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儀式と夜会
69:契約者と加護者
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マナを対価に選ばれる契約者は、マナの特性や習得した技等、契約者の力量に添える神力を与えられる。一方の加護者は神の気まぐれとも呼ばれ、神の特性そのものの神力を対価なしに与えられる。
どちらもマナの保有量と親和性が高くなければ成されない稀な存在であり、現存している神に選られし者はセリアズ殿とオレリアのみ。
教皇の発表に友好国はどの様な反応を見せるのか…
「リンデ12世教皇並びに、両陛下、フラン王太子殿下、デュバル公爵令嬢オレリア様のご入場です」
音楽が止み、場に居る全員が片膝を着き首を垂れて教皇を迎える。
王皇族であっても、教皇の御尊顔を許可なく拝む事はならない。
衣擦れの音と、護衛の腰に下げられた剣の音が荘厳な空気を静かに震わすだけの、息を吸うのも躊われる耳鳴りがしそうな程の静寂の中、教皇がゆっくりと会場を見回し口を開いた。
「楽にして良い。今宵の夜会に朕が出席したのは、女神ジュノーがダリアに発現し、オレリアに加護を齎した事を発表する為じゃ」
「…ダリアに加護者が…」
「…フラン殿の婚約者が?」
「加護の力とはどんなものだ?」
女神ジュノーの発現と立神の儀については聖皇国から各国の大聖堂を通じて報せてあるが、オレリアの事は伏せていた為、今宵の夜会で加護者の発表があるなど露にも思っていなかった賓客達の反応は、当然の事ながら戸惑いの声が多い。
「私共の婚約の儀にて女神ジュノーが発現し、我が婚約者に加護を齎したと告げられましたが、加護の発現には難を要しました…この度の女神ジュノーの立神の儀で教皇にお力添えを頂き、無事に加護の紋が刻まれた為、この夜会で発表する運びとなりました」
言葉を間違えれば他国に疑念を持たせる事になる。
オレリアの加護に反応して女神ジュノーが発現した事、ナシェルも女神の声を聞いている事は伏せ、且つ発表が遅れたのはオレリアの加護の発現が不完全だった為と、真実に嘘を混ぜて経緯を説明したが、次代を受け継ぐ王族達がを納得させるには不十分だろう。
「発表に至った経緯については理解を示しますが、ダリアは今後、加護の力を如何様にされるつもりですか?」
「神の力を持つとなると、国力の均衡が崩れる事になるのでは?」
契約者であれば、契約した者の特性を説明すれば済む。セリアズ殿であれば武力、特に弓術は山一つ超えた標的も討つ事が可能と聞いている。
だが、加護者は神の力を齎される為、女神ジュノーの加護の特性が分からない今、オレリアの存在が国家間に影響を与える存在となるのか否か答える事は出来ない。
「女神ジュノーはダリアの民に加護を齎した…教皇である朕がそう判断したのだが、それに否と唱えるか?」
「っいえ…教皇がご判断されたのであれば、我々はこれまでと同じくダリアとの友好の発展に努めるまでにございます」
「重畳。契約や加護は、民に齎されるものであって、権力に齎されるものに非ず。民あっての国なのじゃ、其方ら王皇族の務めは権力を守るのではなく、民を守る事と肝に命じよ…」
国ではなく民に…
教皇の言葉にオレリアを連れて城下に降りた日を思い出す。あの日のオレリアは民との触れ合いを楽しんでいた。気さくに話しかけ、共に笑い手を差し伸べる姿を見て、オレリアに共にダリアの民の笑顔を守りたいと言った事を思い出す。
「さて…説教はこのくらいにして開宴とするかの」
「主催者でもない教皇が仕切ってどうするんですか…」
「ゾマは堅いのう…誰が始めても同じじゃろう。それよりも、朕はダンスの練習をしてきたのじゃが…フラン、朕と踊ってくれるか?」
「………は?」
何を言い出すんだこの教皇は…奔放を通り越した暴挙ともいえる無茶な振りに素が出てしまったが、周りの反応も等しく同じで、女性陣は扇で口元を隠す事も忘れている。
「世迷言を次から次へと…フラン殿下のファーストダンスのお相手はオレリア嬢に決まっているでしょう」
「ならばセリアズ、お前でよい」
「……何故私と?」
「朕とて其方らより令嬢と踊る方が興が乗るに決まっておろう…じゃが、朕だけ楽しんでは妻が妬くからの」
「踊らないという選択肢はないのですか…」
「ないな」
「仕方ないですね…男性と踊るのは初めてなので、上手くリード出来るか自信はありませんが…」
「リードするのは朕じゃが?」
「私が女性パートを踊れる筈がないでしょう?!今のは寝言ですか?そう言えばもう日も沈んでいますね、そろそろお休みの時間では?」
「セリアズったら、すっかり遊ばれてるわね…」
「義姉上?」
問答する2人に冷ややかな視線を投げながら、義姉が俺の隣に立って盛大な溜め息を吐いた。
「教皇が出席する時点で、夜会の流れなんて形式張ったものに拘るのは無駄よ。セリアズの契約の儀だってお茶を飲みながらだったんだから」
「昨日の立神の儀も似た様なものでしたよ…話に夢中になって儀式を忘れられてましたから」
「うちより酷いわね…教皇も奔放だけど、セリアズも堅苦しいのは好まないから…社交より魔物の討伐遠征ばかりで殆ど城に居ないし」
「ガーラと言うよりアウローですね」
「っ?!節操無しの変態男神なんていやよ!」
「ハハッ…アウローは本当に女性に嫌われてますね」
「当たり前でしょ、もしセリアズがアウローの契約者だったら逃げ出してたわ」
「逃げた先で木に姿を変えたとしても無駄でしょうけどね。ところで義姉上は、セリアズ殿が契約者となった時はどうでしたか?」
「オレリアの事ね…齎された力によっては他国から狙われるのではと危惧してるのかしら?」
「ダリアは大国で友好国との関係も良好です。教皇の言葉に背いて、大国を敵に回す国はおそらくないでしょう…義姉上、セリアズ殿が魔物討伐に出ていると仰いましたが、何か話は聞いてませんか?」
「出現する魔物の数が増えたとは言ってたけど…」
「ダリアもサルビアも同じです。今回オランド殿下が来られなかったのも魔物の調査の為だそうです」
「…オレリアの加護と関係があると?」
「分かりません…帰国の前にセリアズ殿と話をする時間を頂けますか?」
「勿論よ、今回は長めに滞在するつもりだから」
「ありがとうございます」
「フランもあまり考え過ぎない様にね、あの2人はもう少し考えた方がいいけど……あら?」
義姉が視線を向けた先では、どちらが女性パートを踊るのかで問答する2人…に近づく人物。
どちらもマナの保有量と親和性が高くなければ成されない稀な存在であり、現存している神に選られし者はセリアズ殿とオレリアのみ。
教皇の発表に友好国はどの様な反応を見せるのか…
「リンデ12世教皇並びに、両陛下、フラン王太子殿下、デュバル公爵令嬢オレリア様のご入場です」
音楽が止み、場に居る全員が片膝を着き首を垂れて教皇を迎える。
王皇族であっても、教皇の御尊顔を許可なく拝む事はならない。
衣擦れの音と、護衛の腰に下げられた剣の音が荘厳な空気を静かに震わすだけの、息を吸うのも躊われる耳鳴りがしそうな程の静寂の中、教皇がゆっくりと会場を見回し口を開いた。
「楽にして良い。今宵の夜会に朕が出席したのは、女神ジュノーがダリアに発現し、オレリアに加護を齎した事を発表する為じゃ」
「…ダリアに加護者が…」
「…フラン殿の婚約者が?」
「加護の力とはどんなものだ?」
女神ジュノーの発現と立神の儀については聖皇国から各国の大聖堂を通じて報せてあるが、オレリアの事は伏せていた為、今宵の夜会で加護者の発表があるなど露にも思っていなかった賓客達の反応は、当然の事ながら戸惑いの声が多い。
「私共の婚約の儀にて女神ジュノーが発現し、我が婚約者に加護を齎したと告げられましたが、加護の発現には難を要しました…この度の女神ジュノーの立神の儀で教皇にお力添えを頂き、無事に加護の紋が刻まれた為、この夜会で発表する運びとなりました」
言葉を間違えれば他国に疑念を持たせる事になる。
オレリアの加護に反応して女神ジュノーが発現した事、ナシェルも女神の声を聞いている事は伏せ、且つ発表が遅れたのはオレリアの加護の発現が不完全だった為と、真実に嘘を混ぜて経緯を説明したが、次代を受け継ぐ王族達がを納得させるには不十分だろう。
「発表に至った経緯については理解を示しますが、ダリアは今後、加護の力を如何様にされるつもりですか?」
「神の力を持つとなると、国力の均衡が崩れる事になるのでは?」
契約者であれば、契約した者の特性を説明すれば済む。セリアズ殿であれば武力、特に弓術は山一つ超えた標的も討つ事が可能と聞いている。
だが、加護者は神の力を齎される為、女神ジュノーの加護の特性が分からない今、オレリアの存在が国家間に影響を与える存在となるのか否か答える事は出来ない。
「女神ジュノーはダリアの民に加護を齎した…教皇である朕がそう判断したのだが、それに否と唱えるか?」
「っいえ…教皇がご判断されたのであれば、我々はこれまでと同じくダリアとの友好の発展に努めるまでにございます」
「重畳。契約や加護は、民に齎されるものであって、権力に齎されるものに非ず。民あっての国なのじゃ、其方ら王皇族の務めは権力を守るのではなく、民を守る事と肝に命じよ…」
国ではなく民に…
教皇の言葉にオレリアを連れて城下に降りた日を思い出す。あの日のオレリアは民との触れ合いを楽しんでいた。気さくに話しかけ、共に笑い手を差し伸べる姿を見て、オレリアに共にダリアの民の笑顔を守りたいと言った事を思い出す。
「さて…説教はこのくらいにして開宴とするかの」
「主催者でもない教皇が仕切ってどうするんですか…」
「ゾマは堅いのう…誰が始めても同じじゃろう。それよりも、朕はダンスの練習をしてきたのじゃが…フラン、朕と踊ってくれるか?」
「………は?」
何を言い出すんだこの教皇は…奔放を通り越した暴挙ともいえる無茶な振りに素が出てしまったが、周りの反応も等しく同じで、女性陣は扇で口元を隠す事も忘れている。
「世迷言を次から次へと…フラン殿下のファーストダンスのお相手はオレリア嬢に決まっているでしょう」
「ならばセリアズ、お前でよい」
「……何故私と?」
「朕とて其方らより令嬢と踊る方が興が乗るに決まっておろう…じゃが、朕だけ楽しんでは妻が妬くからの」
「踊らないという選択肢はないのですか…」
「ないな」
「仕方ないですね…男性と踊るのは初めてなので、上手くリード出来るか自信はありませんが…」
「リードするのは朕じゃが?」
「私が女性パートを踊れる筈がないでしょう?!今のは寝言ですか?そう言えばもう日も沈んでいますね、そろそろお休みの時間では?」
「セリアズったら、すっかり遊ばれてるわね…」
「義姉上?」
問答する2人に冷ややかな視線を投げながら、義姉が俺の隣に立って盛大な溜め息を吐いた。
「教皇が出席する時点で、夜会の流れなんて形式張ったものに拘るのは無駄よ。セリアズの契約の儀だってお茶を飲みながらだったんだから」
「昨日の立神の儀も似た様なものでしたよ…話に夢中になって儀式を忘れられてましたから」
「うちより酷いわね…教皇も奔放だけど、セリアズも堅苦しいのは好まないから…社交より魔物の討伐遠征ばかりで殆ど城に居ないし」
「ガーラと言うよりアウローですね」
「っ?!節操無しの変態男神なんていやよ!」
「ハハッ…アウローは本当に女性に嫌われてますね」
「当たり前でしょ、もしセリアズがアウローの契約者だったら逃げ出してたわ」
「逃げた先で木に姿を変えたとしても無駄でしょうけどね。ところで義姉上は、セリアズ殿が契約者となった時はどうでしたか?」
「オレリアの事ね…齎された力によっては他国から狙われるのではと危惧してるのかしら?」
「ダリアは大国で友好国との関係も良好です。教皇の言葉に背いて、大国を敵に回す国はおそらくないでしょう…義姉上、セリアズ殿が魔物討伐に出ていると仰いましたが、何か話は聞いてませんか?」
「出現する魔物の数が増えたとは言ってたけど…」
「ダリアもサルビアも同じです。今回オランド殿下が来られなかったのも魔物の調査の為だそうです」
「…オレリアの加護と関係があると?」
「分かりません…帰国の前にセリアズ殿と話をする時間を頂けますか?」
「勿論よ、今回は長めに滞在するつもりだから」
「ありがとうございます」
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