それでもあなたは銀行に就職しますか 第2巻~彰司と佳奈子の勉強会~「木室建設事件」

リチャード・ウイス

文字の大きさ
1 / 10

月曜日

しおりを挟む
 その日の午後四時、東郷彰司は明後日に開かれる、地元経済界の主要九社の広報担当者で作る「三水会」事務局の作業に追われていた。
 
 この会合は、偶数月の第三水曜日に決まって開かれる、広報部員の「連絡会兼懇親会」だった。
事務局は持ち回りで、明後日のその会では西都銀行が担当だった。そのための段取りの確認や、今回招待する経営評論家の先生が送ってきた講演内容のレジュメの必要部数のコピーなど、こういった会合の事務局がよくやる作業に没頭していた。

 当日は、経営評論家の先生の四十分程度の講話のあと、質疑応答を終わらせると、もう午後五時半となる予定だった。
その後は、毎回のお決まりだったが、中洲に場所を替えて食事会と言う流れになる。
 
 こういう柔らかそうな会合ではあるが、広報担当の真の仕事である地元マスコミのオモテやウラの動きについての情報交換を、ざっくばらんな中でもさりげなく行うのもこの会の主旨である。
たとえば、最近東京より転勤してきた朝田新聞の記者は、どういうバックグラウンドで、どういう性格をしているか、へんにしつこいのか、そうでないのか、また、前にエネルギー業界を担当(ガス会社や電気会社)していた読舞新聞の記者の、「経済面」の担当から「社会部」に飛ばされた理由とか・・・などなどである。
余談だが、経済面の担当記者は取材で夜中までとなることはあまりない。また、大手企業のトップ主催の記者懇談会(=懇親会)では天然アユの塩焼きや、玄界灘産の活き魚の舟盛を食べたりできる。反面、社会部は『夜討ち朝駆け』の取材と、かつ、度重なる警察での犯罪に関する取材などあまりおいしいところがない。よって『社会部に飛ばされた』と揶揄されたりしていた。
 
そんな折、彰司のラインの着信音が鳴った。
東郷彰司、三十二歳、本店広報部勤務
(ん、誰からだろう・・・・)

そのラインは、この本店ビルの一階で仕事をしている西村佳奈子からのものだった。
西村佳奈子、二十八歳、本店営業部 総合職 入行五年目

「お疲れ様です。あしたの夜はお時間空いています?なんだったら勉強会でもお願いしようかと思いまして・・・」
だいたい、二カ月に一度くらい西村はこんなラインを彰司に送ってきていた。

(・・・明日だったら、今やっている『雑用めいた』仕事も終わっているだろう)と、
「了解、時間はおって連絡!場所はラフレックスにて」と、
ものの八秒で返事を打ち込んだ。

 ラフレックス、そこは中央区高砂一丁目にある彰司と佳奈子のお気に入りのライブパブだった。
その店のスタイルは、午後九時までは普通のカフェバー。それ以降は、その店専属のスーパーバンド『ナイト・ジャックス』がマイケルジャクソンやノーランズをはじめ、八〇年代に流行ったポップスを中心として、テクニックのみならずエンターテイメント性を表に出した実に楽しいライブをやっていた。
もちろん、八時まではハッピーアワーあり、また料金も、ミュージックチャージ 千五百円、それにメニューどおりの食事代と、いたって明快でお得な店だった。
 
      
 その日、午後七時ちょうどに、時間通りに店の前で顔を合わせ、地下への階段を下りて行った。
「あれ、どうしたんだろう」
「ん、へんですねぇ」佳奈子も不思議そうに彰司を見た。
 普通はこの時間はバンドの演奏はないはずだが、すでにマドンナの『ライク・ア・バージン』をやっていた。
「いらっしゃいませ。いつもお世話になっています!カウンター?どうぞっ」
オーナーの和泉がバーカウンター越しに笑顔で応えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...