これは私が望んだ復讐です

四葉美名

文字の大きさ
26 / 33

25話 スカーレットの守り

 
「スカーレット! 君は私の婚約者なんだぞ! それなのにシモン様と二人っきりで馬車に乗るとはどういうことだ!」


 オーエン様は鼻息荒く私を責めているけど、記憶喪失かなにかかしら? 自分は王宮で堂々とシャルロットの胸を触るし、夜会では二人っきりになりたいと宣言して消えていく。最終的に妊娠させ、内密だけど婚約も破棄されたのに。


(きっと周囲に人がいるから、私を悪者にしたいのよね。そうすればお互い浮気したのだからと、妹を妊娠させた言い訳が立つもの。本当に小さい男だわ……)


 そう思うと呆れて彼に反論する気にもなれない。私が黙ってため息を吐いていると、シモン様が代わりに話し始めた。


「オーエン殿下。急なことですが、帰国することになりました。それで皆様にご挨拶をと王宮に来たのですが」


 シモン様は私が馬車に同乗している理由を言わなかったが、それを聞いたオーエン様はあからさまにホッとした顔で笑った。


(オーエン殿下はシモン様が苦手ですものね。陛下以外に自分より上の立場の人がいるのが嫌なんだわ……)


「あ、ああ! そうでしたか! 陛下は時間が取れないかもしれませんが、ぜひこちらに――」
「いえ、陛下にも、そしてスカーレットのお父上である侯爵にもご挨拶をしたいのです」
「えっ……? な、なぜ侯爵にまで?」


 オーエン様は怪訝な表情で私を見ると、またシモン様に向き合った。シモン様は余裕たっぷりの顔で、にっこりと笑っている。


「それはもちろん、私がスカーレットと婚約したからですよ」
「な、なんだと! スカーレットと婚約? いったい何を馬鹿なことをおっしゃっているのですか!」


 シモン様の言葉に、周りにいた従者たちもざわめき始める。


「馬鹿なことではありません。それにもうスカーレットはあなたの婚約者ではないでしょう? オーエン殿下はあろうことか彼女の妹であるシャルロット嬢を妊娠させ、婚約することになったのですから」

「そ、それは……しかし……!」


 シャルロットとの関係は王宮では周知のことだったが、まさか妊娠しているとまでは思っていなかったのだろう。いつもは無表情で護衛をする騎士たちまで、目を丸くして驚いている。侍女たちは早く誰かに言いたいといわんばかりに、口を手で隠していたが笑っているのが丸わかりだ。


 そんな醜聞の的にされたオーエン様は、シモン様に教えたのが私だと思ったのだろう。ふるふると拳を震わせ、赤い顔で私を睨みつけている。


「ス、スカーレット! きさま……!」
「きゃっ!」


 オーエン様が私の腕を引っ張ろうと手を伸ばす。しかし次の瞬間。私の目の前で竜巻のような突風が吹き出し、オーエン様は巻き込まれるように吹き飛ばされてしまった。


「うわああ!」
「殿下!」


 私の身長ほどの高さまで浮き上がり、そのまま力をなくしたようにオーエン様の体は地面に叩きつけられ転がった。笑っていた侍女も青ざめ、気を抜いていた騎士たちは大慌てで殿下に駆け寄る。


 私だって初めて見た魔術の発動に、ゴクンと喉を鳴らしていた。それなのに、この騒然とした場のなか、シモン様だけが感心したようにうなずいている。私の肩を抱き、ものすごく楽しそうだ。


「う~ん、すごい威力だね。やはり聖女の魔力はとてつもないな」
「シモン様! そんなことを言ってる場合じゃありませんわ! まさかここまでとは……」
「ん? でもさっき言っただろう? 自業自得だ。それだけオーエン殿下は君に向かって乱暴を働こうとしたんだよ?」
「そ、それはそうですが……」


 チラリとオーエン様を見ると、泥だらけの状態で騎士に支えられていた。私と目が合った瞬間、化け物でも見るような顔をしていたが、すぐさま騎士の手を振り払いこっちに走ってきた。


「スカーレット! おまえの仕業か! い、いったい私になにを――」
「オーエン様! 落ち着いてください! そうでないと――」


 オーエン様には何が起こったのかわからなかったのだろう。再び私に掴みかかろうとし、またあっという間に吹き飛ばされてしまった。


「ぐわあああ!」


(もう、だから落ち着いてと言ったのに……)


 でもこれで安心だわ。私に乱暴しようとしても、婚約の魔術が私を守ってくれる。私はそっとシモン様の顔を見上げると、彼は少年のようにニッと笑った。


「だから言っただろう? 君のことは一生、私が守ると」
「ええ。このような守り方だとは思わなかったですけど、嬉しいです」


 シモン様の口ぶりから考えると、この魔術は私の魔力とも関係していそうだ。それでも元はオーエン様が私に乱暴しようとしなければ良かったこと。シモン様の言うとおり、自業自得だろう。


「俺は独占欲が強いからな。自分の妃の体に、他の男の指一本でもさわらせるつもりはない」


 そう言うと、シモン様は私の腰を引き寄せ、おでこに軽いキスを落とした。


「ス、スカーレット……」


 オーエン様はそんな私たちを見て、呆然とした顔をしている。今では戦意喪失し、地面に座り込んでいた。白い服はドロドロで、普段の私よりひどい格好だ。


 そんな泥だらけのオーエン様に、シモン様は一人近づいていく。そして見下すような目で殿下を見ると、口を開いた。


「スカーレットはもう私のものです。気安く触ると痛い目にあいますよ? それにお忘れですか? 私はカリエント国の第一王子。妃になる彼女の身にさわるなど、国際問題になるでしょう」

「カ、カリエントの王妃……。スカーレットが?」


 私を見つめるオーエン様は、まだ信じられないといった表情だ。私とシモン様を交互に見ては、青ざめた顔をしている。にっこり見つめ合う私たちの姿は、彼の瞳にどう映っているのだろうか。


「とにかく陛下と侯爵のお二人を呼んだほうがいいですよ。もちろん侯爵には私の素性も教えた上でね」


 シモン様の威厳あるその態度は、周囲の人たちをも圧倒していた。チラリと目線を動かしただけで、侍女が陛下へ説明しに王宮に入っていく。


(これじゃあ、どちらがこの国の王子かわからないわね……)


 私は茫然自失の状態で座り込むオーエン様を見つめながら、そう考えていた。

感想 0

あなたにおすすめの小説

繰り返しのその先は

みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、 私は悪女と呼ばれるようになった。 私が声を上げると、彼女は涙を流す。 そのたびに私の居場所はなくなっていく。 そして、とうとう命を落とした。 そう、死んでしまったはずだった。 なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。 婚約が決まったあの日の朝に。

〈完結〉ここは私のお家です。出て行くのはそちらでしょう。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」マニュレット・マゴベイド男爵令嬢は、男爵家の婿である父から追い出される。 そもそも男爵の娘であった母の婿であった父は結婚後ほとんど寄りつかず、愛人のもとに行っており、マニュレットと同じ歳のアリシアという娘を儲けていた。 母の死後、屋根裏部屋に住まわされ、使用人の暮らしを余儀なくされていたマニュレット。 アリシアの社交界デビューのためのドレスの仕上げで起こった事故をきっかけに、責任を押しつけられ、ついに父親から家を追い出される。 だがそれが、この「館」を母親から受け継いだマニュレットの反逆のはじまりだった。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

お望み通り、消えてさしあげますわ

梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。 王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。 国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの“役立たずの聖女”だと噂されるほどだったから。 彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。 この国はより豊かになる、皆はそう確信した。 だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) ※この調子だと短編になりそうです。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

聖女の後悔

しゃーりん
恋愛
ジークハルトは婚約者のアドリアナと思い合っており、結婚を待ち遠しく思っていた。 しかし、ある日突然、アドリアナが上級魔法を使えるほど魔力値が高くなり、治癒魔法を使う彼女は聖女と呼ばれることになる。 魔力値がどんどん下がりつつある時代に久しぶりに誕生した聖女だった。 アドリアナは過去の聖女がしていたように、国中を回って人々を癒したいと言い出し、それにジークハルトも当然ついてくるものだと思っていた。 だが、侯爵家の跡継ぎであるジークハルトが一緒に行けるはずもない。 結局、二人の婚約は解消することになった。 落ち込むジークハルトを幼馴染のルーナが慰め、二人は婚約を結び、やがて結婚した。 せっかく誕生した聖女が地方を回っていることで、王都にいる貴族の治癒に間に合わず不満が続出し、領地で聖女を歓待する貴族も少なくなる。 一方、アドリアナも自分の考えに疑問を持つようになり、聖女の力を失うことになるというお話です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。