王国の彼是

紗華

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デュバルの女傑

169:不問

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「と、いう事で?この場は、社交の授業の一環として、私が、この者達をした……それで、いいかしら…フラン殿下?」

降臨した魂は?昇って行ったのか…?

小首を傾げるオリヴィエ皇女の、逆立って見えた髪がサラサラと肩から流れ落ちたのを見て、止まりかけていた呼吸を取り戻した。が、ここで俺に振ってくれるなと抗議したい。

「……オリヴィエ皇女直々に頂けた事、学生達も光栄でしょう。学ぶ場は、教室だけではありませんからね…」

「お、降りるのか…?」

手摺から離れた俺に、ネイトが恐る恐る声をかける。

「降りないわけにはいかないだろ…」

「俺は、ここで見守ってーー」

「ユーリ、却下だ。仕事しろ」

ーーコツン…コツ…コツン…コツン……

食堂に降り立った俺達を迎えるのは、この場を制圧したオリヴィエ皇女の優雅な笑み。
ルシアン殿が跪いて皇女の手に口付ける。

俺も跪きたい…

それ程に、オリヴィエ皇女の迫力は凄まじく、説いた話は、君臨する者の言葉の如く、ここに居る全員の胸に突き刺さった。

「……皆、楽にしていい。マリー嬢も面を上げて、楽に…発言の許可は、しないけどね」

「………」

向けられた視線に気付かぬ振りをして、オレリアの元へ進む。
顔から血の気が引いているのは、と宣言した事を、俺に聞かれて恥ずかしがっているのか、それとも、咎められると恐れているのか…仮に咎めるとしたら、本人に届かない告白は全く意味がないという事だけで、その宣言にも、内容にも何ら異論はない。

「リア…久し振りだね。顔を見せて、声を聞かせてくれるか?」

ネイトユーリが、マリー嬢から俺を隠す様に立ったのを確認して、オレリアに声をかけながら、お腹の前で組まれた、震える手を取る。

「…で、殿下に、於かれましては…ご健勝の事と、お慶びーー」

なのだから、そんな挨拶は不要だ。殿下もいらない。いつもの様に、名前で呼んでくれ」

「…っ…フ、フラン、様…」

「それでいい。リアはこの席でいつも食事を?」

「……はい」

「確かに、風が気持ち良いな。ここなら食事を楽しめそうだ」

「…殿下方の…お食事の時間を邪魔してしまい…申し訳ございませんでした」

「食事を終えて、歓談していたところだったから、邪魔という程でもないが…リアが、どうしても気になると言うなら、罰を受けてもらおうか…」

「……っ…どの様な罰も、謹んで…お受けします」

「それじゃあ…私の目を見て、私の為だけに、リアの愛する唯一だと、言ってくれるか…?」

この顔は、反則だろ…

罰という言葉に小さく震えるオレリアの耳元に口を寄せ、囁く様に罰の内容を告げると、真っ赤に染まった頬と潤んだ瞳を向けられ、後悔する。

「こ…ここで……で、ございますか…?」 

「そうだ……と言いたいところだが、その顔は誰にも見せたくない。また今度、2人きりの時に…楽しみにしているよ、リア?」

「~~っ……」

両手で顔を覆ってしまったオレリアの腰を引き寄せると、逆らう事なく胸に収まった。

思えば双丘事件から会っていない。どんな顔をして会えばいいかと悩みもしたが、スナイデルの森や、エルデの部屋出騒動、叔父上達のお茶会と、相変わらずの騒々しい日々に悩みも忘れ、側妃名簿という新しい悩みに、あの日突き飛ばされた事も忘れていた。

「リア、放課後は外へ出よう。学園長には、私から話しておく」

「王城に、戻られなくていいのですか…?」

「リアと会って話す様にと陛下に言われてるから、心配はいらない」

「話とは…」

「教えない…そうすれば、放課後まで私の事だけ考えてくれるだろう?」

「~~っ……はい…」

素直な反応に満足しながら、先程から感じる強い視線の元に目を向けると、呆れ顔のエレノアと、扇で口元を隠すヨランダ嬢と目が合った。
居たなら早く出ろとでも言いたいのか、浮かれている俺に呆れているのか、おそらく両方だろう。

「……ヨランダ嬢とエレノア嬢も発言を許可しよう。2人共に久し振りだな。スナイデルの森では、オレリアが世話になった。ナシェルの為に、ダリア農園へ足を運んでくれた事にも礼を言う」

「殿下のお言葉、恐悦至極にございます」

「殿下のお言葉、痛み入ります」

「オレリア嬢、ヨランダ嬢、エレノア嬢…そして、マリー嬢とアネット嬢も発言を許可しよう。この度の事は不問とする。オリヴィエ皇女から賜った指導を今後に活かす様に」

「「「御意」」」

「「はい」」

「それから…マリー嬢」

「はっ、はい!」

「其方の父君には、陛下も私も、とても世話になっていてね。温厚な人柄と、知識に富んだメラネ侯爵と話す時間は、となっている。侯爵の事は、王城でのと言ってもいい程に、手離したくない存在なのだが…私の言葉は理解してくれるか?」

「…あ、あの…それは…」

「私は子供ではないからね。癒すものも、安らげる場も、自分で見つける。誰かに与えてもらう必要はない……ここからは、この場に居る全員に、私からも伝えておこう。歴代の王の中には、個としての側妃を望んだ者もあったが、私は違う。この先、私が側妃を迎える必要に迫られた時、私は国の法としての側妃を迎える。私個人が側妃を望む事は決してない。側妃名簿に名を連ねる事は、拒否出来ないだろう。だが、名簿に名を連ねても、婚約も結婚も君達の自由だ。国も私も君達を縛る事を望まないからね…これが、ダリアの側妃なるものなんだが、理解頂けたか?マリー嬢」

「………はい」

他人の言葉では自身の都合のいい様に解釈するだけで、何度でも同じ事を繰り返すだろう。
必要とされているのは父の侯爵なのだと、俺個人は側妃を望まないなのだと、俺自身の口から聞けば、それは真実としてマリー嬢に届く。

期待に満ちていた瞳が、困惑に変わり、暗く翳っていくのを見て、理解した事を確認する。

「重畳。皆、驚かせて悪かった。残り少なくなってしまったが、昼の休憩を楽しんでくれ。殿下方、参りましょう。ネイト、ユーリ、行くぞ」

「「御意」」

マリー嬢だけではない。側妃名簿が正式に作成されれば、今後も同じ様な事が起こるだろう。
慣例であれば止めてしまえと言いたいが、古参の貴族達が黙っていない。

今日のオレリアの言葉も、子供から親へどの様に伝えられるか…

力も人脈もない己に不甲斐さを感じながら、食堂を後にした。

























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