佳奈子のそうしたしぐさを優しい目で見つめながら彰司は話し出した。
「実際のこの工事については、田山さんの対応は少々問題だったな。
まあ、そうこうするうちに次の返済日なんて、田山さんからしたら、あっという間なのだよ」
「ホント、早いものですよね、次の引き落とし日なんて。私もお洋服買った時のカードの返済が毎回『え、もうきちゃった・・・』ですよぉ」

 佳奈子はいつの間にか飲み物をジン&ソーダに変えていた。清涼感あふれる小さな綺麗な泡が、そのグラスの底から上の方に向かって無数に漂っていた。
それを見ながら「泡のような・・・・・」という表現は、得てしてネガティブな意味合いが強いですね・・と独り言をつぶやいた。そして、
「東郷さん、その田山さんの件は、手間と時間がとられる厄介案件になっちゃった訳でしょう。たいへんでしたね」
佳奈子が言うとおりだった。

 彰司は、訪問の翌日、田山から何とか入金があったあと、本格的にこの案件の収束に向けて動き始めた。
それは、この融資案件を、銀行と田山敦子に、極力被害が発生しないように終わらせるためのものだった。見据えていたのは・・・『物件売却と、銀行債権の全額一括回収』だった。

 東郷が田山敦子と会った翌々日、その日は土曜日で銀行の休業日だった。しかし、彰司はそのアパート物件を見るために、車を飛ばし、北九州市の門司から関門海峡トンネルをくぐり下関に来ていた。
書類上は、所在地、広さ、担保関連の数字を支店で目に通していたものの、実際の建物の状況を見たのは初めてだった。
ナビを見ながら車を走らせたその地区は、市の中心から離れたやや丘陵地にあった。
「なるほど、これか。これが月々家賃六万の物件か・・・・」

 建物の外壁は真っ白、屋根は黒、そして所々にアクセントとしてオレンジ色が施されていた。田山が言うように、塗装を再度行った様ではあったが、部分的にはまだ鉄骨から出たサビの汚れが醜く垂れていた。エントランスにも無造作に古新聞の束が積み上げてあった。

 彰司はその下関に出かける前に、今回の田山の塗装とせまい庭部分の改修工事の件について、支店の取引先の建設会社の工事部長 橋木清彦に話を聞いてみた。
「橋木部長、実はうちの支店のお客さんで、三年ほど前に、所有するアパートの改修工事をしたのですけど・・・・少々お話を伺っていいですか」
「ああいいよ、そもそもどんな構造のアパートなんだい?加えて新築時の価格は?」
「アパートはレオ・コーポレーションの物件でして・・・」 
そうして金額を告げたところで橋木部長は片手で彰司の話を遮った。
首を左右に振りながら『ノーノー』と言うようなしぐさをした。 

「レオ・コーポレーションの物件かぁ、もう、だいたい分かるよ」
そう橋木は言ったのだった。

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