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どうやら俺は男色らしい
8:専属護衛
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「失礼します。本日よりフラン殿下の専属護衛になりました。ネイト・ファン・ソアデンです」
扉をノックして入ってきたのは、元同僚のネイトだった。
ネイトとは夜会会場で別れたきり。
挨拶も出来ないままで気になっていたが、思ったより早い再会なっただけでなく、専属護衛となって現れたネイトが、絶望の縁に立たされた俺を救いに来た救世主にも見える。
「初めましてソアデン卿。フラン殿下付きの侍女長、カレンです。こちらの2人は侍女のドナとエイラです」
「カレン殿、ドナ殿、エイラ殿。今日からよろしくお願いします」
ネイトの挨拶にドナとエイラは頭を下げて返す。
「ソアデン卿は宰相閣下からの推薦で?」
「ネイトで構いません。自分は志願です。殿下の話しを聞いて、宰相閣下に頼みに行きました」
「そうなんですね!では、殿下のことをよくご存知で?」
「ええ、隊舎では同室だったので。互いの黒子の位置まで知る仲です」
俺はお前の黒子の位置など知らないぞ。打ち解けようと頑張ってるのだろうが…ネイトよ、それは悪手だ。
「ほっ、黒子の位置まで…?ん゛っ、失礼しました。そう、なのですね。で、では、殿下とは親密な間柄で?」
「?ええ、殿下が入団した時からずっと同室で昵懇の仲ですね。殿下が新人の頃は色々教えましたし、行動を共にする事も多かったですから。因みに殿下の初めての相手は俺です」
確かに、ネイトには世話になった。近衛の団規や隊舎生活でのルール諸々教わった。入団後の初めての模擬戦の相手はネイトだった。
間違っていない、間違っていないが言葉は選べ。
「初めてのっ!?そそそそれは、さぞ…ステキな時間をお過ごしになられたのでしょうね」
「ハハッ、ステキとは大袈裟ですよ。攻守が激しく入れ替わる本気のぶつかり合いですから。お互いの技量や、クセを知るには交えるのが一番なんです」
ネイトの巧みな言い回しが憎い…お前は一体何しに来たんだ。
このやり取りで、ネイトの仲間入りが確定。俺の男色も信憑性を増していく。
「カレン、悪いがネイト話しがしたい。オレリア嬢が到着したら教えてくれ」
時既に遅し。だが、これ以上ネイトを加速させられない。
「あらっ、私ったら不躾に…今後の参考にと思ったら気が急いてしまいました。気が効かず申し訳ございません。私達は一旦下がらせて頂きます」
参考にする必要も気を利かす必要もないが、今は何を言っても偏向されるのだろうな。
「昨晩振りだな、フラン。敬語の方がいいか?」
「いつも通りでいい。それより、専属志願したのか?」
「まぁ、ジーク副団長に頼まれたのもあるけど、お前の置き手紙を読んで、志願するつもりだった。俺ともう1人はウィルさんがほぼ確定だ」
「ウィルさんか…」
城内の移動や公務、お忍び時に付く輪番護衛とは違い、執務室の中や居住区の自室にも入れる専属護衛は、その実力も然る事ながら、護衛対象との相性も重要視される。
隊舎で同室だったネイトは言わずもがな。
静黙で温和なウィルさんはオランドの専属護衛をしていた人で、近衛の入団から半年も経たないうちに、オランドの輪番護衛に固定された俺は、だいぶ世話になった。
ネイトとの同室、ウィルさんの指導の元に勤めた輪番護衛。
近衛騎士団でも上位の実力を持つ2人と、行動を共にする事が多かったのには理由があると、薄々は気付いていたが気付かない振りをした…守られていたなどと気付かない振りをしていた。
「ジーク副団長に聞いたよ。思った以上に広がってて驚いた。しかも誤解が解けないって?大変だな」
「…ネイト、お前ももう他人事では無くなったぞ」
「?どういう事だ?」
「さっきのカレンとの会話で、俺と同類と認定されたって事だ」
「……冗談だろ、何言ってるんだ?」
「それはこっちのセリフだ。黒子だの、初めてだのと誤解を招く様な事ばかり言いやがって」
「ちょっと待て…まさか侍女殿達も?陛下方と一緒ってことか?」
「カレンに全て理解し、受け入れてると言われた。いいタイミングで来たかと思えば、救世主じゃなく、疫病神だな」
「おいおいおいおい、どうすんだよ。王太子だろ、何かいい考えはないのか?」
「立場は関係ないだろ、お前こそ、俺より2年多く生きてるんだ。何か考えろ」
隣室で控える3人は、束の間の恋人との逢瀬と思っているのだろう。誤解を解くどころか、仲間まで増えてどんどん深みに嵌って行く。
「とにかくだ、もう一度話しをして誤解をーー」
「ムダだ。話したところで全て偏向される。言葉が通じないなら行動で示すしかない。先だっては、これから会うオレリア嬢だ。デュバル公爵の様子から、オレリア嬢にも誤解されてる可能性が高い。…イアン団長は奥方とお茶を飲む時は、奥方を膝の上に乗せると言っていたが…」
「それは夫婦の話だろう。婚約者でもない令嬢にそんな事したら犯罪だ。そもそも参考にする相手を間違ってる」
団長は奥方に関しては脳みそが花畑になるからな、と辛辣な事を言っている。
「八方塞がりだな」
「お前の誤解を解かない事には、俺の身の潔白も証明出来ない。フラン、お前はムダに顔がいいんだ。その顔を活かしてオレリア嬢を惚れさせるんだ」
「その前に誤解を解きたいと言っている。ネイト、この間の休日は見合いだったよな?相手に何をした?」
「その言い方は止めろ。普通にお茶を飲んで、庭園を散歩しただけだ」
「庭園の散歩か…面会は執務室でなく、ガゼボにするか」
「執務室に呼ぶつもりだったのかよ。面会じゃなく面接だな」
隣室に控えていたカレンを呼び、場所の変更とガゼボの準備を指示する
「急な変更で悪いが急いでくれ。オレリア嬢は俺が迎えに行く。ネイト行くぞ」
俺もネイトも後がない。失敗は許されない。
扉をノックして入ってきたのは、元同僚のネイトだった。
ネイトとは夜会会場で別れたきり。
挨拶も出来ないままで気になっていたが、思ったより早い再会なっただけでなく、専属護衛となって現れたネイトが、絶望の縁に立たされた俺を救いに来た救世主にも見える。
「初めましてソアデン卿。フラン殿下付きの侍女長、カレンです。こちらの2人は侍女のドナとエイラです」
「カレン殿、ドナ殿、エイラ殿。今日からよろしくお願いします」
ネイトの挨拶にドナとエイラは頭を下げて返す。
「ソアデン卿は宰相閣下からの推薦で?」
「ネイトで構いません。自分は志願です。殿下の話しを聞いて、宰相閣下に頼みに行きました」
「そうなんですね!では、殿下のことをよくご存知で?」
「ええ、隊舎では同室だったので。互いの黒子の位置まで知る仲です」
俺はお前の黒子の位置など知らないぞ。打ち解けようと頑張ってるのだろうが…ネイトよ、それは悪手だ。
「ほっ、黒子の位置まで…?ん゛っ、失礼しました。そう、なのですね。で、では、殿下とは親密な間柄で?」
「?ええ、殿下が入団した時からずっと同室で昵懇の仲ですね。殿下が新人の頃は色々教えましたし、行動を共にする事も多かったですから。因みに殿下の初めての相手は俺です」
確かに、ネイトには世話になった。近衛の団規や隊舎生活でのルール諸々教わった。入団後の初めての模擬戦の相手はネイトだった。
間違っていない、間違っていないが言葉は選べ。
「初めてのっ!?そそそそれは、さぞ…ステキな時間をお過ごしになられたのでしょうね」
「ハハッ、ステキとは大袈裟ですよ。攻守が激しく入れ替わる本気のぶつかり合いですから。お互いの技量や、クセを知るには交えるのが一番なんです」
ネイトの巧みな言い回しが憎い…お前は一体何しに来たんだ。
このやり取りで、ネイトの仲間入りが確定。俺の男色も信憑性を増していく。
「カレン、悪いがネイト話しがしたい。オレリア嬢が到着したら教えてくれ」
時既に遅し。だが、これ以上ネイトを加速させられない。
「あらっ、私ったら不躾に…今後の参考にと思ったら気が急いてしまいました。気が効かず申し訳ございません。私達は一旦下がらせて頂きます」
参考にする必要も気を利かす必要もないが、今は何を言っても偏向されるのだろうな。
「昨晩振りだな、フラン。敬語の方がいいか?」
「いつも通りでいい。それより、専属志願したのか?」
「まぁ、ジーク副団長に頼まれたのもあるけど、お前の置き手紙を読んで、志願するつもりだった。俺ともう1人はウィルさんがほぼ確定だ」
「ウィルさんか…」
城内の移動や公務、お忍び時に付く輪番護衛とは違い、執務室の中や居住区の自室にも入れる専属護衛は、その実力も然る事ながら、護衛対象との相性も重要視される。
隊舎で同室だったネイトは言わずもがな。
静黙で温和なウィルさんはオランドの専属護衛をしていた人で、近衛の入団から半年も経たないうちに、オランドの輪番護衛に固定された俺は、だいぶ世話になった。
ネイトとの同室、ウィルさんの指導の元に勤めた輪番護衛。
近衛騎士団でも上位の実力を持つ2人と、行動を共にする事が多かったのには理由があると、薄々は気付いていたが気付かない振りをした…守られていたなどと気付かない振りをしていた。
「ジーク副団長に聞いたよ。思った以上に広がってて驚いた。しかも誤解が解けないって?大変だな」
「…ネイト、お前ももう他人事では無くなったぞ」
「?どういう事だ?」
「さっきのカレンとの会話で、俺と同類と認定されたって事だ」
「……冗談だろ、何言ってるんだ?」
「それはこっちのセリフだ。黒子だの、初めてだのと誤解を招く様な事ばかり言いやがって」
「ちょっと待て…まさか侍女殿達も?陛下方と一緒ってことか?」
「カレンに全て理解し、受け入れてると言われた。いいタイミングで来たかと思えば、救世主じゃなく、疫病神だな」
「おいおいおいおい、どうすんだよ。王太子だろ、何かいい考えはないのか?」
「立場は関係ないだろ、お前こそ、俺より2年多く生きてるんだ。何か考えろ」
隣室で控える3人は、束の間の恋人との逢瀬と思っているのだろう。誤解を解くどころか、仲間まで増えてどんどん深みに嵌って行く。
「とにかくだ、もう一度話しをして誤解をーー」
「ムダだ。話したところで全て偏向される。言葉が通じないなら行動で示すしかない。先だっては、これから会うオレリア嬢だ。デュバル公爵の様子から、オレリア嬢にも誤解されてる可能性が高い。…イアン団長は奥方とお茶を飲む時は、奥方を膝の上に乗せると言っていたが…」
「それは夫婦の話だろう。婚約者でもない令嬢にそんな事したら犯罪だ。そもそも参考にする相手を間違ってる」
団長は奥方に関しては脳みそが花畑になるからな、と辛辣な事を言っている。
「八方塞がりだな」
「お前の誤解を解かない事には、俺の身の潔白も証明出来ない。フラン、お前はムダに顔がいいんだ。その顔を活かしてオレリア嬢を惚れさせるんだ」
「その前に誤解を解きたいと言っている。ネイト、この間の休日は見合いだったよな?相手に何をした?」
「その言い方は止めろ。普通にお茶を飲んで、庭園を散歩しただけだ」
「庭園の散歩か…面会は執務室でなく、ガゼボにするか」
「執務室に呼ぶつもりだったのかよ。面会じゃなく面接だな」
隣室に控えていたカレンを呼び、場所の変更とガゼボの準備を指示する
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