それでもあなたは銀行に就職しますか 第2巻~彰司と佳奈子の勉強会~「木室建設事件」

リチャード・ウイス

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木室建設 新聞一面へ

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 姉波事件の捜査の過程で、ヒューダー、創建、ホテルの建築主である「四陸交通」などに続いて、「木室建設」の名前がマスコミに取り上げられた。報道では、姉波事務所が耐震構造偽装をしたホテルやテナントビルを、木室が何件か請け負って建設していたことが伝えられた。
「どう言うこと!?」
テレビ報道を見て、工藤彩香も支店長も融資課長も驚いた。
支店長以下、当の工藤も、木室建設が熊本県内だけでなく、広く中国・関西地区の案件も請け負っているのは承知していた。どうも、そのなかの幾つかがそれに引っかかったというのだろう。


彰司は、いろいろと思い出すように視線を動かしながら言った、
「オレの広報部にも、本店審査部からこのような事件が発生していると連絡が入ったからね、あの時は。但し、支店も本店もキツネにつままれたような話だった」
「まあ」そう言って佳奈子は右ひじをつき、それに右ほほをのせて手元のグラスをしばらく見た。


その後、事態は急展開した。新聞に大きく見出しが躍った。
“木室建設  姉波とは東京支店を窓口に接触か” 
“木室が姉波事務所に圧力か?!”
そして
“国会 参考人として創建と、木室社長を召致へ”
さらに・・・
『号外』 木室社長ら逮捕! 警視庁耐震偽装捜査本部

その後、木室社長は釈放された後も行くえ不明となった。

西都銀行では、真相が今一歩つかめず、次の打つ手を明確に出せずイライラだけが募っていった。
また八代支店では、事件が事件だけに行員のみんなが思っていた
(・・・木室社長、身の安全は大丈夫だろうか)と。
         
それから数日後、動きがあった。
「北島副支店長!小山課長!工藤さん!ちょっと来てもらえるか」
支店長が三人を応接室に呼んだ。
何事かと言う顔をしてみんな集まった。
そこでは驚きの情報が支店長からあった。

「木室社長が出てきた! 明後日、報道陣を集めて、記者会見を開くぞ」
「ええっ、本当ですか!」
彩香はふとどきではあったが心の中で思った
(・・・社長、ご無事だったんだ・・・よかった)と。

それは遅滞なく本店にも伝えられた。
西都銀行が木室建設の融資取引の第三位であることは、九州経済界でも周知の事実だった。
こういう時、必ずマスコミは西都銀ほか大口債権者に往々にして押しかけてくる。
彰司たち広報部員は、新聞・TV各社が本店にも取材に押し寄せ、「大口債権者としての西都銀行の、本件に対する今後の対応は!?」の質問を想定していた。

         ◇

「銀行としては、当然、木室社長自らの声で事の真相を知りたかった。その内容により、銀行の債権回収に向けた基本姿勢も変わってくる。木室側に悪意があったのか、はたまた、銀行に虚偽の説明をして融資を引き出した形跡があるのか・・・。場合によっては、銀行は詐欺罪として起訴も念頭に置かなければいけないわけだ」
「私がさっき口にした記者会見が、現実に起きようとしていたのね」
「そう、君が言っていたものと正に同じやつさ」
「その後はどうなったの」
「その後すぐ・・・・工藤彩香から俺にラインが入った」
「エッ、工藤さんから・・・なんて言う内容でですか」

彰司は当初から、この先については言うつもりはなかったが、
(しょうがない、西村も聞いておいた方がいいだろう)と思い
「これから話すことは、店を出る時は全部忘れてくれ。君を信用しているから話す」
佳奈子はコックリとうなずいた。 その内容はこうだった。

『東郷さん、お願いがあります』
彰司は仕事疲れでかすんだ目を最初はこすりながら見ていた。
『あさっての記者会見に私は行ってこようと思います』
(・・・なにい! 報道記者会見に潜入しようというのか?)
『債権保全(=融資金の回収)のために、ウチの銀行はとにかく情報収集と、それから次の対応に迅速に入らなければいけません』続けて、
『木室社長の生の声をすべて聞きたいんです。一言一句聞きたいのです。記者が文字に起こした記事には必ずその新聞社のバイアスがかかると思うんです。マスコミは常に被害者側ですから』
(・・・よく知ってるなぁ)
『具体策をお願いします。時間や場所はもう把握しています!』

彰司は一旦ラインの画面を消した。
頭をかかえた。
(・・・あさっては、俺たち債権者向けの説明会じゃない! 熊本の記者クラブに名を連ねている新聞社やテレビ局を対象にした記者会見だ)
そして彰司の頭には『コンプライアンス』の文字が浮かんでいた。
記者会見を取り仕切るのは地場の「記者クラブ」・・・しかしあのクラブってやつは・・閉鎖的な世界だ。仲間しか入れていない。もし潜入が明るみになったら・・・。事実、西都銀本店がある地域の記者クラブは、保守系新聞であるソンケイ新聞は排除している。また地場のある地域を特定した「木島新聞」も、同業の新聞社であるにもかかわらずクラブからは排除されたりしている。そんな認識で結びついた組織が、気が付き、騒ぎ出すと面倒になる・・。
だが、この期に及んで四の五の言っていられない。次に木室社長が真相を語る場がいつ来るかもわからない。

彰司は悩んだ・・・。考えた末に、彰司は返信を打ち込んだ。
『久々に工藤さんからのラインと思ったのに、その内容には驚きました。
記者会見とは何か理解していますか。基本的に、我々、銀行債権者が行くところではありません。しかし・・・・』

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