12 / 26
12
値段の価値ほどない物件(1)
しおりを挟む
「ちょっときついですねその修繕の額って。そんな金額をもし自分が別に使えるとしたら、何着お洋服が買えて、何回お友達と旅行できるかしら」
佳奈子は、(もったいない・・・)と言うようなそぶりで言った。続けて、
「改修工事の時に、大金を払っているようだけど、それってもっと上手くやる方法は無かったの?賃貸業務に詳しい人に広く意見を求めるとかよく聞く話じゃないですか、ねえ」
そう彰司に相槌を求め、マスタード付の生ハムをつまみながら、グラスに残っていたビールの最後のひと口を飲みほした。
佳奈子のそうしたしぐさを優しい目で見つめながら彰司は話し出した。
「実際のこの工事については、田山さんの対応は少々問題だったな。
まあ、そうこうするうちに次の返済日なんて、田山さんからしたら、あっという間なのだよ」
「ホント、早いものですよね、次の引き落とし日なんて。私もお洋服買った時のカードの返済が毎回『え、もうきちゃった・・・』ですよぉ」
佳奈子はいつの間にか飲み物をジン&ソーダに変えていた。清涼感あふれる小さな綺麗な泡が、そのグラスの底から上の方に向かって無数に漂っていた。
それを見ながら「泡のような・・・・・」という表現は、得てしてネガティブな意味合いが強いですね・・と独り言をつぶやいた。そして、
「東郷さん、その田山さんの件は、手間と時間がとられる厄介案件になっちゃった訳でしょう。たいへんでしたね」
佳奈子が言うとおりだった。
彰司は、訪問の翌日、田山から何とか入金があったあと、本格的にこの案件の収束に向けて動き始めた。
それは、この融資案件を、銀行と田山敦子に、極力被害が発生しないように終わらせるためのものだった。見据えていたのは・・・『物件売却と、銀行債権の全額一括回収』だった。
東郷が田山敦子と会った翌々日、その日は土曜日で銀行の休業日だった。しかし、彰司はそのアパート物件を見るために、車を飛ばし、北九州市の門司から関門海峡トンネルをくぐり下関に来ていた。
書類上は、所在地、広さ、担保関連の数字を支店で目に通していたものの、実際の建物の状況を見たのは初めてだった。
ナビを見ながら車を走らせたその地区は、市の中心から離れたやや丘陵地にあった。
「なるほど、これか。これが月々家賃六万の物件か・・・・」
建物の外壁は真っ白、屋根は黒、そして所々にアクセントとしてオレンジ色が施されていた。田山が言うように、塗装を再度行った様ではあったが、部分的にはまだ鉄骨から出たサビの汚れが醜く垂れていた。エントランスにも無造作に古新聞の束が積み上げてあった。
彰司はその下関に出かける前に、今回の田山の塗装とせまい庭部分の改修工事の件について、支店の取引先の建設会社の工事部長 橋木清彦に話を聞いてみた。
「橋木部長、実はうちの支店のお客さんで、三年ほど前に、所有するアパートの改修工事をしたのですけど・・・・少々お話を伺っていいですか」
「ああいいよ、そもそもどんな構造のアパートなんだい?加えて新築時の価格は?」
「アパートはレオ・コーポレーションの物件でして・・・」
そうして金額を告げたところで橋木部長は片手で彰司の話を遮った。
首を左右に振りながら『ノーノー』と言うようなしぐさをした。
「レオ・コーポレーションの物件かぁ、もう、だいたい分かるよ」
そう橋木は言ったのだった。
佳奈子は、(もったいない・・・)と言うようなそぶりで言った。続けて、
「改修工事の時に、大金を払っているようだけど、それってもっと上手くやる方法は無かったの?賃貸業務に詳しい人に広く意見を求めるとかよく聞く話じゃないですか、ねえ」
そう彰司に相槌を求め、マスタード付の生ハムをつまみながら、グラスに残っていたビールの最後のひと口を飲みほした。
佳奈子のそうしたしぐさを優しい目で見つめながら彰司は話し出した。
「実際のこの工事については、田山さんの対応は少々問題だったな。
まあ、そうこうするうちに次の返済日なんて、田山さんからしたら、あっという間なのだよ」
「ホント、早いものですよね、次の引き落とし日なんて。私もお洋服買った時のカードの返済が毎回『え、もうきちゃった・・・』ですよぉ」
佳奈子はいつの間にか飲み物をジン&ソーダに変えていた。清涼感あふれる小さな綺麗な泡が、そのグラスの底から上の方に向かって無数に漂っていた。
それを見ながら「泡のような・・・・・」という表現は、得てしてネガティブな意味合いが強いですね・・と独り言をつぶやいた。そして、
「東郷さん、その田山さんの件は、手間と時間がとられる厄介案件になっちゃった訳でしょう。たいへんでしたね」
佳奈子が言うとおりだった。
彰司は、訪問の翌日、田山から何とか入金があったあと、本格的にこの案件の収束に向けて動き始めた。
それは、この融資案件を、銀行と田山敦子に、極力被害が発生しないように終わらせるためのものだった。見据えていたのは・・・『物件売却と、銀行債権の全額一括回収』だった。
東郷が田山敦子と会った翌々日、その日は土曜日で銀行の休業日だった。しかし、彰司はそのアパート物件を見るために、車を飛ばし、北九州市の門司から関門海峡トンネルをくぐり下関に来ていた。
書類上は、所在地、広さ、担保関連の数字を支店で目に通していたものの、実際の建物の状況を見たのは初めてだった。
ナビを見ながら車を走らせたその地区は、市の中心から離れたやや丘陵地にあった。
「なるほど、これか。これが月々家賃六万の物件か・・・・」
建物の外壁は真っ白、屋根は黒、そして所々にアクセントとしてオレンジ色が施されていた。田山が言うように、塗装を再度行った様ではあったが、部分的にはまだ鉄骨から出たサビの汚れが醜く垂れていた。エントランスにも無造作に古新聞の束が積み上げてあった。
彰司はその下関に出かける前に、今回の田山の塗装とせまい庭部分の改修工事の件について、支店の取引先の建設会社の工事部長 橋木清彦に話を聞いてみた。
「橋木部長、実はうちの支店のお客さんで、三年ほど前に、所有するアパートの改修工事をしたのですけど・・・・少々お話を伺っていいですか」
「ああいいよ、そもそもどんな構造のアパートなんだい?加えて新築時の価格は?」
「アパートはレオ・コーポレーションの物件でして・・・」
そうして金額を告げたところで橋木部長は片手で彰司の話を遮った。
首を左右に振りながら『ノーノー』と言うようなしぐさをした。
「レオ・コーポレーションの物件かぁ、もう、だいたい分かるよ」
そう橋木は言ったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる