夢のありか

生徒

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 今日の天気、雪ときどき晴れ。

 暖房の効いた教室とは裏腹に、綺麗に雪化粧された世界が外に広がっていた。窓に垂れる結露もその寒さを伝えている。

 昨夜、珍しく10センチもの積雪があった。しかし、都会の盆地なので普段は雪なんて滅多に降らない。数十年ぶりの積雪量らしく、昨夜も今日も飽きずに盛り上がっていた。

 なにしろシベリア気団が爆弾低気圧とやらをもたらし、この珍しい積雪と寒波を作り上げたそうだ。

 彼女と出会ったのもこんな雪の日だった。

 雪の似合う女性であった。生まれつきの白く細い髪が特徴的で僕も目を奪われた。ほとんど雪と同化していた彼女を見つけたのはある種の奇跡だろう。
 

 感慨に耽っていると、何やら外が騒がしい。

 野次馬をかねて集団の一番前に出る。

 綺麗な白髪の女性が歩いていた。端正な顔立ちに幼い顔つきとまるで、昔の彼女の様だった。


 違う、彼女そのものだった。


 僕は驚きを隠せなかった。間違いない、僕の心を支配していた、まさに探していた彼女だったのだ。

 いても立ってもいられず、教室から出て廊下に立ち彼女に声をかける。

 「あ、あの」

 彼女は僕をみとめると、目を丸くして、そして穏やかに軽く首をかしげた。

 「こんにちは、お久しぶりです。また会えましたね」

 彼女はふふっとイタズラっぽく笑いながら、僕の手をとってぎゅっと抱きしめてきた。

 彼女の暖かい手が僕の手へそして背中へ。彼女と僕の鼓動が呼応して連続的に高鳴る。

 僕よりも少し背の大きな彼女は上から囁くように言葉を続けた。

 「元気にしてましたか? 昔のお約束覚えてますか?」
 「うん、覚えてる」

 答えると彼女は更に強く僕の体を引き寄せてゆく。僕も吹っ切れてしまって彼女の腰にそっと手をおいた。

 「お返事を聞けなかったことは深く私も悔やんでおりました。でも、今日やっと会えたことが私にとって一番の宝物ですし、一番望んでいたことです」

 彼女は僕だけが聞こえるように囁く。そして、一方的に伝え終わると、僕の脇からするすると腕を抜いてしまった。

 興奮さめやらぬ僕を横目に、彼女はそのまま教室へと入っていった。頭が真っ白になった僕はその場で立ち尽くし、廊下の寒さを感じるのであった。
 
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