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番外編
約束の証 01
しおりを挟む「ふう、疲れたぁ」
「少し休憩しようか」
結婚して1年後に開店した私達のカフェはすこぶる順調で、お客さんがひっきりなしに来てくれる。そのおかげで私達家族は3年後に少し広めの土地を買い、住居兼カフェを作った。中庭から母と子供達の遊んでいる声がカフェまで聞こえてくる。
結婚してすぐに妊娠した私だったが、産んだのはなんと男女の双子だった。どうりでやたらお腹が大きくなると思ったのよね。
女の子の「クロエ」はうすい金髪に青色の目のエドに似ていて我が子ながら美形だ。反対に男の子の「クリス」は私が男になったと言われるくらい生き写しらしい。考えている時に首をかしげる癖もそっくりらしく、私達が並んでいるとみんな笑ってしまう。クロエとエドが並ぶと友人たちは、ほうっと見惚れているんだけどね……
「お茶の準備できたわよ」
「ケーキも用意した」
私達のカフェは今日はお休みして、明日の苺祭りの準備をしている。苺祭りはとても好評で隣国からの観光客も多くなったため、3年に1度が今では毎年行われるようになっていた。
いろんな珍しいフルーツを使ったケーキやジャムが売りの私達のカフェも例年たくさんのお客さんが来る。カフェもそうだがお土産のジャムが飛ぶように売れるので、この1週間エドのお父さんはジャム作りにかかりきりだ。
私達はというとお祭り用の特別メニューとして、苺づくしでおもてなしするため準備に忙しい。お店の内装も明日ばかりは苺柄だ。それに合わせてテーブルには鉢に入った苺を置き、小物も苺のケーキが映えるよう真っ白に変えていた。
「なんとか準備が終わったわね」
「明日は朝早いから、今日は早く寝なくちゃな」
テーブルには明日から出す苺の紅茶の甘い香りが広がっている。乾燥された苺が入っていて砂糖を入れなくてもほんのり甘くて良い香りだわ。トッピングでミントをブレンドしてもさわやかで良いかもしれない……なんて考えていたところに双子のかわいい声が聞こえてきた。
「「おかあさーん 」」
振り返る間もなくクロエとクリスが私のところにやってきた。何か後ろに持っているようだけど、なにかしら?
「おかあさん! 絵本よんで」
クロエが後ろ手に持っていた絵本をサッと私の前に差し出した。なんだ、絵本だったの。私はクロエから絵本を受け取り、表紙も確認せずに開いた。母達がたくさん絵本を買ってくるから、毎日なにかしら読んでいる。昨日は花の妖精の話だったけど、今日はなんの絵本かしら。
「はいはい。じゃあ読んであげ――」
――たくない! この絵本は読んであげたくない!!
なんと娘のクロエが持ってきたものは、あの戦いを描いた例の絵本だ。おかしい。私が頑張った証として持ってはいたけど、倉庫の奥深くに封印していたはずなのに! なぜここにあるんだろう?
もしや? とエドを振り返ると、エドも目を丸くして驚いている。私と目が合うとブンブンと頭を振って「僕じゃない」と否定していた。ということは、たぶん母達のどちらかが買ったのだろう。そんな私達の動揺など知らずに、クロエとクリスはワクワクした顔でこちらを見ている。
「「ねえ、読んで?」」
クロエはきょとんとした顔でもう1ページめくって、私が絵本を読むのをうながした。その時ガタリと音がしてエドが立ち上がる。
「さあて、僕は父さんの手伝いをしてこなくちゃな」
「エド」
1人だけ逃げようたってそうはいかない。私は立ち上がろうとしていたエドの服をつかみ、にっこりと笑いかける。エドは黙って再び椅子に座った。
「……すみませんでした」
「クロエ、お父さんのお膝に座って、読んでもらいなさい」
「わ~い! 抱っこ!」
私はすぐさまクロエを抱き上げエドの膝に座らせ、目の前に絵本を置いて広げる。クロエはワクワクした顔でエドを見上げ「よんで~」とねだり始めた。よし! これで逃げられない。エドは子供たちの自分を見上げる顔に特に弱い。
「わ~……そういう手できたか」
「なにか言った?」
「いいえ、なにも」
最近はまわりにエドはサラの尻に敷かれているなんて言われるけどしょうがない。母は強しなんだ。ずぶとくなったわけじゃない。たぶん。
クリスが「僕も!」とせがむので私もクリスを抱き上げ膝に乗せエドの隣に座る。そうして例の絵本の読み聞かせはエドのため息と共に始まったのだった。
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