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16. エドとサラ
しおりを挟む「はい。これで苺5箱だ。また祭り当日にも3箱届けるよ」
ドサリと音を立てて苺が満杯に入った箱を下ろすと、甘い香りが店の中に広がる。苺だけでなくたくさんの果物を使ったジャムやお菓子が評判のこの店は、俺の果物屋のお隣さんだ。
「おお! つやつやで香りも良くて、甘そうな苺だな! 5箱は重かっただろう。新作のケーキ食べてけよ」
俺の家は親父の代で農家から果物屋になって、30年はここに住んでいる。この隣の店は10年前に「変わった果物を扱ってると聞いて便利そうだから」と、引っ越してきた。
3年前に亡くなった親父なんか最初は「俺の店の果物を使って、まずいジャム出しやがったらただじゃおかねえ」なんて言ってたが、この店のジャムを食べたとたん「俺の店の果物を使ったと宣伝しろ」だもんな。親父が寝返るくらいのジャムの味はあっという間に街で評判になって、今では貴族まで買いにくるほどの有名店だ。
「ちょうどここが届け先の最後だったから、たすかる」
「何が最後だ! 開店前の空き時間を狙って来てるくせに」
「新作の評判を気にして、誘ったのはお前だろう?」
「付き合いが長いと、これだから嫌なんだ」
いつもの調子で軽口をたたきながら店に入ると、俺のズボンを何かが引っ張った。少しよろめいたがいつもの様にその可愛い何かを踏まないよう、くるりと振り返る。
「お父さん!」
小さな手で俺のズボンをぎゅっと握りしめ、こっちを見上げるのは5才の愛娘「サラ」だ。ニコニコして店の主人を見つけて、行儀よく朝の挨拶をしている。
「おはよう! サラちゃん。ちょうど良かった! 君のお父さんから仕入れた、甘い苺を使ったクレープを出してあげるよ」
「苺! クレープ!」
「良かったな。サラは苺が大好きだもんな」
「うん! サラ、果物の中で苺が一番好き!」
娘が頬を苺色にするくらい喜んでいるのを見ると、果物屋で良かったとつくづく思う。
「わあ! お店の中に苺いっぱい! たくさん使うんだねえ」
さっき店に届けた5箱の苺を、まじまじと見て驚く姿も可愛い。そのうえ苺に触れないように手を後ろに組んで、鼻を突き出して香りをかいでいる姿はもっと可愛い。とにかくうちの娘は、姿もやる事もぜーんぶ可愛い!
「そうか、サラは前の祭りの時は2才だったから、知らないのか。この苺は王都の大通りでやる、苺祭りで使うんだ」
「苺祭り? すごい! お祭りあるの? 行きたい!」
「3年に1度やるお祭りでな。苺を使ったお菓子やジュースはもちろん、苺柄の服や小物もあるぞ」
そう言うとサラの目はキラキラと輝き、「絶対行く!」とまた俺の足にぎゅっとしがみつく。サラに可愛い苺柄のワンピースでも着せれば、さぞかし可愛いだろう。そんな事を想像していると、サラが質問してきた。
「他にも果物のお祭りある?」
「いや、この苺祭りは特別なんだよ」
「とくべつ……?」
この祭りのきっかけを話すか迷ったが、もうすぐ学校にも通うようになると習う事だし簡単に説明することにした。
「この祭りはな、昔悪い国の王様がこの国を攻めてきて……」
「せめてきて?」
「戦争を…」
う~ん、どうやって説明しようか? 困っていると店の奥から、ひょいっと「アイツ」が顔を出した。
「王子様と女の子が、この国を救ったんだよ!」
「エドワード!」
俺のズボンを掴んでいたサラはエドワードを見つけると、一目散に駆け寄りしがみついている。くそう、エドワードめ。すぐ俺からサラを奪いやがって!
このジャム屋の息子であるエドワードは、サラと同じ年の幼馴染だ。でもちょっと最近、仲が良すぎないか?そんな俺の気持ちも知らず、2人の話は盛り上がっている。
「絵本で読んだ! 悪い国がこの国の王様を襲ったけど、王子様と女の子がやっつけたんだ!」
「王子様と女の子が? 2人で?」
「そう! かっこいいよな!」
「すごいね!」
サラがまるでエドワードが敵を倒したような目で見るから、大人気なく口をはさみたくなる。
「王子よりもその女の子の方がすごいぞ。10歳の女の子がいたからこの国は今平和なんだ」
「女の子? 女の子も戦ったの?」
「そう、女の子が悪者をほとんどやっつけて、その後王子様と一緒にこの国を救ったんだ」
「女の子がそんな事したなんて、もっとすごい!」
俺がしたわけじゃないのにサラが瞳を輝かせてこっちを見るから、変に照れてしまう。
「それでこの国を守った女の子の大好物が苺だったから、3年に1度その女の子のためにお祭りをするんだよ」
俺がそう言うと、サラは不安げな顔をしている。どうしたんだ?と思っていると、俺のズボンをぎゅっと握りながらおずおずと聞いてきた。
「……もう、その悪者、来ない?」
「すまん! この話怖かったか? 今はもうこの国と仲良しの国ばかりだから、襲ってくることは無いぞ! でも安心しろ! サラに何かあっても父さんが」「サラ大丈夫だからな! 誰が襲ってきても、俺がサラを守る!」
エドワード! 俺にかぶせてくるんじゃない! まったく認めるのはしゃくだが、エドワードの言葉を聞いたサラは頬を苺色にして喜んでいる。あっという間に2人で手をつないで、クレープを食べに行ってしまった。
まあ、それでも50年も昔のことだがこの国を襲ってきたキース王国はなくなり、今では我が国の領土になった。俺も時々果物の仕入れで元キース王国の土地に行くが、年老いたその土地の者はみんなキース王国がなくなった事を喜んでいる。そうとうひどい王族だったのだろう。サラが生きているこの時が、平和でなによりだ。
それにしてもあの2人……食べ始めてもどちらかが「クリームついてるよ」「ふいてあげる」だの、なんだか近づけない雰囲気を出すようになってる。え? これいつから? サラ、お父さんがいるの見えてないのか?
ニヤニヤした店主が俺の肩をポンと叩いたが、まだ認めない。
しかし俺の予想以上に、2人の仲は進展していく。あの時5才だった2人は学校に行くようになっても、べったりと2人でいるらしい。サラはもちろん可愛いが実はエドワードも見事な金色の髪に青い目をして、まるで王子の様な美形だ。それなのにどんなに可愛い女の子が話しかけても、すぐサラの所に行ってしまうらしい。
そしていつも2人の世界に入ってしまうので、8才にして子供はもちろん大人達からも「2人は結婚しそうだな」なんて言われる。だが、まだ認めない。
そんな2人の事で今でもよくわからない出来事が1つだけある。2人が遊んでいるのを見ていたある日、サラが突然エドを見てこう言った。
「あ、思い出した! あなたエドじゃない!?」
今さら何を言っているんだ? と思ったけど、サラはきゃあきゃあ言って大喜びしている。反対にエドワードは「サラ、どうしたの?」と言って不思議そうだ。エドワードもよくわかっていないらしい。本当にあれはなんだったのか、今でもよくわからないな。
しかもその後俺を見て「お父さんもお父さんだ!」と喜んでいた。わけがわからないが、大喜びで抱きつく姿は可愛いから良い思い出だ。
まあ、そんな平和な日々を過ごしていたのだが、2人が10歳になった頃やっぱりこの日がやってきた。
「私たち、結婚します!」
ちょっと早いんじゃないか? 2人は手をつないで、両家族の前で結婚宣言をした。
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