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番外編

 幸せを運ぶ音

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「今日で19回目か……」


 僕は手にしているサラの魂が入った魔石を見つめていた。大切なサラの魂だ。ケースからそっと取り出し魔法陣の上に置き、僕の血を1滴垂らす。そしてサラを想いながら魔石と魔法陣両方に僕の魔力を入れて、魔術を発動させた。


 僕の体からたくさんの魔力が吸い取られ、汗が一気に吹き出してくる。手はぶるぶると震えてきたが、それでも魔力を流すのをやめるわけにはいかない。


 ようやく魔法陣に魔力の光が流れ始めすべての線に届く。しかし魔法陣の光は一瞬大きく広がった後、音もなく消えていった。


 ああ、また失敗か……
 またサラに逢えなかった。


 ガクリと力が抜け床に座り込む。慣れたはずの喪失感も挫折も憤りも孤独も、すべてが混じり合って僕を襲っていた。



 少し寝よう。昨日から全然寝ていない。正直寝ても取れる疲れではないことは、僕が一番わかっていた。この魔術はかなりの魔力を使うから体の負担も大きい。最初の頃は師匠と2人でしていたからまだ良かったが、今では歳を重ねたこともあるのだろう。体は悲鳴をあげていた。


「また1年後までお預けか……」


 ベッドに腰掛けると同時にめまいに襲われ、どすんと音を立てて体がマットレスに沈み込んでいく。サラに夢で逢えたら嬉しいという気持ちはもう無い。もう何回もサラの夢は見たけど、目覚めるとその後は絶望するだけだ。サラは僕の目の前で死んだのだから。



「サラ! サラ! お願いだ! 僕を置いていかないでくれ!」



 サラが部屋にかけた結界を力づくで破り扉を開けると、サラは眠っているように死んでいた。僕はその光景が信じられなくてサラの体をゆするけど、奇跡は起こらない。まだこんなに君の体は温かいのに……



 ああ、またこの夢か。もううんざりだ。いつの間にか眠っていたらしく窓の外には綺麗な星が見えた。顔を手で覆うが指の隙間から一筋の涙がこぼれ落ちる。



 なぜ僕はあの時サラにひどい事を言ったのだろう。なぜ君に追いつけなかったのだろう。追いついて君にぜんぶ謝れたらいいのに。すべてが後悔だらけで君の笑顔さえもう思い出せない。



「あと1回だ……次が最後のチャンスなんだ……」



 もう魔力を貯める力も弱っている。魔力の巡りも悪く薬は飲んでいるがあと1回が限度だろう。正直サラを呼び戻すことができても、僕の命はすぐにつきる。それでも君にもう一度謝れるなら、何も後悔はない。



 サラ……君に逢いたい。









「……ド、エド!」


 なんだろう? サラの声が聞こえる。また夢を見ているのか? でもまたこの夢から覚めたら1人で……


「エドったら!」


 あまりにも近くで聞こえてくる声に、ぱちりと瞼を開ける。目の前にはサラがいた。あれ? なんだか大人っぽいな。15歳には見えない。


「どうしたの? すごいうなされてたよ。寝汗もすごい」
「……え? サラ?」
「サラだけど? どうしたの?」


 そこでようやくここが現実で僕たちは生まれ変わって夫婦になっているのを思い出す。今は夜中で2人でベッドに寝ていた。



「夢を……見てたんだ」
「うん? 嫌な夢?」
「あの時の部屋で、サラを呼び戻せなくて、それでサラが死んでる夢も見て……」



 あまりにも僕が混乱した事を言ったからだろう。サラは「おいで」と言って僕の頭を胸元にぎゅっと押し付けた。



「ほら、私は生きてるよ」



 押し付けられた胸元からはトクントクンとサラの命の音がする。僕は目を閉じてその幸せの音を聞く。



「エドも生きてる。私も生きてる。ね?」
「ああ、本当だ。僕達は生きてる」



 そう言うとサラのお腹のあたりからポコっと小さな音がした。



「あ! この子も生きてるよ~だって!」
「はは! 本当だ。僕のことを忘れるな~って言ってるのかな?」
「女の子かもよ?」
「そうだったね。どっちでも嬉しいよ」



 僕達の声に応えるように、サラの大きなお腹からポコポコと音がする。ああ、幸せを運んでくる音だ。サラのお腹を優しくなでながら、まだ見ぬ可愛い僕達の子供に伝える。



「絶対に幸せにしてあげるからね」



 僕とサラはお互いを確かめ合うように唇を重ね、世界一幸せな気持ちでまた眠りについた。


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