21 / 25
番外編
約束の証 02
しおりを挟む「じゃあ、読むよ」
エドが神妙な顔をして絵本のページをめくる。正直子供の頃に学校で習ってからは、前世の戦いのことはすっかり忘れていた。楽しい記憶ではないということもあるけど、もっと忘れたい恥ずかしい出来事があったからだ。
だって前世の記憶がなかった5歳の私は「悪者をやっつけるなんてすごい!」とか「女の子が戦ったなんてもっとすごい!」と自分を褒め称えていたんだから! ううう! 今思い出しても恥ずかしい……!
学校の授業だってそうだ。先生から偉人として自分のしたことを情熱的に話され、子供の頃言った言葉を思い出しては顔が真っ赤になった。
そんな私が今日愛する子供たちによって再び苦しめられるとは……。エドがこちらを見てこくんと頷く。私も「かかってきなさい」とばかりに頷き返した。
「これは聖女ローズと英雄フィリップのおはなし」
どうしよう、しょっぱなからキツイ。なんだかものすごく崇高な存在になってる。どちらかというと私なんて「死なせてたまるか」とエドのことしか考えてない私利私欲の塊だったのに。
「むかしむかし平和なこの国に、となりの国から悪い王子がやってきました」
子供たちは「こわ~い」など相槌を打つのでものすごく可愛い。クリスをぎゅっと抱きしめると、こちらを見上げて笑いかけてきた。クリスの可愛い笑顔のおかげで、落ち着きを取り戻してきたわ。かかってきなさい。
「悪い王子はこの国を自分のものにしようとたくらんでいました。しかしそれを知り、立ち上がった1人の少女がいたのです」
ダメだ。嫌な予感しかない。私はガクリとうなだれクリスの頭の匂いをかぎ再び落ち着きを取り戻そうとする。子供のしっとりした匂いって本当に癒やされる。
「その名もローズ。その少女は言いました。私がこの国を守ってみせると」
言ってない。そんなこと一言も言ってない!
「すると王子が言いました。僕も一緒に戦おう!」
そ、それは似たような事を言ってたかもしれない。なんだかエドの表情が誇らしげに見える。たぶんフィリップ様の感情が出てきてるんだろうな。
「2人は悪い王子がいる場所にのりこんでいきます」
全然違う。お茶をしてエドとイチャイチャしてたら、勝手にさらわれただけだ。このあたりから絵本はどんどんおかしくなっていく。
「フィリップはドラゴンの剣を持ち、悪い王子に飛びかかります。ローズは薔薇の杖で魔法を使いました」
え……? ドラゴンの剣? 薔薇の杖? なんのこと? 思わずエドを見るとエドもこっちを見て首を傾げている。絵本をのぞきこむとたしかにフィリップが剣を、ローズが先端に薔薇がついた杖を持っている。次のページをめくるとローズは杖から稲妻みたいな攻撃の光を出していた。フィリップの剣はドラゴンを召喚している。
「ふ、2人は、ち、力をあわせて……悪者と戦います……ふっふふ」
もうエド、笑っちゃってるじゃない。私はあまりの捏造に呆れて口をあんぐりと開けていた。
「とうとうローズとフィリップは悪い王子をたおし、この国は平和になったのです」
幼児向け用の絵本なので文字が少なかったが、それでもこれだけ違うとは。前世に関する本を見ないようにしているうちにかなり事実を捻じ曲げられていた。悪い王子と戦って勝ったという大筋だけが残っている。
「聖女ローズと英雄フィリップの魂は、ずっとこの国を見守っていくことでしょう。めでたしめでたし」
そう言ってエドが絵本をパタリと閉じると、双子はそれぞれ膝から降りドタバタとキッチンに入っていく。なにごとかと見守っているとクロエは泡立て器をクリスはフライ返しを持ってきた。そしておのおのキッチン道具を天井に向けてかかげ、キラキラした目でこっちを見ている。
「わたし薔薇の杖がほし~い」
「ぼくも! ぼくもドラゴンの剣ほしい!」
そのポーズはさっき見た絵本の真似なのね……。 もう変な興味持っちゃって。私とエドはあまりの可愛さにクスクス笑いながら答える。
「絵本のお話だから剣や杖はどこにも無いでしょう? こればっかりはねぇ……」
むしろ早く忘れてほしいと思っていると、双子は首をかしげキョトンとした顔でこう言った。
「「売ってるよ!」」
う、売ってる!? 2人の発言に思わずガタッと椅子から立ち上がってしまう。
「はあ!? 売ってる? どこで?」
「お祭りのお店にたくさん杖あるよ?」
「ドラゴンの剣もいっぱいあった!」
「「ねえ、買って~」」
双子がじりじりと近づいてきて私にガシっと抱きついてくる。返答に困っていると外からよく知ってる声が聞こえてきた。
24
あなたにおすすめの小説
『嫌われ令嬢ですが、最終的に溺愛される予定です』
由香
恋愛
貴族令嬢エマは、自分が周囲から嫌われていると信じて疑わなかった。
婚約者である侯爵令息レオンからも距離を取られ、冷たい視線を向けられている――そう思っていたのに。
ある日、思いがけず聞いてしまった彼の本音。
「君を嫌ったことなど、一度もない」
それは誤解とすれ違いが重なっただけの、両片思いだった。
勘違いから始まる、甘くて優しい溺愛恋物語。
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜
きゅちゃん
恋愛
名門エルトリア公爵家レオンと婚約していた伯爵令嬢のエレナ・ローズウッドは、レオンから婚約破棄を宣言される。屈辱に震えるエレナだが、その瞬間、彼女にしか見えない精霊王アキュラが現れて...?!地味で魔法の才能にも恵まれなかったエレナが、新たな自分と恋を見つけていくうちに、大冒険に巻き込まれてしまう物語。
冷徹と噂の辺境伯令嬢ですが、幼なじみ騎士の溺愛が重すぎます
藤原遊
恋愛
冷徹と噂される辺境伯令嬢リシェル。
彼女の隣には、幼い頃から護衛として仕えてきた幼なじみの騎士カイがいた。
直系の“身代わり”として鍛えられたはずの彼は、誰よりも彼女を想い、ただ一途に追い続けてきた。
だが政略婚約、旧婚約者の再来、そして魔物の大規模侵攻――。
責務と愛情、嫉妬と罪悪感が交錯する中で、二人の絆は試される。
「縛られるんじゃない。俺が望んでここにいることを選んでいるんだ」
これは、冷徹と呼ばれた令嬢と、影と呼ばれた騎士が、互いを選び抜く物語。
あの、初夜の延期はできますか?
木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」
私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。
結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。
けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。
「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」
なぜこの人私に求婚したのだろう。
困惑と悲しみを隠し尋ねる。
婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。
関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。
ボツネタ供養の短編です。
十話程度で終わります。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
悪役だから仕方がないなんて言わせない!
音無砂月
恋愛
マリア・フォン・オレスト
オレスト国の第一王女として生まれた。
王女として政略結婚の為嫁いだのは隣国、シスタミナ帝国
政略結婚でも多少の期待をして嫁いだが夫には既に思い合う人が居た。
見下され、邪険にされ続けるマリアの運命は・・・・・。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる