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14. 魔術兵器の正体
しおりを挟む転移の指輪が見つかってしまった。
耳元で低く囁く声は私を絶望に落とすのに十分で、カタカタと腕が震え頭が真っ白になる。目線は自然と足元に向き、頭がうなだれた。
「あいつはお前を追ってくるだろう。そしたらお前の魔力で、あいつを殺してやるよ」
そう言って王子は高笑いしている。しかしその言葉を聞いた私の心は、不思議と落ち着き始めた。ほんの少し前は怖くて不安で、絶望していたのに。ジーク王子はその言葉で、私の希望を踏みにじったつもりだろう。しかし反対に王子の言った言葉は、私の心に火を着けていた。
私は決めたんだ。絶対に王子にエドを殺させない!
「まあでもあいつは第3王子だ。ヤツにかまってる暇はないから、まずは王を狙うか」
「殿下、失敗したらあちらも何か対策を取るでしょう。一度で仕留めるためにも、別の者で試し打ちをしてみてはいかがですか?」
「ああ、そうだった。それであいつらを、連れてきたのだったな」
試し打ち? 何をするんだろう? そう思っていると王子は私を立ち上がらせ、肩に手を置き目を閉じた。私の体から少し魔力が吸い取られた気がする。しばらくすると私達の足元に、魔法陣が浮かんだ。まただ、また勝手に魔法陣が出てきた。
「よし、そこのおまえ、顔をこちらに向けろ」
ジーク王子は1人の騎士を指名し、顔を上げさせる。騎士は命令どおり顔を上げるが、少し戸惑っているようだ。まさか……! そう思った時には私の魔力は吸い取られ、その騎士は王子の放った攻撃でふっ飛ばされていた。
「ふむ、少し威力が弱いか」
「最低……! 信じられない!」
驚いて非難する私にかまう様子もなく、王子はまた別の騎士を攻撃し始める。この人達は王子にとって、護衛じゃないんだ。練習の的として連れてきたんだ。信じられない。残虐非道な王子のやり方に、怒りで体が震える。
「ふん。子供が俺に文句を言うな」
「あなただって子供でしょう?」
正確な年齢は知らないが、同じ年くらいの容姿だ。それなのにジーク王子はきょとんとした顔でこちらを見ている。
「ハハ! この国とは交流がなかったから、知らなくてもしょうがないか。俺は今年で20歳だ。魔術を使うようになってから、成長が止まったんだ」
「え!?」
成長が止まる!? そんな魔術師聞いたこともない。もしいるなら問題になってるはず。
「まあでも、この体も気に入ってる。周りを欺くことができるからな。この攻撃の魔術は狙いたい相手の姿を覚えないとダメなのだが、フィリップ達王族の顔はもう覚えた。偶然おまえがいたのは、好都合だったな」
そういうことか。エドはジーク王子が魔力を持った女性目当てにこの国に来たと予想していたけど、本当の理由はエド達王族の顔を覚えるためだったんだ。どうしよう。このままじゃ本当にエド達が攻撃されてしまう! そう思った時ジーク王子が、片膝をつき座り込んだ。
「うっ!」
ゴホゴホと苦しそうに咳をし始める。なに? どうしたんだろう。突然の体調変化に驚いていると、ジーク王子は顔を青ざめながら私を見てニヤリと笑った。
「お前の魔力は強力だな。吸いすぎると苦しい」
吸いすぎると…? 王子は私の魔力を吸って、魔法陣に流しているってこと? ふとエドが言っていた「魔力が見える特別な魔術師の弱点」を思いだす。
たしか「何かを持っていない」そして「何かができない」だったはず。私は今まで起こった事を思い出し、ある事に気づいた。
……わかった! ジーク王子は魔力を見たり魔法陣を作る能力がある代わりに、魔力を持っていないんだわ! だから他人から魔力を吸い取らないと、魔術が発動できないんだ! だからあんなに私の魔力が吸われたのね。
まだゴホゴホと咳き込むジーク王子を見た時、王子を倒せるひとつの方法を思いついた。でもこれをしてしまうと、また私は死んでしまうかもな。でもエドが殺されるのは、絶対に嫌だ。
私はこれから自分がする方法のために、大きく深呼吸する。足を踏ん張り、手に力を込めた。
「それじゃあ、本命の王族を狙うか」
ジーク王子はゆっくりと立ち上がり、私の肩に手を置く。まだ顔色が悪い。私が恐怖で動けないと思っているのか、ニヤリと笑って話しかけてきた。
「これでもう、お終いだな」
「ええ、そうね。もうあなたはお終いよ」
私が睨みつけそう言うと、王子は何を言われたかわからないという表情でこちらを見ている。私は逃げられないよう王子の服を掴み、もう片方の手で王子の胸に手を当て一気に魔力を流した。
吸い取るなら、全部吸い取ればいいわ。大量の魔力に耐性の無いあなたが、私の魔力を一気に吸い取ったらきっと体がもたない。成長が止まるほど魔力が体に影響あるのだから、私の魔力では器である体はボロボロになるだろう。
魔力の巡りはエドが急逝してしまったように、命取りになる。体の中で魔力が暴れてコントロールできないはずだ。あなたは魔力の恐ろしさを知らないのよ。
「くそ! なんだこれは!」
ジーク王子は私の魔力が一気に体に入ったことで、予想通り苦しみ始めた。何が起こったのかわからない様で、混乱した顔で私を見ている。
欲しいのでしょう? それなら私の魔力、全部あげるわよ!
私はさらに魔力を、王子の体に叩き込んだ。魔法陣にまで魔力が届き、さっきとは比べ物にならないほど光っている。
「ぐわあああ!」
「ジーク殿下!?」
ジーク王子は苦しさで叫び始め、その声に驚いた護衛達が駆け寄ってきた。しかしジーク王子の魔術は暴走し、コントロールできない。王子の手から出される無数の魔術攻撃は、駆けつける王子の護衛に無差別に当たり倒れていく。
「ゆ、許さんぞ……!」
王子は必死に私の手をどかそうとするけど、弱った体ではそれもできず目を見開き苦しんでいる。
まだだ。まだ流さなくては。私自身も魔力が底をつきかけているのがわかる。この感覚は身に覚えがある。それでもやらなくちゃ。私は必死に暴れる王子にしがみつき、少しでも多くの魔力を流した。
それでも王子は抵抗し続け、私の手を離さない。しまった。目がもうろうとしてきた。足もガクガクして立っていられない。力が弱まったのに気づいた王子は、私をすぐさま突き飛ばす。
「こ、殺してやる……!」
ジーク王子は私を睨みつけ、攻撃をしようと構え始めた。そんな、せっかくここまできたのに、あと少しなのに……無駄に終わるの?
目が霞んできた。どうして? このままじゃ、エドを救えない。助けたいのに、幸せにしたいのに!
ジーク王子の手が光り、私に攻撃をしかけてくる。私は指先ひとつ動かせず、その光の玉がこちらに向かってくるのを見ている。あと少しだったのに。そう思った時だった。
「サラ!」
エドの姿が目の前にあった。
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