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33 見届ける決意②
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二人は竜王様からその刑を知らされると、ワナワナと体を震わせ叫び始めた。
「なぜ我々が、そんな重い罰を受けなくてはいけないのです! こんな平民の女のために!」
「竜人でなくなるだなんて、いっそ死罪のほうがましですわ!」
竜王様はそれでも冷静に、二人に現実を伝える。周りにいる竜人たちも、皆一様にリプソン親子を冷ややかな目で見ていた。
「だからだ。権力欲にまみれたおまえらだからこそ、平民以下の暮らしになるのが一番の罰になるだろう」
二人にとっては権力こそがすべて。国中の人が大切にしている竜すらも、大事なものではなくなっていた。そんな彼らには私が一番の敵に見えるのだろう。キッと睨みつけ「絶対に許さないわ……」と呟いている。
背筋が寒くなるようなその視線に、今までの私だったら竜王様の影に隠れたくなったと思う。
でも私は絶対に目をそらしたくない。
彼女は私も私の息子も、殺そうとした人だ。あなたがその罰を受けるように、私も王妃になる人間として、しっかりと見届けてみせる。
「連れて行け」
竜王様の冷たい声が響き、縛られた二人が引っ張られるように部屋から連れ出される。
「いやよ……そんな、こんなこと絶対にいや……! あああ……」
これが私の見る、最初で最後の処罰であってほしい。私はそう願いながら、アビゲイルが出て行った扉をじっと見つめていた。
「それにしても彼女は私が死んだ後に、他の女性が運命の花嫁に選ばれたら、どうしていたのでしょうか」
リディアさんが入れてくれたリュディカを飲みながら、ふと疑問に思ったことを口にした。何気なく聞いたことだったけど、答えは意外なものだった。
「それが竜王の卵が宿るのは、一度きりと言われています。ですから侯爵たちはリコさえいなくなれば、なんとでもなると思っていたのではないでしょうか?」
「え? じゃあ、私が死んでいたら、誰も運命の花嫁にはならないのですか?」
「はい。実際に例がないので本当かは定かではないのですが、結ばれる前に花嫁を失った竜王は衰弱して死に、国が滅びると伝えられているんです」
「国が滅びる?」
私の驚く様子に、リディアさんも少し苦笑ぎみに話を続ける。
「まあ、言い伝えのようなものでしたから、一人の女性の存在で国が滅びるとまでは信じていなかったと思います。それよりも突然現れたリコによって、権力が奪われることのほうが彼らには大ごとですから」
遠くからドタバタとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてくる。リディアさんはその足音の主人が誰かわかっているのだろう。クスッと笑って空いている席に、新しいお茶を置いた。
「実はわたくしも、国が滅びるというのはおとぎ話のようなものだと思っていました。でも今ならわかります。竜王様にとって、たった半日でもリコの顔が見られないと、これですもの」
ニコッとほほ笑むリディアさんの背後のドアが、勢いよく開いた。
「ようやく結婚式の準備に取りかかれるぞ!」
もちろん部屋に入ってきたのは、疲れた顔のリュディカだ。素早い動きで私を抱きかかえ自分の膝に乗せると、人目も気にせず熱いキスをしてくる。
「んん! 竜王様、ちょっと人が……!」
「おい。リュディカと呼べと言っただろう?」
「とっさには言え……ん……!」
日に日に甘くなるこの態度に、恋愛初心者の私はついていけない。特に日本人としては、他人がいる前でイチャイチャするのには抵抗があるのだ。しかしそんなことを理解できない彼は、キスに恥ずかしがる私を拗ねた顔で見ている。
「リコは結婚式が待ち遠しくないのか?」
「それは、待ち遠しいですけど……、そういうことじゃなくて、人前でキスは恥ずかしいと言ってるでしょう?」
「もうリディアたちはいないぞ」
「え?」
キョロキョロと部屋を見回してみると、たしかに護衛の騎士もリディアさんもいない。私たちがキスをしている間に、気を使って外で待機してくれているようだ。
(それはそれで、恥ずかしいのだけど……)
「結婚式は一月後にしたからな」
「え? そんなに早くできるものですか?」
「……なんとかなるだろう」
そう言うとリュディカは、気まずそうに顔を背けた。これはかなり強引に準備を進めているのだろう。シリルさんや働く人たちの悲鳴が聞こえてくるようで、私は思わず頭を抱えた。
(これじゃ現場のことを無視する、ワンマン社長じゃない!)
「リュディカ! そんなに皆のことを大切にしない王様だったら、結婚はしないわよ?」
「俺を叱る時ばかり、名前を呼ぶのはずるいぞ!」
リュディカの綺麗で端正な顔が、子どものような表情になる。口をへの字に曲げ、フンと拗ねる表情に私が弱いことをわかっているのかもしれない。
(だって、この顔は私しか見られないんだもん……)
私はまんまと母性本能をくすぐられ、リュディカの髪を優しく撫で始める。竜の本能で彼の喉から機嫌が良い印である、クルルという音が聞こえてきた。この音も私は弱いのだ。
「はあ……、リュディカ。結婚は私も待ち遠しいけど、シリルさんたちに迷惑をかけるのは嫌なの。日程をもう少し延ばして?」
そう言って私からキスをすると、リュディカは満面の笑みで私の腰にまわした腕にぎゅっと力を込めた。
「わかった。あと数日くらいは延ばしてもいいだろう!」
「リュディカ! 話聞いてた? んん……!」
「リコからキスしてくれたのだから、お礼をしないとな」
結局こんな甘いやり取りをしている間にも、シリルさんたちは大急ぎで準備をしてくれ、私たちの結婚式は着々と近づいていくのだった。
「なぜ我々が、そんな重い罰を受けなくてはいけないのです! こんな平民の女のために!」
「竜人でなくなるだなんて、いっそ死罪のほうがましですわ!」
竜王様はそれでも冷静に、二人に現実を伝える。周りにいる竜人たちも、皆一様にリプソン親子を冷ややかな目で見ていた。
「だからだ。権力欲にまみれたおまえらだからこそ、平民以下の暮らしになるのが一番の罰になるだろう」
二人にとっては権力こそがすべて。国中の人が大切にしている竜すらも、大事なものではなくなっていた。そんな彼らには私が一番の敵に見えるのだろう。キッと睨みつけ「絶対に許さないわ……」と呟いている。
背筋が寒くなるようなその視線に、今までの私だったら竜王様の影に隠れたくなったと思う。
でも私は絶対に目をそらしたくない。
彼女は私も私の息子も、殺そうとした人だ。あなたがその罰を受けるように、私も王妃になる人間として、しっかりと見届けてみせる。
「連れて行け」
竜王様の冷たい声が響き、縛られた二人が引っ張られるように部屋から連れ出される。
「いやよ……そんな、こんなこと絶対にいや……! あああ……」
これが私の見る、最初で最後の処罰であってほしい。私はそう願いながら、アビゲイルが出て行った扉をじっと見つめていた。
「それにしても彼女は私が死んだ後に、他の女性が運命の花嫁に選ばれたら、どうしていたのでしょうか」
リディアさんが入れてくれたリュディカを飲みながら、ふと疑問に思ったことを口にした。何気なく聞いたことだったけど、答えは意外なものだった。
「それが竜王の卵が宿るのは、一度きりと言われています。ですから侯爵たちはリコさえいなくなれば、なんとでもなると思っていたのではないでしょうか?」
「え? じゃあ、私が死んでいたら、誰も運命の花嫁にはならないのですか?」
「はい。実際に例がないので本当かは定かではないのですが、結ばれる前に花嫁を失った竜王は衰弱して死に、国が滅びると伝えられているんです」
「国が滅びる?」
私の驚く様子に、リディアさんも少し苦笑ぎみに話を続ける。
「まあ、言い伝えのようなものでしたから、一人の女性の存在で国が滅びるとまでは信じていなかったと思います。それよりも突然現れたリコによって、権力が奪われることのほうが彼らには大ごとですから」
遠くからドタバタとこちらに向かって走ってくる音が聞こえてくる。リディアさんはその足音の主人が誰かわかっているのだろう。クスッと笑って空いている席に、新しいお茶を置いた。
「実はわたくしも、国が滅びるというのはおとぎ話のようなものだと思っていました。でも今ならわかります。竜王様にとって、たった半日でもリコの顔が見られないと、これですもの」
ニコッとほほ笑むリディアさんの背後のドアが、勢いよく開いた。
「ようやく結婚式の準備に取りかかれるぞ!」
もちろん部屋に入ってきたのは、疲れた顔のリュディカだ。素早い動きで私を抱きかかえ自分の膝に乗せると、人目も気にせず熱いキスをしてくる。
「んん! 竜王様、ちょっと人が……!」
「おい。リュディカと呼べと言っただろう?」
「とっさには言え……ん……!」
日に日に甘くなるこの態度に、恋愛初心者の私はついていけない。特に日本人としては、他人がいる前でイチャイチャするのには抵抗があるのだ。しかしそんなことを理解できない彼は、キスに恥ずかしがる私を拗ねた顔で見ている。
「リコは結婚式が待ち遠しくないのか?」
「それは、待ち遠しいですけど……、そういうことじゃなくて、人前でキスは恥ずかしいと言ってるでしょう?」
「もうリディアたちはいないぞ」
「え?」
キョロキョロと部屋を見回してみると、たしかに護衛の騎士もリディアさんもいない。私たちがキスをしている間に、気を使って外で待機してくれているようだ。
(それはそれで、恥ずかしいのだけど……)
「結婚式は一月後にしたからな」
「え? そんなに早くできるものですか?」
「……なんとかなるだろう」
そう言うとリュディカは、気まずそうに顔を背けた。これはかなり強引に準備を進めているのだろう。シリルさんや働く人たちの悲鳴が聞こえてくるようで、私は思わず頭を抱えた。
(これじゃ現場のことを無視する、ワンマン社長じゃない!)
「リュディカ! そんなに皆のことを大切にしない王様だったら、結婚はしないわよ?」
「俺を叱る時ばかり、名前を呼ぶのはずるいぞ!」
リュディカの綺麗で端正な顔が、子どものような表情になる。口をへの字に曲げ、フンと拗ねる表情に私が弱いことをわかっているのかもしれない。
(だって、この顔は私しか見られないんだもん……)
私はまんまと母性本能をくすぐられ、リュディカの髪を優しく撫で始める。竜の本能で彼の喉から機嫌が良い印である、クルルという音が聞こえてきた。この音も私は弱いのだ。
「はあ……、リュディカ。結婚は私も待ち遠しいけど、シリルさんたちに迷惑をかけるのは嫌なの。日程をもう少し延ばして?」
そう言って私からキスをすると、リュディカは満面の笑みで私の腰にまわした腕にぎゅっと力を込めた。
「わかった。あと数日くらいは延ばしてもいいだろう!」
「リュディカ! 話聞いてた? んん……!」
「リコからキスしてくれたのだから、お礼をしないとな」
結局こんな甘いやり取りをしている間にも、シリルさんたちは大急ぎで準備をしてくれ、私たちの結婚式は着々と近づいていくのだった。
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