竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜

四葉美名

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27 水晶の守り人②

「でもお腹が空いてるはずなのに、その竜はなぜ食べないのですか?」


 最後の一段を登ると、ようやく竜がいる三階についた。拾った竜はこの階の奥にいるらしく、ルシアンさんはズンズンと、廊下を進んでいく。


「人に飼われている竜が出産する時は、すぐに人の手が入ります。すると幼竜も人の竜気を嫌がりません。ですから食事を与えることができるのですが、野生の竜は人の竜気が苦手なので、たとえ餌を与えても食べないんです」
「竜気の弱い平民でも無理か?」


 それまで黙って聞いていた竜王様が、ルシアンさんに疑問を投げかけた。


「はい、ここに通いで働いてくれる平民の女性がいますが、無理でした。微量な竜気も敏感に察し、危険だと感じているようですね」
「そうか……」
「こちらの部屋です」


 鍵を開け部屋に入ると、そこは立派な客室だった。部屋のすみに椅子があり、その下に幼竜が身を隠すように座っている。大きさは両手で持ち上げられるくらいで、いきなり入ってきた私たちに気づくと、ガタガタと震え始めた。


「この子が……」
「はい、そうです。しかしここまで怖がるのは……、ああ、竜王様の気が怖いのでしょう。申し訳ないのですが、竜王様は少し離れてもらえますか?」
「む……、そうか、しかたがない」


 竜王様が部屋の扉のところまで下がると、幼竜の震えも少し小さくなった。


「あの、今回の依頼は、私がこの子と話すということですけど、何を話せばいいのでしょう?」
「ああ、そうでしたね。しかしこちらから頼んでおいて申し訳ないのですが、迷い人様も話すことはできないと思います」


 竜王様が言っていたことと同じだ。野生の竜だから無理だということなのかな? するとルシアンさんの口からは、予想とは違う答えが返ってきた。


「この子はまだ幼竜です。ですから竜同士の言葉も、理解しておりません」
「えっ! そうなんですか?」


 竜なら生まれてすぐに、話せるのかと思っていた。卵くんが魂の状態でベラベラと話すから、なんとなくそう思っていたけど違うらしい。私が驚いた顔をしていると、ルシアンさんも眉を上げて、不思議そうにこっちを見ていた。


「迷い人様がいた世界では、赤子でも人の言葉をすぐに話すのですか?」
「あっ! そういうことなんですね。それなら私の世界でも同じで、しっかり言葉を話すまでには三年ほどかかります」


(う~ん、それなら卵くんは次の竜王だから、特別ってこと? もしくは魂だから、私が感じ取ってるの?)


 卵の経験者である竜王さまが後ろにいるのだから、聞いてみようかな? この話題なら今質問しても、変に思われないだろう。私は竜王様のほうを振り返ると、なるべく自然な感じで質問をした。


「竜王様が赤ちゃんの頃も、話せなかったのですか? 以前リディアさんから竜王の卵について聞いた時は、お腹から母親に話しかけると聞いたのですが……」


 すると私の質問を聞いた竜王様の顔が、一瞬にして険しい表情になった。眉間にしわを寄せ、私と視線を合わせようとしない。心なしか、その場にいたルシアンさんやリディアさんの表情も暗くなっている気がする。


「……竜王でも赤子の時は話せないな。卵の時のことも覚えていない。この幼竜と同じだ」


 絞り出すようなその声に、私はふれていはいけない部分に無断で入ったことに気づいた。


(この空気で謝るのは変だし、どうしよう……)


 私の質問のせいで、まわりもピリついた雰囲気になってしまった。竜王様はまた穏やかな笑みを浮かべ始めたけど、私は申し訳無さが先に立って、話が続けられない。すると突然、手のひらに、生温かい湿った何かがふれた。


「きゃあ! あはははは! くすぐったい! なに?」
「リコ! どうした?」


 驚いて手を見ると、なんとそこには幼竜が私の手をペロペロと舐める姿があった。正確に言うと、さっきコケた時の擦り傷を舐めている。


『んん……あま~い!』
「あっ! しゃべってますよ! この子、しゃべってます!」
「なに!」
「迷い人様! それは本当ですか?」


 気づくと私は竜王様に庇われるように、後ろから抱きしめられていた。それでも伸ばした手には、しっぽを振りながらこっちを見る幼竜が、ちょこんと座っている。
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