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儀式と夜会
54:儀式の前日
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「メリ」
「………は?」
「メリの機嫌がすこぶる悪いのだが…どうしたものだと思う?」
誰に聞かずとも分かるだろう…そんな事は3人で存分に話し合ってくれ、この後に夜会で着る正装の最終の合わせが残っているんだ。
儀式を明日に控え、両団長と警備の最終確認をし、その後は伯母上の元に向かい、夜会に参加する客人達が滞在する部屋を共に確認して見て回り、ついでに伯母上と夜会会場へも足を延ばして、夜会の進行、提供する食事や酒類の確認まで終えて、やっと自室でひと息と思ったところで陛下に呼び出され、カインとネイトを連れて急いで来たのだが…またこの3人。
踵を返したいのを堪えてソファに座った俺に、伯父上が開口一番に放ったのが、まさかのメリ。
「どうしたものとは…お答えした方がいいですか?」
「その為に呼んだんだが?明後日の夜会で余とメリの仲が悪いなどと思われるわけにはいかないだろう」
「…忖度のない率直な意見を申し上げてよろしいならお答えします」
「構わん」
「ではーー」
「兄上、その呼び方は、やめた方がいいと言っただろう。メリなんて可愛げもない」
「これまで通り、お名前でお呼びしても良いのでは?」
伯母上の愛称は呼ばれてる本人だけでなく、周りも思うところがあるらしい。
毎朝、伯母上の機嫌が降下していくのを気にしながら食事をするのは憂鬱だったが、明日からは心置きなく朝の食卓に着ける…かもしれない。
「お前達は愛称で呼んでおるのだろう?」
「ディアンヌは名前も長いからな」
「自分だけの呼び名というのは、より親密感を持てますから」
「オランドに、アリッサを何と呼んでおるのか手紙で問うたのだが、アーシャと呼んでおるそうだ」
「可愛らしい愛称ですね」
「メリッサとアリッサ。確かに似ているがメーシャは無理があるな…」
「何か良い愛称はないのか?」
「……もうメリメリでいいんじゃないか?」
一瞬でも期待した自分が許せない…
父上もこちらに付くのならもっと真剣に考えて欲しい。
父が面倒くさげに放った愛称に、ラヴェル騎士団長の顔が赤く染まっていく。
ネイトに合図を送ると、心底嫌そうな顔をして小さく首肯した。
「フーガ………それで試してみるとしよう」
「「「!?」」」
メリメリの愛称で伯母上が喜ぶはずがないだろうっ!
夜会の心配をしているが、このままでは夫婦の危機だと何故気付かない。
父とデュバル公爵は引いているが、俺はまだ諦めない。
カイン、言ってやれ。伯父上が伯母上をメリと呼んでいると、メリでいいのだと言ってやってくれ!
「………」
「…陛下、キリング侯爵も夫人をメリと呼んでいるそうです。そうだろう?カイン」
「いえ、父はアメリと呼んでおりますが?」
「は?この間、伯母上をメリと呼んでいると話していただろ」
「フラン様から他の愛称を勧められた事を父に話したところ、アメリと呼ぶ様になったのです」
「………」
空気を読まないカインも腹立たしいが、伯父上もあっさりし過ぎではないのか、愛称などと軽く考えている様だが、もっと信念を持って呼んで貰いたい。
使えない息子と言った風な視線を一瞬寄越した父がカインに顔を向ける。
「カインはエレノアの事を何と呼んでいるんだ?」
「エレノアと呼んでおります」
「なんだ、婚約してから4年も経つのにそのまんまじゃないか。いい機会だ、俺が考えてやろう」
「いや…叔父上、私の事はー」
「そういえば…ネイトもエルデをエルデと呼んでいるね?」
「………はい、閣下」
「お前達は愛称で呼んでおらんのか?愛称はいいぞ、お互いの距離がぐんと縮まる」
「……兄上と姉上の距離は広がってるだろ…メリッサにしておけ」
伯父上は距離だけでなく、溝も深まっている様だがな…。
「仕方ない…若い2人が名前で呼んでおるのなら、余もそうしよう。明日の客人の出迎えはメリッサと共に頼んだぞフーガ」
「御意」
「サルビア王以外は、次代の王族や皇族が参加する。フランもこの機会に人脈を広げておくといい」
「オランドが来ると聞いておりましたが?」
「サルビアも魔物の出現が増えてきているそうだ。オランドはその対処に忙しいらしい」
「サルビアも海側の領地ですか?」
「そこまでは手紙には書かれていなかったな…サルビア王に聞いておこう。カトレヤ帝国からはオリアーナが来る。フランも久しぶりだろ」
オリアーナ妃殿下はダリア王国元第一王女。兄と同齢の23歳でカトレヤ帝国皇太子の元に輿入れしている。
その当時、王太子と王太子妃だった両陛下は、数年を要して誕生した子が王女だった為、周りに圧力を掛けられて側妃を迎え、第一王女の誕生から2年後に側妃との間にオランドが誕生したが、側妃は産後の肥立ちが悪く、間もなく鬼籍に入った。
それ以後は側妃を迎えず、オランドが誕生した2年後に、伯母上がナシェルと、5年後にはシシーも誕生し王家の血が絶える心配はなくなったが…考えても仕方がない。
「オリアーナ妃殿下とは6年振りですね、オランドは残念ですが…姉に会えるとなればシシーも喜ぶでしょう。それでは、伯母上の事も解決した様なので、私はここでー」
「模擬戦…」
「……何でしょうか、父上…」
「コーエンに聞いたぞ、生徒達の前に醜態を晒したそうじゃないか」
「私もアレンから聞きましたよ。ネイトも…模擬剣を破壊して試合が続行不能になったとか」
「コーエンに煽られて頭に血が昇ったか?」
「『俺と剣を合わせる方が興が乗る』ですか………それで?興が乗る事は出来たのですか?」
「「………」」
「2人共その辺にしてやれ、その後の戦には捨て身で挑んでるんだ。お前達なんぞ避けて通ってるだろう」
「あれはアウローも避ける戦いだろ」
「女性の戦いに男は口を挟むなと、デュバルの家訓にもありますからね」
やはりいつもの3人だった…
ーーー
「ローザ帝国の話は出ませんでしたね」
「参加するのは、第四皇子と第六皇女だったか…」
ローザ帝国は属国にした国の王族から側妃を娶り後宮に置いているが、側妃とは名ばかりの体のいい人質で、その側妃から産まれた子供達が自国に覇権を求めて皇位争いを繰り広げているという負の連鎖を繰り返している。
ローザ帝国と国境が隣接するダリアとカトレヤは大国である為侵略される事はまずないが、内紛の飛び火に手を焼いており、友好条約も形骸化している。
「皇子と皇女は皇位継承に関わっていないと聞いている。油断は出来ないが表立って警戒する必要もないだろ」
王城の渡り廊下で足を止め、窓の向こうに見える一際白い大聖堂に目を向ける。
隣に立ったカインも大聖堂に向けた目を眇めた。
「そうですね…今回の最重要人物は教皇ですからね」
「………は?」
「メリの機嫌がすこぶる悪いのだが…どうしたものだと思う?」
誰に聞かずとも分かるだろう…そんな事は3人で存分に話し合ってくれ、この後に夜会で着る正装の最終の合わせが残っているんだ。
儀式を明日に控え、両団長と警備の最終確認をし、その後は伯母上の元に向かい、夜会に参加する客人達が滞在する部屋を共に確認して見て回り、ついでに伯母上と夜会会場へも足を延ばして、夜会の進行、提供する食事や酒類の確認まで終えて、やっと自室でひと息と思ったところで陛下に呼び出され、カインとネイトを連れて急いで来たのだが…またこの3人。
踵を返したいのを堪えてソファに座った俺に、伯父上が開口一番に放ったのが、まさかのメリ。
「どうしたものとは…お答えした方がいいですか?」
「その為に呼んだんだが?明後日の夜会で余とメリの仲が悪いなどと思われるわけにはいかないだろう」
「…忖度のない率直な意見を申し上げてよろしいならお答えします」
「構わん」
「ではーー」
「兄上、その呼び方は、やめた方がいいと言っただろう。メリなんて可愛げもない」
「これまで通り、お名前でお呼びしても良いのでは?」
伯母上の愛称は呼ばれてる本人だけでなく、周りも思うところがあるらしい。
毎朝、伯母上の機嫌が降下していくのを気にしながら食事をするのは憂鬱だったが、明日からは心置きなく朝の食卓に着ける…かもしれない。
「お前達は愛称で呼んでおるのだろう?」
「ディアンヌは名前も長いからな」
「自分だけの呼び名というのは、より親密感を持てますから」
「オランドに、アリッサを何と呼んでおるのか手紙で問うたのだが、アーシャと呼んでおるそうだ」
「可愛らしい愛称ですね」
「メリッサとアリッサ。確かに似ているがメーシャは無理があるな…」
「何か良い愛称はないのか?」
「……もうメリメリでいいんじゃないか?」
一瞬でも期待した自分が許せない…
父上もこちらに付くのならもっと真剣に考えて欲しい。
父が面倒くさげに放った愛称に、ラヴェル騎士団長の顔が赤く染まっていく。
ネイトに合図を送ると、心底嫌そうな顔をして小さく首肯した。
「フーガ………それで試してみるとしよう」
「「「!?」」」
メリメリの愛称で伯母上が喜ぶはずがないだろうっ!
夜会の心配をしているが、このままでは夫婦の危機だと何故気付かない。
父とデュバル公爵は引いているが、俺はまだ諦めない。
カイン、言ってやれ。伯父上が伯母上をメリと呼んでいると、メリでいいのだと言ってやってくれ!
「………」
「…陛下、キリング侯爵も夫人をメリと呼んでいるそうです。そうだろう?カイン」
「いえ、父はアメリと呼んでおりますが?」
「は?この間、伯母上をメリと呼んでいると話していただろ」
「フラン様から他の愛称を勧められた事を父に話したところ、アメリと呼ぶ様になったのです」
「………」
空気を読まないカインも腹立たしいが、伯父上もあっさりし過ぎではないのか、愛称などと軽く考えている様だが、もっと信念を持って呼んで貰いたい。
使えない息子と言った風な視線を一瞬寄越した父がカインに顔を向ける。
「カインはエレノアの事を何と呼んでいるんだ?」
「エレノアと呼んでおります」
「なんだ、婚約してから4年も経つのにそのまんまじゃないか。いい機会だ、俺が考えてやろう」
「いや…叔父上、私の事はー」
「そういえば…ネイトもエルデをエルデと呼んでいるね?」
「………はい、閣下」
「お前達は愛称で呼んでおらんのか?愛称はいいぞ、お互いの距離がぐんと縮まる」
「……兄上と姉上の距離は広がってるだろ…メリッサにしておけ」
伯父上は距離だけでなく、溝も深まっている様だがな…。
「仕方ない…若い2人が名前で呼んでおるのなら、余もそうしよう。明日の客人の出迎えはメリッサと共に頼んだぞフーガ」
「御意」
「サルビア王以外は、次代の王族や皇族が参加する。フランもこの機会に人脈を広げておくといい」
「オランドが来ると聞いておりましたが?」
「サルビアも魔物の出現が増えてきているそうだ。オランドはその対処に忙しいらしい」
「サルビアも海側の領地ですか?」
「そこまでは手紙には書かれていなかったな…サルビア王に聞いておこう。カトレヤ帝国からはオリアーナが来る。フランも久しぶりだろ」
オリアーナ妃殿下はダリア王国元第一王女。兄と同齢の23歳でカトレヤ帝国皇太子の元に輿入れしている。
その当時、王太子と王太子妃だった両陛下は、数年を要して誕生した子が王女だった為、周りに圧力を掛けられて側妃を迎え、第一王女の誕生から2年後に側妃との間にオランドが誕生したが、側妃は産後の肥立ちが悪く、間もなく鬼籍に入った。
それ以後は側妃を迎えず、オランドが誕生した2年後に、伯母上がナシェルと、5年後にはシシーも誕生し王家の血が絶える心配はなくなったが…考えても仕方がない。
「オリアーナ妃殿下とは6年振りですね、オランドは残念ですが…姉に会えるとなればシシーも喜ぶでしょう。それでは、伯母上の事も解決した様なので、私はここでー」
「模擬戦…」
「……何でしょうか、父上…」
「コーエンに聞いたぞ、生徒達の前に醜態を晒したそうじゃないか」
「私もアレンから聞きましたよ。ネイトも…模擬剣を破壊して試合が続行不能になったとか」
「コーエンに煽られて頭に血が昇ったか?」
「『俺と剣を合わせる方が興が乗る』ですか………それで?興が乗る事は出来たのですか?」
「「………」」
「2人共その辺にしてやれ、その後の戦には捨て身で挑んでるんだ。お前達なんぞ避けて通ってるだろう」
「あれはアウローも避ける戦いだろ」
「女性の戦いに男は口を挟むなと、デュバルの家訓にもありますからね」
やはりいつもの3人だった…
ーーー
「ローザ帝国の話は出ませんでしたね」
「参加するのは、第四皇子と第六皇女だったか…」
ローザ帝国は属国にした国の王族から側妃を娶り後宮に置いているが、側妃とは名ばかりの体のいい人質で、その側妃から産まれた子供達が自国に覇権を求めて皇位争いを繰り広げているという負の連鎖を繰り返している。
ローザ帝国と国境が隣接するダリアとカトレヤは大国である為侵略される事はまずないが、内紛の飛び火に手を焼いており、友好条約も形骸化している。
「皇子と皇女は皇位継承に関わっていないと聞いている。油断は出来ないが表立って警戒する必要もないだろ」
王城の渡り廊下で足を止め、窓の向こうに見える一際白い大聖堂に目を向ける。
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