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覚悟
21:思い出 アレン
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「レリ…」
父譲りのアイスブルーの瞳は大聖堂で倒れから閉じられたまま。母譲りの癖のない銀の髪を梳きながら、己と全く同じ色合いの妹の名を呼ぶ。
「レリ」は母ノエリアが呼んでいた愛称。父と俺は「オーリア」と呼んでいたが、母が亡くなってからは「レリ」と呼び方を変えた。
いつも笑顔だった美しく優しい母を、流行り病に奪われたのは10年前。
母の死を受け入れられなかった父は領地で仕事に没頭し屋敷には殆ど帰らず、母を思い起こさせるばかりの屋敷で過ごす事が辛かった俺も、時間の許す限り学園で友人と過ごし屋敷で過ごす時間を減らした。
そんな父と俺の事を伯父は叱り、忙しい合間を縫ってオレリアの元へ足を運び、オレリアと年の近いエルデを公爵家に連れて来たのもこの頃だった。
あの広い屋敷で独り、オレリアはどんな思いで待っていたのか…自分の事で精一杯だった俺は知ろうともしなかった。
身勝手な理由でオレリアを放ったバチが当たったのか、風邪を拗らせ学園を休んでいた俺は、期限が迫っていた課題を代わり提出してもらう為、友人の一人だったネイトに屋敷に来てもらった。
俺の友人が珍しかったのか、オレリアはネイトのそばを離れず、病気で寝ている俺の横で、ネイトに本の読み聞かせを強請り、何冊も読ませていた。
ネイトのお世辞にも上手いとは言えない読み聞かせを聞きながら夢現を行き来していると、ネイトが不意に、オレリアに寂しくないかと聞いた。
『おかあさまとの、はじめの思い出は4才よ。絵本をよんでいただいたわ。今は7才だから4、5、6、7…4年分の思い出があります。けど、おとうさまと、おにいさまは、レリより、もっとたくさんの時間の分の思い出をおもちだから、レリよりたくさん悲しいのです。レリはドレスも、おもちゃもいらないの。けど、おねがいすると、わらって…だっこもしてくださるから、とても…うれ……しいの…です…だから…レリ…』
『ハハッ…子供ってすごいな。話しながら寝ちまったよ』
『…ネイト、わざとレリに聞いたな?』
『立ち聞きか?趣味悪いな』
『立ってない。寝ている』
『揚げ足を取るなよ。まあ、それだけ元気なら大丈夫だろ。いいか、アレン。俺はお前のお守りじゃなく、令嬢達とデートをして楽しく過ごしたいんだ。それに、お前だって俺より可愛いい妹と過ごす方が楽しいだろ?』
ネイトは膝の上で寝ているオレリアの頭を撫でながら、優しく笑っていた。
己の事しか頭にない愚兄に、淋しいと言えない不憫な妹の気持ちを聞かせてくれた。
『アレン、母が貴方を愛した様に、母の分もレリをたくさん愛して上げて』
母の最期の言葉と、オレリアの話を聞いた父は『エリーに叱られるな』と笑いながら…泣いていた。
俺に大きな貸しを作ったネイトは、高等学園で騎士科を選択、剣術大会三連覇の偉業を成し遂げ、卒業後は騎王宮士団に入団し、次の年には近衛騎士団の入団試験に合格し近衛騎士団へ移動。
夜会で見かけても言葉を交わす事はなく、お互い目で挨拶するに留まっていた。
オレリアから、ネイトが殿下の専属護衛になったと聞いて驚いたが、ネイトの経歴と実力なら当然なのだろう。
「…ックハッ…」
「どうしたアレン?!変なモノでも食べたのか?」
「いえ…少し思い出し笑いを…ククッ」
「…気持ち悪いな。オーリアに付き添っていたのだろう?何かあったのか?」
「殿下と話しをしだだけです。殿下の護衛をしていたネイトとも久し振りに話せました」
「オーリアの時に世話になった彼か…今は殿下の専属だったな」
「ええ、相変わらずいい男でした…また借りをを作ってしまいましたが」
殿下は、及第点てところだな…
「そうか…三角関係…いや、四角か?」
父譲りのアイスブルーの瞳は大聖堂で倒れから閉じられたまま。母譲りの癖のない銀の髪を梳きながら、己と全く同じ色合いの妹の名を呼ぶ。
「レリ」は母ノエリアが呼んでいた愛称。父と俺は「オーリア」と呼んでいたが、母が亡くなってからは「レリ」と呼び方を変えた。
いつも笑顔だった美しく優しい母を、流行り病に奪われたのは10年前。
母の死を受け入れられなかった父は領地で仕事に没頭し屋敷には殆ど帰らず、母を思い起こさせるばかりの屋敷で過ごす事が辛かった俺も、時間の許す限り学園で友人と過ごし屋敷で過ごす時間を減らした。
そんな父と俺の事を伯父は叱り、忙しい合間を縫ってオレリアの元へ足を運び、オレリアと年の近いエルデを公爵家に連れて来たのもこの頃だった。
あの広い屋敷で独り、オレリアはどんな思いで待っていたのか…自分の事で精一杯だった俺は知ろうともしなかった。
身勝手な理由でオレリアを放ったバチが当たったのか、風邪を拗らせ学園を休んでいた俺は、期限が迫っていた課題を代わり提出してもらう為、友人の一人だったネイトに屋敷に来てもらった。
俺の友人が珍しかったのか、オレリアはネイトのそばを離れず、病気で寝ている俺の横で、ネイトに本の読み聞かせを強請り、何冊も読ませていた。
ネイトのお世辞にも上手いとは言えない読み聞かせを聞きながら夢現を行き来していると、ネイトが不意に、オレリアに寂しくないかと聞いた。
『おかあさまとの、はじめの思い出は4才よ。絵本をよんでいただいたわ。今は7才だから4、5、6、7…4年分の思い出があります。けど、おとうさまと、おにいさまは、レリより、もっとたくさんの時間の分の思い出をおもちだから、レリよりたくさん悲しいのです。レリはドレスも、おもちゃもいらないの。けど、おねがいすると、わらって…だっこもしてくださるから、とても…うれ……しいの…です…だから…レリ…』
『ハハッ…子供ってすごいな。話しながら寝ちまったよ』
『…ネイト、わざとレリに聞いたな?』
『立ち聞きか?趣味悪いな』
『立ってない。寝ている』
『揚げ足を取るなよ。まあ、それだけ元気なら大丈夫だろ。いいか、アレン。俺はお前のお守りじゃなく、令嬢達とデートをして楽しく過ごしたいんだ。それに、お前だって俺より可愛いい妹と過ごす方が楽しいだろ?』
ネイトは膝の上で寝ているオレリアの頭を撫でながら、優しく笑っていた。
己の事しか頭にない愚兄に、淋しいと言えない不憫な妹の気持ちを聞かせてくれた。
『アレン、母が貴方を愛した様に、母の分もレリをたくさん愛して上げて』
母の最期の言葉と、オレリアの話を聞いた父は『エリーに叱られるな』と笑いながら…泣いていた。
俺に大きな貸しを作ったネイトは、高等学園で騎士科を選択、剣術大会三連覇の偉業を成し遂げ、卒業後は騎王宮士団に入団し、次の年には近衛騎士団の入団試験に合格し近衛騎士団へ移動。
夜会で見かけても言葉を交わす事はなく、お互い目で挨拶するに留まっていた。
オレリアから、ネイトが殿下の専属護衛になったと聞いて驚いたが、ネイトの経歴と実力なら当然なのだろう。
「…ックハッ…」
「どうしたアレン?!変なモノでも食べたのか?」
「いえ…少し思い出し笑いを…ククッ」
「…気持ち悪いな。オーリアに付き添っていたのだろう?何かあったのか?」
「殿下と話しをしだだけです。殿下の護衛をしていたネイトとも久し振りに話せました」
「オーリアの時に世話になった彼か…今は殿下の専属だったな」
「ええ、相変わらずいい男でした…また借りをを作ってしまいましたが」
殿下は、及第点てところだな…
「そうか…三角関係…いや、四角か?」
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