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17 心の奥にある本能② 竜王SIDE
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競技場に行く前にリコのドレス姿を近くで見ようと思ったが、すでに出たあとだった。
(なんだ。つまらないな)
必要に迫られないと、リコはこちらの服を着たがらない。しかしドレスを着るのは好きらしく、頬を赤らめ嬉しそうにしている。それが可愛くて今日も見たかったのだが、少し遅かったな。リディアにもロイブ兄妹について話しておきたかったのだがしょうがない。
競技場で開始の挨拶を終え、用意された椅子に座ると、目の前に「リュディカ」が出てきた。
「竜王様、お茶です」
「……最近多くないか?」
「当たり前ですよ。リコが来てからというもの、興奮しっぱなしじゃないですか」
俺の名前がついた「リュディカ」というお茶は、鎮静作用があるものだ。特に俺にはてきめんに効果があるもので、欲望を抑えることができる。それにしても多すぎる。今日で四杯目じゃないか!
「そんなに興奮はしてないだろう」
「……夜にこっそり、リコの部屋に行ったのは存じております!」
「なっ! 何もやましいことはしていないぞ!」
「わかっております。リコはそんな人ではありませんから」
「俺を信用をするのが、補佐であるおまえの務めだと思うのだが?」
主人は俺だと言わんばかりに抗議をするが、当のシリルはフンと鼻を鳴らして気にもとめていない。
「おおかた小さな竜姿を見て、リコが喜んで終わりだったのでしょう?」
「うっ……」
俺が子供の頃から乳母のような役割をしていたシリルだ。気を抜くとすぐに母親みたいな態度を取ってくる。しかも見てきたように当てるから、何も言えない。
「おや、リコは貴族女性ともうまくやっているようですね」
「ああ、本当だな」
かなり遠くにいるが、竜人である俺たちは目が良い。隣りにいるのはアビゲイル嬢か。まわりにいる女性たちの名前は知らないが、パーティーにいた気がする。なぜか手を握り合って笑っているが、仲が良くなったのはいいことだな。
「アビゲイル様が取り持ってくださって、本当に良かったですね」
「ああ、これで少しは居心地が良くなるだろう」
するとリコと目が合った。今日は薄いブルーのドレスを着ている。シンプルなものだが、リコの可憐さが際立っていて、とてもかわいい。あんなにかわいいなら、もっと早くリコの部屋に行くべきだったな。
「なにをニヤけているんですか」
「うるさいぞ」
(なるほど……自分では気づいていなかったが、この危うさをシリルはわかっているのだろう。大量にお茶を飲ませるわけだ)
俺はぬるくなったお茶をぐいっと飲み干すと、盛り上がっている試合に目を向けた。
「最初の力比べは、前年度に負けた竜が勝ちましたね」
「はは! 空をクルクル回って、喜んでるぞ」
「あんな煽り方して。あれじゃあ、最後の総合で荒れますよ……」
竜の試合は面白い。それぞれ体の特徴があって、見どころも違う。乗り手が変わると、竜たちの能力も変わり、それも楽しいところだな。
「ふむ。あっという間に最終試合になったな」
「楽しい時間はあっという間ですね」
ドンドンという太鼓の音とともに、いっせいに竜が飛び立った。総合優勝者が決まる試合だけに、騎士たちの気合いもみなぎっている。
「昨年のような番狂わせは難しそうですね」
「ああ、さっきの力比べで決勝を争った二頭が、強そうだ」
予想通り、総合優勝に有利な大型の竜が強く、中型以下の竜は負けて競技場から出ていっている。選手も半数になり、緊張感が漂うなか、異様な行動をし始めた竜が目についた。
「あいつら二頭は何をしているんだ?」
「騎士が振り落とされていますね」
よくよく見てみると、異様な行動をしているのは一頭だけだ。もう一頭はその竜を必死に止めようとして傷だらけになっている。しかし牙をむき出しにし、よだれをダラダラと垂らしながら次の獲物を探す竜を止めることはできないようで、とうとう騎士の一人が噛まれてしまった。
「行くか!」
「はい、こちらから行きましょう」
競技場全体がこの騒ぎに気づき、混乱してしまっている。あれはもう騎士団長では手に負えないだろう。そう判断した俺が競技場裏の控えの場に降りると、ちょうど報告に来た団長と鉢合わせた。
(なんだ。つまらないな)
必要に迫られないと、リコはこちらの服を着たがらない。しかしドレスを着るのは好きらしく、頬を赤らめ嬉しそうにしている。それが可愛くて今日も見たかったのだが、少し遅かったな。リディアにもロイブ兄妹について話しておきたかったのだがしょうがない。
競技場で開始の挨拶を終え、用意された椅子に座ると、目の前に「リュディカ」が出てきた。
「竜王様、お茶です」
「……最近多くないか?」
「当たり前ですよ。リコが来てからというもの、興奮しっぱなしじゃないですか」
俺の名前がついた「リュディカ」というお茶は、鎮静作用があるものだ。特に俺にはてきめんに効果があるもので、欲望を抑えることができる。それにしても多すぎる。今日で四杯目じゃないか!
「そんなに興奮はしてないだろう」
「……夜にこっそり、リコの部屋に行ったのは存じております!」
「なっ! 何もやましいことはしていないぞ!」
「わかっております。リコはそんな人ではありませんから」
「俺を信用をするのが、補佐であるおまえの務めだと思うのだが?」
主人は俺だと言わんばかりに抗議をするが、当のシリルはフンと鼻を鳴らして気にもとめていない。
「おおかた小さな竜姿を見て、リコが喜んで終わりだったのでしょう?」
「うっ……」
俺が子供の頃から乳母のような役割をしていたシリルだ。気を抜くとすぐに母親みたいな態度を取ってくる。しかも見てきたように当てるから、何も言えない。
「おや、リコは貴族女性ともうまくやっているようですね」
「ああ、本当だな」
かなり遠くにいるが、竜人である俺たちは目が良い。隣りにいるのはアビゲイル嬢か。まわりにいる女性たちの名前は知らないが、パーティーにいた気がする。なぜか手を握り合って笑っているが、仲が良くなったのはいいことだな。
「アビゲイル様が取り持ってくださって、本当に良かったですね」
「ああ、これで少しは居心地が良くなるだろう」
するとリコと目が合った。今日は薄いブルーのドレスを着ている。シンプルなものだが、リコの可憐さが際立っていて、とてもかわいい。あんなにかわいいなら、もっと早くリコの部屋に行くべきだったな。
「なにをニヤけているんですか」
「うるさいぞ」
(なるほど……自分では気づいていなかったが、この危うさをシリルはわかっているのだろう。大量にお茶を飲ませるわけだ)
俺はぬるくなったお茶をぐいっと飲み干すと、盛り上がっている試合に目を向けた。
「最初の力比べは、前年度に負けた竜が勝ちましたね」
「はは! 空をクルクル回って、喜んでるぞ」
「あんな煽り方して。あれじゃあ、最後の総合で荒れますよ……」
竜の試合は面白い。それぞれ体の特徴があって、見どころも違う。乗り手が変わると、竜たちの能力も変わり、それも楽しいところだな。
「ふむ。あっという間に最終試合になったな」
「楽しい時間はあっという間ですね」
ドンドンという太鼓の音とともに、いっせいに竜が飛び立った。総合優勝者が決まる試合だけに、騎士たちの気合いもみなぎっている。
「昨年のような番狂わせは難しそうですね」
「ああ、さっきの力比べで決勝を争った二頭が、強そうだ」
予想通り、総合優勝に有利な大型の竜が強く、中型以下の竜は負けて競技場から出ていっている。選手も半数になり、緊張感が漂うなか、異様な行動をし始めた竜が目についた。
「あいつら二頭は何をしているんだ?」
「騎士が振り落とされていますね」
よくよく見てみると、異様な行動をしているのは一頭だけだ。もう一頭はその竜を必死に止めようとして傷だらけになっている。しかし牙をむき出しにし、よだれをダラダラと垂らしながら次の獲物を探す竜を止めることはできないようで、とうとう騎士の一人が噛まれてしまった。
「行くか!」
「はい、こちらから行きましょう」
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2025.9.9追記
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