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15. 最後の願い
しおりを挟むエドが目の前に現れたと同時に、ジーク王子が放った光が弾き返されるのが見えた。エドは倒れていた私にすぐさま駆け寄り抱き上げる。そのまま急いで近くの木の陰に隠れて、ジーク王子の様子を見張っていた。王子は倒れているけど、まだ油断ならない。
「エド……!」
「サラ! 大丈夫か!?」
「私は……だいじょう、ぶ。それより……さっきの」
「俺は大丈夫だ。魔力攻撃を跳ね返すよう、準備してきたから。それよりこれは……」
エドは私の周りの様子を見て、目を見開いて驚いている。それもそうだろう。ようやく見つけたら、私の周りには人が大勢倒れているんだから。私はジーク王子が魔力攻撃で、王族を攻撃しようとしていた事を伝えた。
「ジーク王子は…魔力を持ってなかったのよ…だから…私の魔力を全部流し込んで…」
喉が痛くて苦しい。咳き込みそうになるけど、ぐっと我慢して説明を続ける。
「そうすれば…あの人の体の中で、魔力が暴走して…」
「わかった! もう喋らなくていい」
エド自体が魔力の巡りが悪くなって死んだのだ。どれだけ辛いか一番わかっているだろう。エドは周りに注意しながら、話を続ける。
「兄に頼んで騎士団をここに送り込むよう伝えた。俺の魔力を感知できるようにしたから、もうすぐ到着するだろう」
騎士団がここに来る。そう聞いただけで心の底からホッとして、力が抜ける。
「それに陛下達の守りも大丈夫だ。万が一のために魔術師も近くで待機させている。国境の防衛も伝達したし、一応マリス王国にも使者を送ったよ」
エドはあの時言った決意どおり、王族として国を守ろうと頑張っていた。私もなんとかエドを守れたようで、安心する。2人で抱き合っているとエドは木の陰からそっと顔を出し、ジーク王子の様子を伺った。
「……捕まえてくる」
そう言ってエドは私を残して、ジーク王子のもとに歩いていく。あと少しで王子のもとに着くのが見えた瞬間、王子は体を起こし私の方へ魔術攻撃を放ってきた。
「きゃあ!」
魔術攻撃の光は、私のすぐ横の木に当たった。まだコントロールはできてないみたいだ。それでもこんなに動けるくらい、回復しているなんて。まだ魔力を入れなくては! そう思ってジーク王子のもとに行こうと、立ち上がった。
「ぐわあああ!」
叫び声に驚き振り向くと、エドがジーク王子の体に手を当て魔力を流していた。魔法陣がいっそう光り始め、ジークが再び苦しみ始める。
「エド!」
ジーク王子はまだ動けているから、かなりの魔力を入れないと回復してしまいそうだ。私が考えていたより、ジーク王子の体は魔力耐性が強かったらしい。私はありったけの力を出して、よろめきながらエドのもとに行く。
「サラ。僕は王子だ。今度こそこの国を守るために、最後までやらなくてはならない」
エドが私が来るのを止めた。それはエドの後悔とフィリップ殿下の決意が、混じり合ったものなのだろう。ここでジーク王子が助かってしまったら、きっと同じことを繰り返す。いや、今回のことでもっと残虐な行為をこの国でしようとするだろう。だからこそ最後は王族のエドが、責任を持とうとしている。それでも私の気持ちも同じだった。
「じゃあ、私も、王族としての責任を負うわ」
私はそっとエドの隣に座り、ジーク王子の体に残り少ない魔力を一気に入れていく。ジーク王子はうなり声をあげたが、もうその声は弱々しい。私だってあのままエドと結婚していれば、同じ王族だった。私だって王族としての責務を放棄したようなもので、私が死んだ後は王家にも迷惑をかけたことだろう。
「サラ、サラはもう……しなくていい……離れてくれ」
「私と結婚、したいん、でしょ……? じゃあ私も同じ王族として……背負うわ」
もう言葉を話すのも苦しい。それはエドも同じで顔は真っ青で、今にも倒れそうだ。ジーク王子も、もう抵抗ができず、ゆっくりと瞼を閉じた。
ジーク王子の体は、魔力持ちと同じ状態になっていたのだろう。キラキラと体が光り始める。その光は一瞬大きく光り、やがて1つになって空に登っていった。私達はその光景を、呆然と見ていた。
「終わった……」
私は緊張から解き放たれたことで、ガクリと力が抜けその場に倒れる。もう魔力はほとんど残っていない。今息をしているぶんだけだ。もうそろそろ尽きるだろう。それでも私達は国を守れた。2人でほったらかしにしてしまった責任を、今回はまっとうできた満足感はあった。
「サラ……」
目がかすんで見えないけど、横にはエドがいた。エドの苦しそうな息遣いが、あの日のエドを思い出させて辛くなる。私、エドを救えなかった。幸せにもできなかった。体の苦しさより、その事が私の胸を苦しめる。
「はあ……次はもう僕は……君と結ばれるまで、記憶を思いだすのはつらいな……30年は、長かった……また今回もダメだった……次はもう僕には、苦しいかもしれない……」
ポロポロと涙が出てくる。泣き顔を見せたくないのに、勝手に涙があふれて止まらない。
「また、君の涙を拭えない……」
エドの手が、パタリと力なく地面に落ちる音がした。エドの体は光り始め、天に登っていく。私の手もキラキラと光り始めた。頑張ってエドの方に手を伸ばすと、ほんの少しだけエドの手に指先がふれた。まだほんのりと温かい。
私は指先の温かさを感じながら、キラキラ光る自分の体を見ていた。
だいぶ時間が経った気がする。私はやっぱりあの明るい光の場所に居た。
ここも2回目ね。常連にはなりたくないけど、気持ちの良い場所だわ。そういえば1回目の時、私はエドの幸せを願ったのに叶わなかったな。
でも私、次は諦めない! 今度はエドとどんなに年が離れていても、私はあなたを必ず幸せにする。他の誰にも渡したくない。
エド、あなたはいつ現れるかわからない私のことを、30年も待ってくれた。だから今度は私があなたを見つけて、あなたと結ばれるその日まで、あなたが私を思い出すまで待ってる。
エド、待っててね。必ず、幸せにしてあげるから。
ああ、やっぱりここは眠いな……
私はゆっくり瞼を閉じた。
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