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其々の思い
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「ナシェルの一貫しない言動は、オレリア嬢への怖れだったのか…統べる事の意味を履き違えおって、己の誇りを護りたいが故に執着し、己の身を護りたいが故に拒絶するなど…そもそも王の器ではなかったという事だ。とは言え、ナシェルが女神ユノンの声を聞いていたか…ユリウスとオーソンの推測が当たっておったな」
「女神ユノンの声を聞いてたとなると、ナシェル殿の辺境への移送は控えた方がいいでしょう」
「私もオーソンと同意見だ。ナシェルは王族でなくなったにしろ、女神ユノンに選られた者。ナシェルはこのまま幽閉しておく方がいいだろう。問題はオレリア嬢だ。絵本の中に登場していた女神とは言え、聖皇国も認識していなかった女神の加護を持つ存在を他国が知れば、放っておかないだろう」
父上の言う通り、今のオレリアは、ダリア王国王太子の婚約者だが、まだ婚約者でしかない、ダリア貴族の一令嬢。
新たに発現した女神の加護を持つオレリアは、加護の詳細は知れずとも、国に在るだけで国力となる。
この事を他国が知れば、ダリアの益となる条件を提示して、オレリアを自国の王族の伴侶にと求めてくるのは、火を見るより明らか。
他国だけではない、聖皇国とて同じ。
「『汝の伴侶となる者は、世界を厄災から救う、ジュノーの加護を持つ者なり。汝の役目は伴侶を護ること』ですか…大司教は何と?」
「ダリア王国の信仰神に女神ジュノーを立神する事を、聖皇国に申請するそうだ」
「他国や王国民への女神ジュノー発現の報せは?」
「聖皇国へ申請が通った後に、大聖堂から発表する事になる」
「であれば、娘の事は聖皇国への申請が通るまでは、伏せておいていいのでは?加護を持つと言っても、加護の力が発現していない上に、どの様な力かも分からない。中途半端に新たに発現した女神の加護を持つと他国に報せれば、娘だけでなく、女神ユノンの声を聞いたナシェル殿も狙われる事になります。ローザ帝国辺りは直ぐにでも動くでしょう。」
現状では、デュバル公爵の案が最適解…
聖皇国に女神ジュノーの立神を申請しても、精査にはそれなりの時間を要するから直ぐには通らない。立神出来るのは早くても来月の夜会後。
立神前にダリア王太子の婚約者と他国に認知させておくだけでも多少の抑止力になる筈。
「では、オレリア嬢の事は、女神ジュノーの立神後に他国へ報せると大司教にも伝えよう」
「フランも問題ないな?」
「………」
「どうした?フラン」
「陛下、大聖堂へは私が報告に参ります」
「そうだな…ナシェルと面会したフランが報告する方がいいだろう…オーソン、オレリア嬢もフランと共に向かわせても構わないか?」
「問題ありません」
「陛下、私は1人でーー」
「大司教も、オレリア嬢の事を心配しておる。2人で行って、安心させてやるがいい」
大聖堂で倒れたオレリアの姿が過ぎったが、大司教が心配していると言われては仕方ない
「分かりました。明日、大聖堂へ参ります」
ーーー
伯父上に報告した翌日。大聖堂に赴いた俺達を出迎えたのは大司教だった。
「お待ちしておりました、フラン殿下。オレリア嬢も、お元気そうで安心しましたぞ」
真っ白な髪に、顔に深く刻み込まれた皺。白の装束を纏った姿は大司教の威厳に溢れ、神の畏れをも感じるさせるが、オレリアの姿を見て安堵を浮かべた表情は好々爺。1人で来るつもりだったが、オレリアを連れて来てよかったと胸を撫で下した。
「大司教。本日はお時間を頂きありがとうございます」
「大司教様に於かれましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます」
「お2人共、堅苦しい挨拶はこの辺で。先ずは女神ユノンの元に詣りまますかな?」
大司教に倣い、女神に祈りを捧げる。
あの日、ここで聞いた声は女神ジュノーの声だったのだろうか…
女神像に祈りを捧げたオレリアが、大司教に向き直り頭を下げた。
「大司教様。その節は大変ご迷惑をお掛け致しました」
「オレリア嬢、何も迷惑な事はありません。私はダリア王国の大司教となって長い年月を過ごしてきましたが、新たな女神の発現はこれまでの人生の中で一番の慶びとなりました。あの日降った銀粉も…あの様な体験は初めてで、興奮しましたぞ」
馬車の中から見た、街の光景を思い出す。
大人も子供も興奮していたが、大司教もあの中の1人だったのか…?
「大司教。聖皇国に女神ジュノーの立神を申請されると、陛下から伺いました」
「…一つの国で立てられる女神は1人。じゃが、女神ユノンと双子の女神である事、その女神がダリアを祝福した事を報告すれば、多少の時間は掛かるでしょうが、申請は通ると思っております」
「…オレリアの事は伏せると?」
「オレリア嬢はおそらく、女神ジュノーの加護を授かって産まれてきた…オレリア嬢が女神ジュノーから加護を授かっていると話せば、聖皇国は間違いなく、オレリア嬢に対して何らかの動きを見せるでしょう。じゃが、女神ジュノーが祝福したのはダリア王国なのです。私の仕事は女神の意思を尊重し護る事。陛下も殿下も、守るという点では同じなのでは?」
「大司教にはお見通しでしたか…」
「ハハッ、私とて伊達に存えてはおりませんぞ。陛下の事は、赤児の頃から知っております。立太子の儀も立会いましたからな」
あの伯父上を子供扱い…使者を遣わず俺が直接赴いた目的も、とうに分かっていたらしい。
「……ナシェルが女神ユノンの声を聞いていました」
「ほう…ナシェル殿が?」
「『汝の伴侶となる者は、世界を厄災から救うジュノーの加護を持つ者なり。汝の役目は伴侶を護ること』…本日は、聖皇国にオレリアの事を伏せて欲しいと、大司教にお願いに参ったのです」
「殿下。先程も言いましたが、女神ジュノーの意思を護る事が私の仕事。神に仕える身なので嘘はつきませんが、物忘れの多い年頃なのでな…女神ジュノーの立神も、来月の夜会後になるでしょう…これも女神達のお導きですな」
「大司教…ありがとうございます」
「礼には及びませんぞ。来月の夜会で、目一杯オレリア様との仲を見せつけてやって下され」
「女神ユノンの声を聞いてたとなると、ナシェル殿の辺境への移送は控えた方がいいでしょう」
「私もオーソンと同意見だ。ナシェルは王族でなくなったにしろ、女神ユノンに選られた者。ナシェルはこのまま幽閉しておく方がいいだろう。問題はオレリア嬢だ。絵本の中に登場していた女神とは言え、聖皇国も認識していなかった女神の加護を持つ存在を他国が知れば、放っておかないだろう」
父上の言う通り、今のオレリアは、ダリア王国王太子の婚約者だが、まだ婚約者でしかない、ダリア貴族の一令嬢。
新たに発現した女神の加護を持つオレリアは、加護の詳細は知れずとも、国に在るだけで国力となる。
この事を他国が知れば、ダリアの益となる条件を提示して、オレリアを自国の王族の伴侶にと求めてくるのは、火を見るより明らか。
他国だけではない、聖皇国とて同じ。
「『汝の伴侶となる者は、世界を厄災から救う、ジュノーの加護を持つ者なり。汝の役目は伴侶を護ること』ですか…大司教は何と?」
「ダリア王国の信仰神に女神ジュノーを立神する事を、聖皇国に申請するそうだ」
「他国や王国民への女神ジュノー発現の報せは?」
「聖皇国へ申請が通った後に、大聖堂から発表する事になる」
「であれば、娘の事は聖皇国への申請が通るまでは、伏せておいていいのでは?加護を持つと言っても、加護の力が発現していない上に、どの様な力かも分からない。中途半端に新たに発現した女神の加護を持つと他国に報せれば、娘だけでなく、女神ユノンの声を聞いたナシェル殿も狙われる事になります。ローザ帝国辺りは直ぐにでも動くでしょう。」
現状では、デュバル公爵の案が最適解…
聖皇国に女神ジュノーの立神を申請しても、精査にはそれなりの時間を要するから直ぐには通らない。立神出来るのは早くても来月の夜会後。
立神前にダリア王太子の婚約者と他国に認知させておくだけでも多少の抑止力になる筈。
「では、オレリア嬢の事は、女神ジュノーの立神後に他国へ報せると大司教にも伝えよう」
「フランも問題ないな?」
「………」
「どうした?フラン」
「陛下、大聖堂へは私が報告に参ります」
「そうだな…ナシェルと面会したフランが報告する方がいいだろう…オーソン、オレリア嬢もフランと共に向かわせても構わないか?」
「問題ありません」
「陛下、私は1人でーー」
「大司教も、オレリア嬢の事を心配しておる。2人で行って、安心させてやるがいい」
大聖堂で倒れたオレリアの姿が過ぎったが、大司教が心配していると言われては仕方ない
「分かりました。明日、大聖堂へ参ります」
ーーー
伯父上に報告した翌日。大聖堂に赴いた俺達を出迎えたのは大司教だった。
「お待ちしておりました、フラン殿下。オレリア嬢も、お元気そうで安心しましたぞ」
真っ白な髪に、顔に深く刻み込まれた皺。白の装束を纏った姿は大司教の威厳に溢れ、神の畏れをも感じるさせるが、オレリアの姿を見て安堵を浮かべた表情は好々爺。1人で来るつもりだったが、オレリアを連れて来てよかったと胸を撫で下した。
「大司教。本日はお時間を頂きありがとうございます」
「大司教様に於かれましては、ご清祥のこととお慶び申し上げます」
「お2人共、堅苦しい挨拶はこの辺で。先ずは女神ユノンの元に詣りまますかな?」
大司教に倣い、女神に祈りを捧げる。
あの日、ここで聞いた声は女神ジュノーの声だったのだろうか…
女神像に祈りを捧げたオレリアが、大司教に向き直り頭を下げた。
「大司教様。その節は大変ご迷惑をお掛け致しました」
「オレリア嬢、何も迷惑な事はありません。私はダリア王国の大司教となって長い年月を過ごしてきましたが、新たな女神の発現はこれまでの人生の中で一番の慶びとなりました。あの日降った銀粉も…あの様な体験は初めてで、興奮しましたぞ」
馬車の中から見た、街の光景を思い出す。
大人も子供も興奮していたが、大司教もあの中の1人だったのか…?
「大司教。聖皇国に女神ジュノーの立神を申請されると、陛下から伺いました」
「…一つの国で立てられる女神は1人。じゃが、女神ユノンと双子の女神である事、その女神がダリアを祝福した事を報告すれば、多少の時間は掛かるでしょうが、申請は通ると思っております」
「…オレリアの事は伏せると?」
「オレリア嬢はおそらく、女神ジュノーの加護を授かって産まれてきた…オレリア嬢が女神ジュノーから加護を授かっていると話せば、聖皇国は間違いなく、オレリア嬢に対して何らかの動きを見せるでしょう。じゃが、女神ジュノーが祝福したのはダリア王国なのです。私の仕事は女神の意思を尊重し護る事。陛下も殿下も、守るという点では同じなのでは?」
「大司教にはお見通しでしたか…」
「ハハッ、私とて伊達に存えてはおりませんぞ。陛下の事は、赤児の頃から知っております。立太子の儀も立会いましたからな」
あの伯父上を子供扱い…使者を遣わず俺が直接赴いた目的も、とうに分かっていたらしい。
「……ナシェルが女神ユノンの声を聞いていました」
「ほう…ナシェル殿が?」
「『汝の伴侶となる者は、世界を厄災から救うジュノーの加護を持つ者なり。汝の役目は伴侶を護ること』…本日は、聖皇国にオレリアの事を伏せて欲しいと、大司教にお願いに参ったのです」
「殿下。先程も言いましたが、女神ジュノーの意思を護る事が私の仕事。神に仕える身なので嘘はつきませんが、物忘れの多い年頃なのでな…女神ジュノーの立神も、来月の夜会後になるでしょう…これも女神達のお導きですな」
「大司教…ありがとうございます」
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