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50話 シモン様の暴露
「この国が嵐などの災害に無縁であることを知った私は、少し前から滞在して調べさせてもらった」
ゆっくりとシャリモンドの国民に話しかけるシモン様は、まるでこの国の王様だ。時折彼と目が合った女性が顔を赤らめ、ぼうっとしてしまっている。
「その結果、やはりこの国を覆っている結界のおかげだということがわかったのだ。しかし魔力を持たないシャリモンドの陛下や司教には結界が見えない。ゆえに結界のことも、それを維持するために魔力を注いでいたスカーレットのこともあざ笑っていた」
突然名前を出された司教様は「ひっ」と小さく声を上げ、睨んでくる国民に対してブンブンと首を振っている。反対に陛下は「くだらない」とぶつぶつ呟いて、まだ結界について信じていない様子だ。
シモン様は二人の様子をチラリと確認すると、また話を続ける。
「見えないものを信じろというのは難しいものだ。気持ちはわかる。しかしそれならば、なぜ一国の王が災害が起きた時の準備をしないのか。しかも未だに自分たちは贅沢な暮らしをし、荒れた土地もほったらかしだ」
その言葉に集まった者達は何回もうなずき、ギロリと王族たちを睨みだす。なぜなら、彼ら貴族たちは場違いなほど上質な服を着ていた。反面、豊かだった国民の服装は、流れた土地や壊れた家屋を修復するのに精一杯で薄汚れている。
「このことについては、カリエントに移住した者に聞いたほうが早いだろう。ランディ、ここに」
「はい」
緊張した面持ちのランディが、シモン様の隣についた。そしてすうっと息を吸うと、民衆に向かって話し出す。
「俺は一月前までシャリモンドで暮らしていたランディだ! スカーレット様に折れた骨を治してもらい、そのまま仕えている。そのうえで母国シャリモンドとカリエントの違いを話すので、しっかり聞いてほしい!」
見知っている者もいるようで、みんな興味深そうにランディの話を待っている。
「先日カリエントにも嵐はやってきたが、なんとシャリモンドとは違い被害はなかった。しかも嵐で家が壊れたり怪我をしても、すぐに騎士が来てくれるんだ。もし壊れても王家からお金までもらえる。そのうえ王族であるシモン殿下自らが町に様子を見に来てくれ、不便がないか声をかけて回るのだ」
真剣な表情のランディの説明は、聞いている人達にもしっかり伝わっているようだ。その他にも土地の地盤を調べたり、学者が嵐の予測をすることなどを話すと、皆いっせいに騒ぎ始めた。
「信じられない! カリエントではそんなにしてくれるの?」
「俺たちなんてお金どころか、話だって聞いてもらえないのに!」
「もう嵐が去ってからだいぶ経つのに、王族どころか騎士だって来ないわ!」
あちらこちらから不満の声が聞こえ、オーエン様は気まずそうにうつむいている。ランディはそんな殿下の顔を苦々しい顔で見ながら、また後ろに下がっていった。
「これでわかってくれただろうか。シャリモンドの王族や教会は、聖女スカーレット一人に国の安全を任せていた。それなのに彼女を馬鹿にし、裏切り、最後には国から追い出したのだ!」
シモン様が声高らかにそう叫ぶと、民衆達はいっせいに王族への罵倒を始める。しかしそれと同時に、あわてふためいたオーエン殿下がこちらに駆け寄ってきた。
「ま、待て! それは違う! 陛下は王宮にスカーレットを保護しようと――」
「ああ、それはお優しいことだ。ワガママな妹の教育を聖女にやらせ、君は姉妹両方を妻にしようとしていたからな」
「そ、それは! ち、ちが……!」
「違わないな。傷ついた彼女に、おまえはなんと言ったか覚えていないのか?」
シモン様に知られていると予想もしていなかったのだろう。一瞬ポカンとしたあと、オーエン様の顔はみるみる青くなっていく。
「君はスカーレットにこう言ったんだ。『私も気が向いたら、君を抱いてやろう』とね」
その言葉に広場の女性たちからたくさんの悲鳴がもれた。オーエン様はシモン様を止めようとするけれど、体格が違いすぎる。シモン様は殿下をするりと避けると、また話を続けた。
「ああ、君はこうも言っていたね。『王宮の奥で男を知らずに一生を過ごすのは、かわいそうだ。情けをかけてやるから、楽しみに待っているがいい』だったかな?」
「ち、違う。そんなこと、そんなこと私は言っていない! そうだ! 証人がいないじゃないか! これは嘘だ! 皆、信じないでくれ!」
オーエン様のそんな言い訳は、誰にも通用しなかった。それどころか、今ではシャリモンドの騎士や侍女たちまで冷ややかな目で見ている。
(あらあら、みんな『殿下なら言いそうなことだ』という表情ね。それはそうよね。王宮でのいろんな出来事を見てきた彼らだもの。今さらだわ)
そんなことを考えていると、ふと後ろから視線を感じた。ヒリヒリと痛むようなその視線を送っているのは、妹のシャルロットだ。さっきのオーエン殿下の発言を初めて聞いて、苛立っているのだろう。口元を歪ませ、普段なら誰にも見せないような醜悪な顔で私を睨んでいる。
(女性として自分のほうが優れているということが誇りだものね。それが彼女の男遊びをひどくさせていた原因にも思えるけど……)
「なんでも欲しがったら駄目だということよ……」
そう小さく呟くと、私はまたシモン様を見上げた。彼は私の肩を抱き寄せると、少し苦しそうな表情を作って話し始める。
「スカーレットはこの国で、本当につらい思いをしている。元婚約者のオーエン殿下や王族だけじゃない。実の家族からもひどい扱いを受けていたのだ」
そう言うと、今度は父親である侯爵がビクリと肩を震わせた。
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