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シーズンⅠ-22 年の瀬(三)

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 二〇〇七年もあと十日で終わる少し慌ただしい中、君子は有佳と約束した場所に向かっていた。

 君子はもう一枚の画像を手に入れることで頭が一杯になっている。

 何を指示されるんだろう、何をすれば貰《もら》えるんだろう。

 どうしても手に入れたい。

 いま向かっている場所は、お付き合いして初めて有佳が指定してきた場所だ。

 北部市中心市街地に複数あるホテルの一つだった。

 ラウンジにある軽食コーナーで会う約束になっている。

 君子は少しお洒落をして最近買ったスカートを選びヒールが高いショートブーツで出かけた。

 初めての場所だった。

 約束より二十分も前に着いたというのにラウンジには有佳がいる。

 有佳も時間に正確な方だがここまで早いことはなかった。

 少し新鮮な感じだ。

 有佳が先頭に立ち、席についた。

 座ってみたら、人ひとりがすっぽり入れる少し低めの椅子で背もたれが前に向かってアーチ型になっているので肘《ひじ》を置ける。

 高いヒールを履いているのでテーブルの方が膝《ひざ》より低い、天版がガラスになっている。

 ケーキをチョイスしてコーヒータイムを楽しんだ。

 こういう場所では、言い合いにならないし無言でゆっくりしていられる。

 有佳が忘れていなければ何か言われるだろうが、それがどんなことでも従うと決めて君子は来ている。

「君子。もうすぐ一年だね」

「はい、私と話ししててどうですか。楽しいですか」

「それはどうかな。だって君子だし」

「いじわるですね」

「この前さぁ。君子言ってたよね対等がどうのこうのって」

「あれは、有佳さんが変なこと言うから」

「対等なら、一つおかしなことあるの知ってた?」

「なんでしょうか」

「初めて会ったとき私の見たよね」

 始まったと思った。

「それは・・・」

「対等の意味ってなんだと思う?」

「・・・・・・」

「言えるよね」

 有佳が先に立って壁側を背にして座ったことはこういうことだったんだ。

 確かに有佳以外に見られる心配はなさそうだけど、この場所でって思うだけで恥ずかしくなる。

「意味は。私のもということだと思います」

 優しい顔が目の前にある、崩すこともない。

「少し見せて終わりなんて思ってない? もし思ってるならそんな考えは今すぐ捨てること」

「はいっ」

 あぁっ、どうしよう。

 声が上ずってしまった。

「少しお待ちください」

 君子は席を立ちお手洗いに向かった。

 考えた挙句に君子はショーツを脱いでパンストだけを履き直した。

 思い切ってセンターシームの周りを手で破り、バックの中から鼻毛切りハサミを取り出してセンターシームを切断した。

 これで有佳にすべてを曝《さら》け出す覚悟を整えた。

 もう一枚の画像を手に入れることができるためならなんでもする。

 席に戻ると有佳はすぐに声を掛けて来た。

「私がいいと言うまで続けること、勝手に始めるのもだめ。私がいいと言ってから始めること。最初から全部見せるの。どうするかは自分で考えるんだよ」

 それからは、長い沈黙が続いた。

 君子は自分の中心部が信じられないことになり始めているのを感じ、このままでは有佳の顔がまともに見られそうにない。

 君子は欲情していた。

「始めなさい」

 君子は斜めに揃えていた両足を正面に戻し、それから椅子の縁に向かって両足を徐々に開いた。

 両肘《りょうひじ》を背もたれと一体になって繋がっているアーチ型の上に置いて、スカートが弛《たる》まないように両手の指で少し引っ張った。

「これでよろしいでしょうか」

「いいわ。始めるまで何を考えていたの」

「恥ずかしいと思っていました。有佳さんに見られると思い」

 有佳はじっと君子の中心部に目を向けている。

 まともに目を合わせられない。

「すごいことになってるけど」

「申し訳ありません」

「もっとでしょ。たっぷりいたぶって欲しいんでしょ」

「そんな」

 有佳を見ると携帯のシャッターを君子のスカートの中に焦点を当てて押している、その度にフラッショが炊かれる。

 ここは軽食コーナーなのにと思うと周りが心配になってきたが有佳は平然としている。
 
 有佳が身を乗り出して接写しているのでフラッシュの光は案外周りに気付かれていないのかも知れない。
 
「広げて見せて」

 君子はスカートのホックを外してファスナーを下げ右手を中心部に向かって差し入れた。

「これでよろしいでしょうか」

「いいわ。しっかり映してあげる」

「・・・・・・」

 またシャッター音がした。

 そして、前かがみになっていた有佳の体勢が元に戻った。

「よしっと。私の画像が欲しいんでしょ」

「はい、欲しいです」

「タダであげるわけないでしょ。自分でやってイクのよ。それを見たら考えてあげる」

 君子は有佳の顔だけを見ていた。
 
 広げるために差し入れられていた右手を使った。

「だらしない顔してるけど」

「・・・もっと」

「もっと、なに?」

「もっと言葉を頂きたいです」

「あげるわけないでしょ」

「・・・そんな」

「ほら、もうダメなんじゃないの」

「イッてもいいでしょうか」

「ダメに決まってるでしょ。はい、おわり。やめなさい」

「えっ」

「こんなところでイケるとでも本気で思ってたの、この変態おばさん。頭おかしいんじゃないの」

 有佳から携帯を出すよう言われた。 

 君子が手渡した携帯を持って有佳は席を立っていった。

 君子はファスナーもホックも元に戻しながら有佳から投げつけられた言葉に酔ってしまっている自分を呪った、情けない。

 私は頭がおかしいんだと思う。

 言われたことを場所もわきまえずになんでもやってしまう自分が恐ろしくなる、あり得ないリスクの中にいるのに周りが見えなくなる。

 落ち込む。

 結構な時間が経ったが有佳は戻って来ない。

 心配し始めた頃にやっと戻って来た。

「はい、これに収めといたから。見なさい」

 手渡された君子の携帯には有佳の中心部の画像が何枚か入っていた。

 すべてはっきりと映っていて最後のは凄かった。

「私のを持って行って撮ってくるのよ。さっきの続きをしてきなさい」

 有佳の携帯を手渡された。

 君子はもう一度お手洗いに立ち、個室に入り有佳が映した状況となるべく同じになるように映した。
 
 左手中指のすべてが中心部の中に隠れているものや、果てた後を自らの指で広げているのも撮った。

 君子の頭の中は命じられたことをやり遂げることだけで占められている。

 他の事は考えられない。

 命令をやり遂げた達成感も混ざり、席に戻ってからは有佳の眼を見て携帯を渡すことができた。

 ・・・なのに。

 別れ際に有佳から「しばらく会えなくなる」と言い渡された。
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