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01.伯爵令嬢は婚約破棄されそうになる
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「サラ! ようやく僕のもとに戻ってきてくれたんだね!」
私の足元で40歳くらいの金髪の男性が、キラキラとした喜びの目をして私を見上げている。
「ど、どなたでしょう?」
「僕だ! エドワードだよ!」
「エドワード様?」
そんなはずはない。私はさっき死んだはずだし、私の知っているエドワード様は15歳だ。
それにもしあなたがエドワード様なら、昨日私に婚約を考え直したいと言いましたよね? なぜそんなに私に会えて喜んでいるの?
いったいこれはどういう事なのだろう? 私は混乱した頭で、今日あった事を最初から思い出すことにした。
「サラ、僕は君との婚約を考え直そうと思う」
そう告げるエドワード様の隣には、美しい令嬢が申し訳無さそうに私を見ていた。
今日は仲直りのために呼んでくださったのだと思っていたのに。呆然とエドワード様を見つめながら、テーブルの下でギュッとハンカチを握りしめる。
その美しい女性は隣国マリス王国のソフィア王女だとういう。エドワード様に紹介され、にっこりと優雅に微笑む姿は大輪の薔薇の様に美しい。
伯爵令嬢である私サラ・オルレアンと第1王子のエドワード様は、周りから言わせると「仲が良い時は2人の世界で楽しそうだが、一度喧嘩すると手が付けられない」関係らしい。
「サラは魔術の事になると短気だし、謝らないから困りますわ」
「あら、エドだってすぐ真っ赤になって、部屋に引きこもってしまうのよ」
お母様と王妃様のお茶会では、よくこんな会話がされている。それでも私達は喧嘩しては仲直りをし、いずれこのまま結婚するのだと信じて疑わなかった。
だってエドワード様が私を婚約者にと願ったのだし、私は彼の特別だと思っていたから。それに私にとっても2人きりで魔術の勉強をする時間は、宝物のように大切だった。
でもそれは大きな勘違いだったみたい。
私がこの場に来た時に2人はすでに優雅にお茶をしていて、テーブルには色とりどりの美しいケーキが並んでいた。私の大好きな苺がいっぱい使われていて、なんだか切ない。
仲直りのために作った私のクッキーなんて出せそうにもないわね。まあ今更出す気もないけど。持ってきたバスケットをチラリと見て、意を決してエドワード様に質問をする。
「それはどういう事でしょうか?」
私がそう言うとエドワード様はため息をついた後、私の目をじっと見て話を続けた。
「サラ、僕はソフィア王女に会って気づいたんだ。王女はサラと同じ年なのにマナーも外国語も完璧だ。それなのにサラはどうだ? 妃教育よりも魔術の勉強を優先して、進んでないだろう? しかも魔術が上手にできないと、癇癪を起こすこともよくある。この前だってそうだ。そして僕が呼ぶまでは謝ることすらしないじゃないか」
エドワード様は一気に話し終えると、今度はにっこりと微笑んで隣に座るソフィア様の手を取る。
「ソフィーは子供の頃僕たち兄弟と庭で遊んでいる時でも、花の名前や利用方法を聞いて勉強してたよね」
隣国マリス王国とは友好関係を築いていて、昔から国交が盛んだ。それこそ婚約前エドワード様は、マリス王国の王女と結婚するのではと噂があったくらいだ。でもソフィア様の名前を愛称で呼ぶほど仲が良かったとは知らなかった。
なんだか喉が痛くて声が出せない。どうしたんだろう。
「そうでしたね、私は勉強が好きでしたから。それでも私に魔力があったなら、勉強より魔術のとりこになっていたと思います」
同じ金色の髪に美しい青い瞳をして微笑み合う2人は、まるで一枚の絵画の様だ。豪華で繊細な刺繍が施された上品なドレスに負けない美貌には、嫉妬心すら起きない。
それに引き換え私ったらいつもどおり仲直りして2人で魔術の練習をすると思ってたから、普段着のドレスなんか着てきちゃって……
エドワード様が言った事が正論だけに何も言い返す事ができないけど、素直に謝る言葉も出てこない。握りしめたハンカチはもうクシャクシャになってしまった。
そんな子供な自分が嫌でなにか言いたいけど、唇がくっついたかのように乾いて言葉にならない。奥歯を噛み締めてこみ上げてくるものを抑えようとしてるけど、胸の奥が熱くなってきてよけいに苦しい。
一秒でも早くここから立ち去りたい。とりあえずお父様に相談することを伝えて帰った方が良いわ。
エドワード様から今日は帰るよう促してくれないかしら。そうしたら頷くだけでいいのに。
そんな私の気持ちが届くわけもなく、エドワード様はソフィア様に特上の笑顔を向けて話し続ける。
「本当にソフィーは思いやりがあって努力家で、理想の女性だね」
ああ、もうダメみたい。
気づいたら私はボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「サラ!?」
エドワード様の少し焦った様な大声にハッとした私は、2人に挨拶もせずに立ち上がり王門に向かって走り出していた。
こんなドレス姿で泣きながら走って、本当に私は淑女失格だわ。周りが驚いて見ているけど、気に留めることなく走り続ける。
「サラ! 違うんだ! 待って! 行かないで!」
エドワード様がこちらに向かって叫びながら追いかけてくるけど、今はどうしても話したくなくて王家の魔力結界を出た瞬間に私は自分の部屋まで転移した。
私の足元で40歳くらいの金髪の男性が、キラキラとした喜びの目をして私を見上げている。
「ど、どなたでしょう?」
「僕だ! エドワードだよ!」
「エドワード様?」
そんなはずはない。私はさっき死んだはずだし、私の知っているエドワード様は15歳だ。
それにもしあなたがエドワード様なら、昨日私に婚約を考え直したいと言いましたよね? なぜそんなに私に会えて喜んでいるの?
いったいこれはどういう事なのだろう? 私は混乱した頭で、今日あった事を最初から思い出すことにした。
「サラ、僕は君との婚約を考え直そうと思う」
そう告げるエドワード様の隣には、美しい令嬢が申し訳無さそうに私を見ていた。
今日は仲直りのために呼んでくださったのだと思っていたのに。呆然とエドワード様を見つめながら、テーブルの下でギュッとハンカチを握りしめる。
その美しい女性は隣国マリス王国のソフィア王女だとういう。エドワード様に紹介され、にっこりと優雅に微笑む姿は大輪の薔薇の様に美しい。
伯爵令嬢である私サラ・オルレアンと第1王子のエドワード様は、周りから言わせると「仲が良い時は2人の世界で楽しそうだが、一度喧嘩すると手が付けられない」関係らしい。
「サラは魔術の事になると短気だし、謝らないから困りますわ」
「あら、エドだってすぐ真っ赤になって、部屋に引きこもってしまうのよ」
お母様と王妃様のお茶会では、よくこんな会話がされている。それでも私達は喧嘩しては仲直りをし、いずれこのまま結婚するのだと信じて疑わなかった。
だってエドワード様が私を婚約者にと願ったのだし、私は彼の特別だと思っていたから。それに私にとっても2人きりで魔術の勉強をする時間は、宝物のように大切だった。
でもそれは大きな勘違いだったみたい。
私がこの場に来た時に2人はすでに優雅にお茶をしていて、テーブルには色とりどりの美しいケーキが並んでいた。私の大好きな苺がいっぱい使われていて、なんだか切ない。
仲直りのために作った私のクッキーなんて出せそうにもないわね。まあ今更出す気もないけど。持ってきたバスケットをチラリと見て、意を決してエドワード様に質問をする。
「それはどういう事でしょうか?」
私がそう言うとエドワード様はため息をついた後、私の目をじっと見て話を続けた。
「サラ、僕はソフィア王女に会って気づいたんだ。王女はサラと同じ年なのにマナーも外国語も完璧だ。それなのにサラはどうだ? 妃教育よりも魔術の勉強を優先して、進んでないだろう? しかも魔術が上手にできないと、癇癪を起こすこともよくある。この前だってそうだ。そして僕が呼ぶまでは謝ることすらしないじゃないか」
エドワード様は一気に話し終えると、今度はにっこりと微笑んで隣に座るソフィア様の手を取る。
「ソフィーは子供の頃僕たち兄弟と庭で遊んでいる時でも、花の名前や利用方法を聞いて勉強してたよね」
隣国マリス王国とは友好関係を築いていて、昔から国交が盛んだ。それこそ婚約前エドワード様は、マリス王国の王女と結婚するのではと噂があったくらいだ。でもソフィア様の名前を愛称で呼ぶほど仲が良かったとは知らなかった。
なんだか喉が痛くて声が出せない。どうしたんだろう。
「そうでしたね、私は勉強が好きでしたから。それでも私に魔力があったなら、勉強より魔術のとりこになっていたと思います」
同じ金色の髪に美しい青い瞳をして微笑み合う2人は、まるで一枚の絵画の様だ。豪華で繊細な刺繍が施された上品なドレスに負けない美貌には、嫉妬心すら起きない。
それに引き換え私ったらいつもどおり仲直りして2人で魔術の練習をすると思ってたから、普段着のドレスなんか着てきちゃって……
エドワード様が言った事が正論だけに何も言い返す事ができないけど、素直に謝る言葉も出てこない。握りしめたハンカチはもうクシャクシャになってしまった。
そんな子供な自分が嫌でなにか言いたいけど、唇がくっついたかのように乾いて言葉にならない。奥歯を噛み締めてこみ上げてくるものを抑えようとしてるけど、胸の奥が熱くなってきてよけいに苦しい。
一秒でも早くここから立ち去りたい。とりあえずお父様に相談することを伝えて帰った方が良いわ。
エドワード様から今日は帰るよう促してくれないかしら。そうしたら頷くだけでいいのに。
そんな私の気持ちが届くわけもなく、エドワード様はソフィア様に特上の笑顔を向けて話し続ける。
「本当にソフィーは思いやりがあって努力家で、理想の女性だね」
ああ、もうダメみたい。
気づいたら私はボロボロと大粒の涙をこぼしていた。
「サラ!?」
エドワード様の少し焦った様な大声にハッとした私は、2人に挨拶もせずに立ち上がり王門に向かって走り出していた。
こんなドレス姿で泣きながら走って、本当に私は淑女失格だわ。周りが驚いて見ているけど、気に留めることなく走り続ける。
「サラ! 違うんだ! 待って! 行かないで!」
エドワード様がこちらに向かって叫びながら追いかけてくるけど、今はどうしても話したくなくて王家の魔力結界を出た瞬間に私は自分の部屋まで転移した。
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