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月曜日
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その日の午後四時、東郷彰司は明後日に開かれる、地元経済界の主要九社の広報担当者で作る「三水会」事務局の作業に追われていた。
この会合は、偶数月の第三水曜日に決まって開かれる、広報部員の「連絡会兼懇親会」だった。
事務局は持ち回りで、明後日のその会では西都銀行が担当だった。そのための段取りの確認や、今回招待する経営評論家の先生が送ってきた講演内容のレジュメの必要部数のコピーなど、こういった会合の事務局がよくやる作業に没頭していた。
当日は、経営評論家の先生の四十分程度の講話のあと、質疑応答を終わらせると、もう午後五時半となる予定だった。
その後は、毎回のお決まりだったが、中洲に場所を替えて食事会と言う流れになる。
こういう柔らかそうな会合ではあるが、広報担当の真の仕事である地元マスコミのオモテやウラの動きについての情報交換を、ざっくばらんな中でもさりげなく行うのもこの会の主旨である。
たとえば、最近東京より転勤してきた朝田新聞の記者は、どういうバックグラウンドで、どういう性格をしているか、へんにしつこいのか、そうでないのか、また、前にエネルギー業界を担当(ガス会社や電気会社)していた読舞新聞の記者の、「経済面」の担当から「社会部」に飛ばされた理由とか・・・などなどである。
余談だが、経済面の担当記者は取材で夜中までとなることはあまりない。また、大手企業のトップ主催の記者懇談会(=懇親会)では天然アユの塩焼きや、玄界灘産の活き魚の舟盛を食べたりできる。反面、社会部は『夜討ち朝駆け』の取材と、かつ、度重なる警察での犯罪に関する取材などあまりおいしいところがない。よって『社会部に飛ばされた』と揶揄されたりしていた。
そんな折、彰司のラインの着信音が鳴った。
東郷彰司、三十二歳、本店広報部勤務
(ん、誰からだろう・・・・)
そのラインは、この本店ビルの一階で仕事をしている西村佳奈子からのものだった。
西村佳奈子、二十八歳、本店営業部 総合職 入行五年目
「お疲れ様です。あしたの夜はお時間空いています?なんだったら勉強会でもお願いしようかと思いまして・・・」
だいたい、二カ月に一度くらい西村はこんなラインを彰司に送ってきていた。
(・・・明日だったら、今やっている『雑用めいた』仕事も終わっているだろう)と、
「了解、時間はおって連絡!場所はラフレックスにて」と、
ものの八秒で返事を打ち込んだ。
ラフレックス、そこは中央区高砂一丁目にある彰司と佳奈子のお気に入りのライブパブだった。
その店のスタイルは、午後九時までは普通のカフェバー。それ以降は、その店専属のスーパーバンド『ナイト・ジャックス』がマイケルジャクソンやノーランズをはじめ、八〇年代に流行ったポップスを中心として、テクニックのみならずエンターテイメント性を表に出した実に楽しいライブをやっていた。
もちろん、八時まではハッピーアワーあり、また料金も、ミュージックチャージ 千五百円、それにメニューどおりの食事代と、いたって明快でお得な店だった。
その日、午後七時ちょうどに、時間通りに店の前で顔を合わせ、地下への階段を下りて行った。
「あれ、どうしたんだろう」
「ん、へんですねぇ」佳奈子も不思議そうに彰司を見た。
普通はこの時間はバンドの演奏はないはずだが、すでにマドンナの『ライク・ア・バージン』をやっていた。
「いらっしゃいませ。いつもお世話になっています!カウンター?どうぞっ」
オーナーの和泉がバーカウンター越しに笑顔で応えた。
この会合は、偶数月の第三水曜日に決まって開かれる、広報部員の「連絡会兼懇親会」だった。
事務局は持ち回りで、明後日のその会では西都銀行が担当だった。そのための段取りの確認や、今回招待する経営評論家の先生が送ってきた講演内容のレジュメの必要部数のコピーなど、こういった会合の事務局がよくやる作業に没頭していた。
当日は、経営評論家の先生の四十分程度の講話のあと、質疑応答を終わらせると、もう午後五時半となる予定だった。
その後は、毎回のお決まりだったが、中洲に場所を替えて食事会と言う流れになる。
こういう柔らかそうな会合ではあるが、広報担当の真の仕事である地元マスコミのオモテやウラの動きについての情報交換を、ざっくばらんな中でもさりげなく行うのもこの会の主旨である。
たとえば、最近東京より転勤してきた朝田新聞の記者は、どういうバックグラウンドで、どういう性格をしているか、へんにしつこいのか、そうでないのか、また、前にエネルギー業界を担当(ガス会社や電気会社)していた読舞新聞の記者の、「経済面」の担当から「社会部」に飛ばされた理由とか・・・などなどである。
余談だが、経済面の担当記者は取材で夜中までとなることはあまりない。また、大手企業のトップ主催の記者懇談会(=懇親会)では天然アユの塩焼きや、玄界灘産の活き魚の舟盛を食べたりできる。反面、社会部は『夜討ち朝駆け』の取材と、かつ、度重なる警察での犯罪に関する取材などあまりおいしいところがない。よって『社会部に飛ばされた』と揶揄されたりしていた。
そんな折、彰司のラインの着信音が鳴った。
東郷彰司、三十二歳、本店広報部勤務
(ん、誰からだろう・・・・)
そのラインは、この本店ビルの一階で仕事をしている西村佳奈子からのものだった。
西村佳奈子、二十八歳、本店営業部 総合職 入行五年目
「お疲れ様です。あしたの夜はお時間空いています?なんだったら勉強会でもお願いしようかと思いまして・・・」
だいたい、二カ月に一度くらい西村はこんなラインを彰司に送ってきていた。
(・・・明日だったら、今やっている『雑用めいた』仕事も終わっているだろう)と、
「了解、時間はおって連絡!場所はラフレックスにて」と、
ものの八秒で返事を打ち込んだ。
ラフレックス、そこは中央区高砂一丁目にある彰司と佳奈子のお気に入りのライブパブだった。
その店のスタイルは、午後九時までは普通のカフェバー。それ以降は、その店専属のスーパーバンド『ナイト・ジャックス』がマイケルジャクソンやノーランズをはじめ、八〇年代に流行ったポップスを中心として、テクニックのみならずエンターテイメント性を表に出した実に楽しいライブをやっていた。
もちろん、八時まではハッピーアワーあり、また料金も、ミュージックチャージ 千五百円、それにメニューどおりの食事代と、いたって明快でお得な店だった。
その日、午後七時ちょうどに、時間通りに店の前で顔を合わせ、地下への階段を下りて行った。
「あれ、どうしたんだろう」
「ん、へんですねぇ」佳奈子も不思議そうに彰司を見た。
普通はこの時間はバンドの演奏はないはずだが、すでにマドンナの『ライク・ア・バージン』をやっていた。
「いらっしゃいませ。いつもお世話になっています!カウンター?どうぞっ」
オーナーの和泉がバーカウンター越しに笑顔で応えた。
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